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影武者の勇者  作者: 夢幻遊夢
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死なずの森

アースベルが額に手を当てて盛大なため息を吐いた日の翌日。

元々男女別に宿を取っていたので計4つの宿の1室にそれぞれガライア、ササラ、スカイトが各自の武器装備品等と共に各1人づつ。

後の2人は同じ部屋から集合場所へと向かう。


朝食は現在仲間では無い。と宣言されている為、勇者パーティとガライア達は別々だ。

故に集合場所は死なずの森の入り口付近、つまり現地集合である。


で、ガライア達が現地に到着してみれば何故かアースベルとタカトは手を繋いでいた。

しかも所謂恋人繋ぎで、だ。


「うぅぅ…」


恥ずかしいのか、嫌なのか。

どちらかは不明だが、タカトは涙目になりながらも懸命に手繋ぎを外そうと躍起になっている。が、アースベルは涼しい顔で。


「遅かったね、準備は大丈夫?」


などと爽やかな笑みでガライア達を出迎えたのである。


そんな2人を見たガライア達はもしかして…。と。

えっ、アレってそういう意味…?と何かに思い当たり、ドン引きしてしまった。


「ちょっ!違うからね⁉︎勘違いしないで⁈」


現状では元が付くが、仲間達の態度にある疑惑が浮上してしまったのだと気付き、タカトは悲鳴のような否定の声を上げる。

が、視線を逸らされてしまった。


「ち、違ッ」

「準備は良い?じゃあ早速クエストへ行こうか

…あ、僕らは後ろからついて行くだけだからよろしく」


タカトの否定の言葉に被せてアースベルがガライア達に先を促し。

恨みがましい眼でアースベルを睨むタカト。

そんな2人の疑惑を横に置いていても勇者パーティの一員である。という、ある種の称号、もしくは勲章的なモノは得難く、また変えがたい。

なのでガライア達の選択した行動は変わらない。


死なずの森クエストを攻略する、である。


勿論、Fランククエストで簡単だからでもあるし、疑惑の2人が…見た感じアースベルが一方的であるように見受けられるのだが…であったとしても、共に戦っていた時にはそのような態度は一切無かった。

否、共にいた時にですら無かった…ように思う。

であれば共に戦う仲間としては勇者であるアースベルは最高以上である。


だから多少ーーーあまり人目がある所ではして貰いたくは無いのだがーーー目を瞑っても有り余るのだから何としてでも元のパーティに戻りたい。

そう思うのは至極当然で。


様々な思惑を抱えながら先陣を切ってガライアが。

ササラを真ん中に据えてスカイトが後方をーーーやや離れたところでアースベルと手を繋がされたタカトがついて来るのをかなり気にしつつーーー森の中を突き進んで行く。


そして数刻後。


「くそッ、どうなってやがる⁈」


金鳥が巣作りしている場所まで後半分弱。

前回であればもう辿り着いていたであろうくらいの時間を浪費している筈なのに未だ半分にも満たない距離しか進めておらず、ガライアは苛立ちを隠せない。


「今日はアースベル様が近くにいらっしゃらないから少し手間取っているだけで、問題ありません

だからガライア、落ち着いて

なんなら少し休憩にしましょう?

スカイトも良いでしょ?」


以前よりも魔物に襲われる頻度が多く、幾度と無く戦闘を繰り広げたのだからガライアもササラも息が上がってしまい、それによっての苛立ちであろうと考えたササラは自分の休みたい気持ちを棚上げにしてガライアの為に休憩するのだと、恩着せがましくスカイトにも同意を求めた。


「あぁ、構わない

少し休憩にしよう

…ところで2人は何か飲み物や食べ物など持って来てはいるか?」


自分の返事を聞くなり木の幹を椅子代わりにして座り込むササラと、どっかりとその場に座り込むガライアを見てスカイトは軽い溜息を吐き出すと共に、ふと気になった事を聞いてみたのだが、返事は


「Fランククエストだぞ?

しかも超がつく程簡単な」

「荷物になるし、持って来る訳無いじゃない…」


っといったものだった。


「それにタカトが居れ…ッ!」


ササラは自分が何を言いかけたかに思い当たり、思わず掌で口を覆う。

ガライアもササラが言いかけた事を考えていただけに、奥歯を噛み締める。


「…そんな事だろうと思ったよ」


ほら。っと、スカイトは荷物袋から取り出した三つの水筒を一つづつガライアとササラに手渡し。

残りの一つに口を付ける。


「や、やっぱり俺たちのパーティにタカトなんかいらねぇな!」

「そ、そうそう!

今回は普段していなかったから気が回らなかっただけ

荷物はこれからスカイトが持ち歩けば良いし、タカトなんて要りませんわ」


スカイトへの感謝の礼をお座なりにし、喉を潤した2人はお互い好き勝手に言い。

身軽さが売りのスカイトに荷物持ちをさせるのは愚の骨頂であるが、一度不要としてしまった人物に頼るような事はしたくないという二人のある種のプライドも分かるが故にスカイトも思う所はあるものの、それについては何も言わず。


「雨が降りそうだから全体的に森が暗く感じているのだと思っていたのだが、なんだか前回の森とは雰囲気が違う気がしないか…?

それこそ、Sランクくらいのダンジョンような…」


ふと過ぎる嫌な予感に視線を地面に向けながら思案げに呟く。


「え、Sランクダンジョン…?」

「ば、ばか言うな、スカイト!

ここはFランクの森だぞ⁈

Sランクであってたまるかっ‼︎」

「そ、そうよそうよ!

違う…違うんだから!

変なこと言わないでよね、スカイト‼︎」


ガライアもササラも不穏な気配を感じている。

感じてはいるのだか、それを口にするのは憚れた。

口にしてしまえは本当の事になってしまいそうだから。


だが、過ぎる不安は消せず


「どうする?もうやめる?」


そんな彼らの様子にアースベルは潮時かな。と思いながら声を掛ける。


「あ、アースベル様⁈

い、今まで何処に⁉︎」

「きゅ、急に現れないで下さいっ

びっくりしましたわ」

「何処に、もなにもずっと側に居たけど?」


えっ…⁈っと異口同音の驚きを示す3人。

それもそのはず。

ずっと側に居たのならば少なくとも魔物との戦闘は避けられない。

それだけの魔物の襲撃を対処して来たのだから間違い無い。

にも関わらずアースベルが戦う姿を見てはいないどころかその姿すら見ていなかった。

タカトは支援職に全振りしていて自らが戦う事すらしないので言わずもがな、だ。

であるならば、生き物であれば誰しもが備わっていると言われるオーラ。

通常は見ることすら叶わないそのオーラは勇者や魔王、また一部の者達が最高位と言われるほど巨大であり、巨大であればあるだけ野生であるだけに敏感に感じ取るのか、弱い魔物は恐れ敬い近寄らないとされている。

その効果でアースベル達の方には魔物が近寄らなかったのであろうか。

だがそれならば近くに居た自分達にもその恩恵はある筈だ。

でも自分達は魔物の襲撃をこれでもか!というほど受けた。

とすると、だ。

もしかしたらアースベルはオーラを自分の極僅かな周辺しか放出していなかった。

だからアースベルはタカトを守る為に手を繋いでいる。のだとしたら…辻褄が合うような気がする。

…というか、思いたい。


という結論をそれぞれに弾き出した3人はもぐもぐとタカトお手製のオムスビを食べているアースベルを視界に入れた瞬間、無意識に唾を飲む。


オムスビとは彼の住んでいた里に伝わるモノらしく、オコメ。またはハクマイと呼ばれるモノの真ん中辺りに焼いた魚やタレの付いたお肉などを乗せて、それをそのまま三角等に握り込んで作られるモノである。

冷めても美味しいし、手軽で持ち運びやすく、またオコメやハクマイが手に入ればほぼ誰でも作れるので冒険者ギルドと提携してダンジョンやクエストに行く者達向けに店まで出店していたりする。

しかも冒険者で無くとも買えるようにしているらしく、食事を作るのが面倒になった主婦層や独身者。

また子供がオヤツ感覚で買いに来たりと、かなり繁盛しているらしい。

だからタカトは正直言って冒険者をしなくとも生きていけるのだ。

支援職全振りで一切戦えないタカトにガライア達はいずれ自分達の戦いについて来れなくなるだろう。

無論、支援職への侮蔑染みた感情もあるにはあるのだが、一応は仲間であった者だし、冒険者をしなくとも生きていけるのであればそちらの方がタカトの為である。


…そう考えて憎まれ役を買って出る事にしたのが今の現状なのだが、タカトお手製のオムスビだけは別だ。


なんでも原材料が少なく、また手間暇等が掛かる故に市場に出回る事は皆無。

何処でも食べられるモノでは無く、唯一食べられる事を許されているのが勇者とそのパーティのみ。

つまり、現状ではアースベルのみであり、その彼がタカトが得意としているであろう異空間収納から取り出した、まだ温かく、通常のオムスビでは有り得ない香ばしい匂いが辺りを漂うお手製オムスビを美味しそうに食べている。

小腹が空いたくらいには空腹ではあったのだが、お手製オムスビを食べた時の衝撃。

また感動が甦り、唾を飲み込むのは致し方無い事なのかも知れない。


「で、どうするの?」


そんな彼らの様子にアースベルはタカトお手製オムスビは特別だものな。なんて少し優越感に浸りながらも改めて問い掛ける。っと、3人はハッ!とした表情を見せた。


「も、勿論続けますよ!」

「はい、休憩は終わりです

行きましょう、もう一踏ん張りですわ」

「あぁ、そうだな…」


慌てた様子で軽い身支度を整え、ガライア達3名は足早に目的地へと歩を進め。

そして魔物の襲撃を追って来るモノだけ対処する事にして、遅れた時間を少しでも取り戻そうとした彼らはお昼時を過ぎた時間くらいに漸く目的地の近くへと到着したのであった。


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