07 クロスボウ
「判断は任せます!すぐに対応しなさい!」
母のルイーザが叫ぶ。
自分たちには状況がわかってないし、騎士たちは我が辺境伯領の誇る
精鋭たちである。
彼らに任せた方が間違いが少ないという判断だろう。
「はっ!」
騎士は返事をして前方に駆けて行った。
「ジョシュアは残れ!他の者は付いて来い!助けるぞ!」
騎士の叫ぶ声が聞こえた。
助ける?!・・・ということは、魔物に誰かが襲われているのか。
馬車の前方を見るための小窓から覗いてみたがよく見えない。
やがて馬車が停止した。
「リリー!俺のクロスボウを!!」
「はいっ!」
リリーから俺が改造したクロスボウを受け取る。
この世界、命の危険がいっぱいだ。
今回のように魔物もいるし、盗賊や強盗などと戦わなくては
ならない場合もある。
しかし、子供の身では白兵戦なんて無理だ。
そりゃ、貴族の嗜みとして剣の訓練はしてるよ。
でも、身体が小さいということは弱いということなのだ。
12歳ということは、日本では小学6年生。
発育がいいとしても身長150cm、体重45kgぐらいだろう。
現在の俺はもう少し小さいが。
格闘技や剣などの腕があったところで、例えば身長180cm
体重100kgの大人に、ルール無し・武器の使用自由という
条件で勝てると思う?!
絶対に無理だ。
しかも、相手は殺すつもりでくるんだぞ。
ほんと、戦闘系チート主人公がうらやましいよ。
というわけで、白兵戦が無理なら飛び道具しかない。
この世界には銃はないので選んだのがクロスボウ。
弓のほうが連射性は高いが、弦を引く力がそのまま
矢の威力につながるので非力な俺では力不足だ。
このクロスボウは弦の巻き上げ機付きなので十分な威力を
出すことが出来る。
実際に何度も鹿や猪を狩って実証済みである。
俺はクロスボウの前についている金具・フットスティラップに
足をかけ、クロスボウを固定してレバーを回し弦を巻き上げる。
「母上たちは、このまま馬車の中にいてください」
「無理をしてはいけませんよ」
「お兄様、お気をつけて」
2人にうなづきながら、リリーから受け取った矢筒を腰のベルトに
装着し、窓から外の安全を確認した後、ドアを開けて馬車から降りた。
「状況はどうなってる?」
俺はクロスボウに矢をセットしながら、1人残って周りを警戒
していた護衛のジョシュアに聞く。
「一撃した後離脱して、また次の攻撃に入るところです」
襲っていた魔物はオークだった。
力はすごいが素早さはあまり高くない。
なので騎馬の機動力を生かしてのヒット&アウェイの戦法を
とったということか。
襲われている馬車は車輪が壊れて傾いでいるが、他に
目だった損傷はない。
護衛たちがオークの追撃を防いだのだろう。
あちらもなかなか優秀な護衛のようだ。
そしてまもなく、双方の護衛たちによってオークは討伐された。
うん、俺の出番がなくてよかった。
そう思いながら俺はクロスボウから矢をはずし、矢筒に納めるのだった。