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生命の宝玉



 一体全体、どうしたんだというんだ。

 

 異様な地響きが聞こえるので急いで来てみればザクロが血だらけで倒れている。


 ニュートは頼まれていた仕事を終え、ザクロと合流するため、集合場所へ向かっていた。そこへちょうど地響きが聞こえ、心配になり、ちょうど祭壇へ駆けつけたところだった。


 「ザクロ、しっかりしろ何があった」

意識が朦朧としているのかザクロはうわごとのように呟く。「おれを、宝玉のところまで、連れて行ってくれ……。扉には触るな。開け方は遺跡の入口の柱に書いてある……。早く……。」


 宝玉とはルーシャゴン聖石のことだろう。確か別名が生命の宝玉。周囲に自然的な絶景を生み出すことから昔の王族に気に入られていた物。その原理は宝玉の周囲に存在する、生命的な物、それこそ、細胞やマナ、ソウルを活性化し、急成長させるから、だったか。とそこまで考えて、ピンとくる。そうか。この大怪我を宝玉に触れることによって直そうってことか。早くいかなければ。ザクロが死んでしまう。


 急いで、扉へ走り出そうとしたニュートをザクロは止めた。


 「待てっ、ニュート……。」ザクロの言葉にニュートは足を止める。「駄目だっ。扉に触れてはいけない……。開け方がある。この遺跡の入口の柱、そこに開け方が書いてある。早く……。頼む……。」とそこでザクロの意識が途絶えた。心臓が締め付けられたかの様に息が苦しくなる。これは一刻を争う事態だ。ニュートはすぐに方向転換をし、入口へ駆けた。


 一体何があったのか。ニュートは考える。しかしここに来るまでに答えは出ていた、まさかとは思っていたが、祭壇の荒れ具合を見て確信した。ザクロは誰かと戦っていたのだ。そして負けた。それが信じられないのだ。戦闘でザクロが敗北するなんて想像もできない。

しかし、現にザクロは重傷を負い、身動きを取ることすら出来ない状態だ。一体、誰が。当然、思い当たる人物は浮かばない。走りながら考えているうちに入口についた。


 「どの石柱に書いてるんだ。クソッ」


 入口には、何本もの石柱があった。祭壇側からパッと見渡して、石柱に文字が書いてあるようには見えなかったので裏側に書いてあるのだろうと思った。


 どこだ。どこにある。走りながら何度も振り返り石柱を確認していく、焦れば焦るほど、何本か柱を見逃している気分になる。戻って最初から丁寧に見直した方がいいか。いや、でも一番奥にあった場合、余計に時間がかかる。やはり、一番奥まで見てから引き返した方がいいか、いや、でも。思考が逡巡する中、文字が刻まれた柱が通り過ぎた気がした。すぐに引き返し。確認する。これだ。


 『お見事。君がこれを見ているということは僕は死んだのかな。きっと楽しい戦いだったんだろうね。僕がどこまで君に喰らいつけたのか本当に気になるよ』


 どうでもいい。早く本題を。


 『ああ、そうそう本題だったね、扉の開け方。思ったよりも簡単だよ。像に自分の血を綺麗に塗りたくるんだ。その状態で、ソウルによりプロテクトをかける。そうすると像はソウルを感知できなくなって扉に触れることができるようになる』


 自分の血を?あんなにデカい像を血で染めるなんて、出来るのか。ニュートの頭の中は人間が耐えられる出血量の試算でいっぱいになる。一体、何リットルの血液があれば、像を血で染められるのか。そもそも本当に可能なのか、頭の中に様々な疑問が沸き起こる。違う違う。駄目だ考えるな。そうじゃないだろ。僕が今、やるしかないんだ。ザクロが生き残るには生命の宝玉の力しかない。


 ニュートは全力で駆け出し、階段を駆けあがる。


 「ザクロ、死ぬんじゃないぞ」


 大量出血で動けなくなることがわかっているのでザクロを扉の近くまで抱え、連れて行く。扉の前、ここなら、最悪、動けなくなっても、扉を開けて這いずれば何とかなるだろう。そうニュートは考え、ザクロを扉の前に丁寧に倒した。ザクロを抱えた自分の服にはべったりとザクロの血が付いている。赤というよりは黒く、その不気味な赤黒さは、死をイメージさせる。躊躇している暇は無さそうだ。


 ニュートは急いで像に飛び乗り腰に挿していたナイフを取り出した。


 空気を大きく吸い、歯を食いしばる。いくぞッッッッ!!!!。


 ナイフが自分の腕に突き刺さる。肉は抉れ、骨にナイフ突っかかる。信じられないほどの激痛にううぅぅぅぅううう!!!と悲鳴にならない声を上げてしまう。腕から溢れ出た血液は像に流れ、顔に赤い絵の具で縦すじを描くかの様に血が垂れていく。目にある窪みに血が溜まり、ある閾値を超えるとそれは涙の様に流れ落ちた。


 ニュートは歯を食いしばり、ナイフに力を込め骨を切断する。皮が伸び、完全に切断できなかった腕を右手で掴み、無理矢理、引きちぎる。眼は充血し、涙が溢れて止まらない。肺が空気を吐くのを忘れ、何度も何度も空気を吸ってしまう。


 早く、塗らなければ……。


 血の染み込んだ服を破り、急いで像を血で染めていく。


 痛みで丁寧に塗ることができない。徐々に意識が朦朧としてきていた。


 足元まで塗り終えるとすぐに隣の像へ移動した。


 脚がふらつく。血を流しすぎてるからか視界も霞んできた。上に、像の上に移動しなくては、血を無駄にしてしまう。力を振り絞り、像の上へ飛ぶ、脚に力が入らないせいか、飛距離はギリギリで、必死にしがみつく形で上へたどり着いた。同様に布で血を塗っていく。


 塗り終わる頃には、這いずる程度しか体を動かすことができず、ザクロを扉の前まで運んで置いて本当に良かったと思った。


 猛烈な痛みの中、自身を包むソウルに集中する。血を媒介とし、像が自分の一部になったかの様に感じる。少しの隙間も生じない様、閉じて、開かない。そんなイメージを固める。


 あとは開けるだけ。残った力で扉を押した、扉はピクリともせず、無力感を感じつつも、全力で押す。開かない。くっそぉぉおおおお。「うあああああああああ」全力で押した。微動だにしていないと思っていた扉は重く、ゆっくりと引きずられる様に動いて行く。


 「ああああああああああああああああ」


 扉は少しだけ開いた。中からは輝く様な光が漏れ出す。


 光……?あまりの眩しさに思わず目を閉じてしまう。


 光に照らされたニュートは何故か力がみなぎってきた。痛みは引き、突然太陽に包まれているかの様な抱擁感を感じる、心は幸福で満たされ、何もかもを忘れさせる。ふと、自分の腕を見ると、腕が元に戻っていた。驚きつつも、戻った力で扉を全開にする。光が扉から大量に溢れ出る。


 この光が腕を直したのか……?

 これが生命の宝玉の力……?これなら、ザクロを救える。そう確信したニュートは急いでザクロに駆け寄り光の中へ連れ込んだ。


 光に照らされたザクロの傷はみるみるうちに治って行く。苦痛に歪んでいた顔は穏やかに落ち着いていき、安らかに眠りについている様にさえ見えた。


 間に合った。一気に気が抜ける。不安が消え去り、ニュートはその場にへたり込んだ。


 「はぁ」と大きくため息をつくと後ろから音が聞こえた。振り返ると、祭壇の石畳が植物によって破壊されていた。石の割れ目からぐんぐんと植物が成長し、亀裂が大きくなっていく。


 これは?


 「ルーシャゴン聖石の力だよ」


 「ザクロ!!!もう大丈夫なのか!?」


 「ああ、お前が来てくれなかったら間違いなく死んでいた。感謝する」


 「感謝する。じゃないよ。ほんと、もう」ニュートは再び大きなため息をつく。「それで、何があったんだ?ザクロがここまでやられるなんて初めてじゃないか?」


 「……、まあ、それは後で話そう。今はこれだ」ザクロはルーシャゴン聖石を手に取った。「まずは礼だ。この宝玉の力を見せてやろう」


 ザクロは祭壇中央へ進み、宝玉にソウルを込める。宝玉はザクロのソウルに反応したのか、より一層輝きを増す。


 「なに、これ、眩しいっっ!!!」


 光が広がり、目に見える全てのものを輝きで満たして行く。


 「これが、生命の宝玉の力だ」


 視界がホワイトアウトした。何も見えず、動けなくなる。しかし、何故か温かみを感じる。暖かい水に満たされている様な、不思議な感覚だった。


 「何も、見えないっっ!ザクロ!何が起きてる」


 「仕上げだ」


 ザクロがそういった瞬間、熱風を感じた。ビリリと全身に電撃が走り、感覚が鋭くなる。何?

 「何?これ。」


 「もう目を開けてもいいぞ」


 ゆっくりとニュートは目を開ける。


 「うっっわぁぁああああ!!!!すっげぇえええええ!!!」


 目の前には信じられない光景が浮かんでいた。


 「何これ!?、宇宙?星?星が浮かんでいる」


 石で出来た祭壇には草木が生え、岩山だった周囲の山は自然に溢れていた。階段は水没し、眼前には湖が広がる。鏡の様な水面には満月と輝く様な星空が反射し、目を奪われる。しかし、良く見ると、輝いていたのは反射したものだけではなく、小さな星の様な、光の球がそこら中を駆け巡っていた。


 「きれいだ。すごいっ!。ザクロ、あの光っている小さな星の様なものは何だ?」


 「あれは、マナの結晶。本来、超自然的なエネルギーであるマナは可視化されるほど凝縮することはないのだが、生命の宝玉の力で活性化されたマナが、互いに結びつき合い、あの様に美しい様を見せる。俺も初めてみた」


 「綺麗だ。これは馬鹿な貴族も取り合うはずだ」


 「そうだな。少なくとも余程のことがなければ手放さないだろう。美しい……。」



 ニュートとザクロはマナが発散し、結晶が霧散するまで景色を楽しみ、仲間が待つ、集合場所へと向かう。


「ザクロ、次はどんなお宝を狙ってるんだ」ニュートはザクロに尋ねた。


 「そうだな、次は『ガラナユウティリーニ』を頂こう」


 「『ガラナユウティリーニ』?……ってそれトカゲじゃん、爬虫類!!!ザクロってどんな感性してるの?宝玉からの爬虫類とか振り幅エグすぎでしょ」ニュートは大笑いすると「楽しみだなぁ」とそう呟いた。



ーーーーー



 目が覚めると口の中に砂が入っていた、不快ですぐに吐き出す。口をゆすごうと辺りを見渡すと湖が見えた。ふらふらと歩き、湖の水で口をゆすぐ。


 僕は何をしていたんだっけ、ここはどこだろう。


 辺りを見渡しても、まるで覚えがない。手がかりを探すため、少し辺りを散策した。


 向かう先もなく、何も考えずに歩いているとそれは現れた。


 黒石で出来た、黒い扉、ニーアは全てを思い出す。


 「次は、絶対に殺すから、待っててね、ザクロちゃん」


 ニーア=インビラカビレは不気味に笑った。






最後まで読んでいただきありがとうございました。

良ければ評価して頂けると今後の創作活動の励みになります。



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