06 馬車で
ガラガラガラ・・・
ホリデイ辺境伯領から王都へ向かう道を2台の馬車が連なって走っていた。
護衛の4頭の騎馬が並走している。
前を走る馬車は豪華であるのに対して、後ろを走る馬車は簡易な作りだ。
だが、見る者が違えばまた別の違いに気が付いただろう。
前を行く馬車は明らかに揺れが少ないのだ。
「ほんとうに快適ですわね」
俺の前に座っている母のルイーザが言う。
「ほんと、もぐ、お兄様は、もぐもぐ、すごいです」
俺の横にいる妹のメリンダも嬉しそうに言う。
というか、食べながら話すなよ、行儀が悪いぞ。
元々、馬車のひどい乗り心地が嫌になっていた俺は鍛冶屋に
協力してもらって馬車のサスペンションの研究していた。
スプリングと板バネの両方を作って試した結果、破損したときの交換と
調整のしやすさ、そして軽量であるということからからスプリングを
採用して実用に耐えるものを目指した。
そしてなんとか間に合って、今回の王都行きの馬車に取り付けることが
できたのだ。
座布団とクッションも併用した結果、今までとは比べ物にならない
ぐらい快適だ。
だが、後ろを走っている使用人たちの乗っている馬車にまで取り付ける
ことは出来なかった。
ごめんよ。座布団とクッションで何とか耐えてくれ。
「もぐもぐ・・・」
「ていっ!」
「あっ!」
俺はメリンダが持っていた瓶を取り上げた。
「お兄様!何をするのです?!」
「食べすぎだよ!」
「仕方ないではないですか、こんな美味しいものを作ったお兄様が
いけないのですわ!」
そう、彼女が食べていたのは俺が作ったドライフルーツだ。
しかも、おれが試行錯誤してそのままでもお菓子として美味しく
食べられるようにした半生タイプである。
果物の収穫を手伝っているときに、痛んだり出来が悪かった物の
利用法を考えていてドライフルーツにすることを思いついた。
基本的には薄切りにして干すだけだから簡単だ。
酒のつまみやパウンドケーキに入れたり、ヨーグルトに漬けて食べたりと
いろいろ使える。
ただ、お菓子のようにそのまま食べるにはイマイチなものもある。
そこで、半生タイプ、いわゆるセミドライフルーツも開発したのだ。
ただこれは長持ちしないし、保存も注意が必要なのでまだ市場には
出さずに身内で消費している。
「食べすぎて太って、ドレスが入らないようになってもいいの?!」
「うっ!・・・」
俺の言葉にメリンダがひるむ。
そう、メリンダは成長期も重なってちょっとぽっちゃりさんに
なりかけていた。
個人的には、健康で運動も出来るなら太っていてもいいと思うんだが
貴族は見かけも大事だからね。
第一、ドレスがぱっつんぱっつんになったら話にならない。
「というわけで、今日はもうダメ。残りは明日ね」
そう言いながら母の横に座っているリリーに瓶を渡す。
「あん!お兄様、いじわるですわ」
メリンダが頬をぷくっと膨らませる。
うん、かわいいぞ。
「う~~~・・・」
「膨れても、ダ~~~メッ」
と言いながらメルンダの頬を指先でちょんこんと突く。
と、そのとき
「きゃっ!」
「うっ!」
「うぐっ!」
「あんっ!」
馬車の速度が落ち、前方にGがかかった。
そして、並走する騎士が馬車の窓の外から叫んできた。
「奥方様!前方に魔物です!!」