番外02 2年後その2
※ ウィークリイ王国・王都
秋である。
食欲の秋、芸術の秋、天高く馬肥ゆる秋、そしてこの国では入学の秋である。
というわけで俺は、学園への入学のために王都に来ている。
社交の秋でもあるので、母上やメリンダたちも一緒だけどね。
(父上は先に来ている)
さらに入学以外にも俺には、いろいろな用事がある。
まずは福祉事業として運営している施設の監査だ。
ちょっと裕福な商人の子供という感じの変装をする俺。
お供はいつものゴンじいである。
何かあったときのため、護衛も2人少し離れて付いて来ている。
最初は孤児院だ。
ここは5歳までの年少組と10歳までの年長組に分かれていて、
年少組は現代日本の幼稚園を参考にした育成を、年長組は、午前中は
学校に行き、午後は職業訓練として、裁縫や木工、鍛冶などの現場に
下働きとして派遣される。
今は午前中なので年少組しかいない。
「『がお~~!お前を食べてやる!』狼は言いました・・・」
部屋に入ると紙芝居をやっていた。
ちょうどクライマックスの場面で、子供たちは皆、息を呑んで
真剣に見ている。
最初は絵本の読み聞かせを考えていたのだが、この世界では本が高価で
まして色付きの絵本なんてめったにない。
なら自分たちで作ろうということになったが、どうせ作るなら絵が大きくて、
子供たちもわかりやすい紙芝居の方がいいということに気が付いたのだ。
そこで俺の記憶にある童話や昔話を題材にしたら子供たちに大ウケ。
年少組の日課になってしまった。
そのうち紙芝居屋として、他の孤児院とかに慰問に行くのもいいかもしれない。
もちろん水飴や酢コンブを売ったりはしないよ。
紙芝居の邪魔にならないように、俺たちは静かに部屋の中に入り子供たちの
後方に行き、紙芝居を見る。
「『とお~~!』必殺の突きを繰り出す王子様。ズシュッ!王子様の剣は
狼の胸を貫きました」
うん、なかなか上手いな、あの娘・・・。
いつもは孤児院の職員がやっているのだが、今日はボランティアらしい
女の子が紙芝居をやっている。
歳は俺と同じぐらいかな?!服装から見て、男爵か子爵あたりの貴族の
娘だろう。
髪は薄い茶色・・・、ミルクティー色と言った方がいいかな?!
上品な顔立ちで青い瞳、なかなかの美少女である。
それにしても、何となく見覚えがあるような・・・どこかで会ったことが
あったかな?!
「『ぐふっ、見事だ王子』剣が胸に刺さったまま後ずさりする狼。
そして右手を天に突き上げ『我が生涯に一片の意味な~~し!!』
と叫んだ狼はそのまま天に召されたのでした。おしまい」
わ~~~~っ!
パチパチパチ・・・
大喜びで拍手する子供たち。
パチパチパチ・・・
俺も拍手しながら前に出る。
「あ!ピアノの若様だ!!」
俺を見た子供の1人が叫ぶ。
「若様~!今日も、お歌を歌ってくれるの?!」
「私、うさぎさんの歌がいい!!」
「僕は、ドラゴンの歌!!」
子供たちが駆け寄ってきて俺にまとわりつく。
そう、俺はここでは『ピアノの若様』と呼ばれている。
子供の情操教育には音楽も必須なので、楽器類もいろいろと揃えてある。
さすがにグランドピアノは場所をとるし値段も高いのでピアノは、
アップライトピアノだ。
まあ、それでもそれなりの値段だが。
そして、ここに来るたびに、それを弾いて歌を歌っていたら、この呼び名が
定着してしまったのである。
今では職員たちにもそう呼ばれている。単に『若様』と呼ばれることも
多いが・・・。
「うん、ちゃんと歌うよ~。いい子にしてたかな~?!」
俺は、まとわりつく子供たちの頭を撫でながら少女に近づき挨拶する。
「初めまして。ここに出資しているコリンズ商会の会長の息子の
フィリップと申します」
もちろん偽名である。
各施設の責任者は俺がアレックス・ホリデイだと知っているが、職員や
子供たちには、商会の息子ということになっている。
その方がいろいろと都合がいいことが多いのだ。
「あなたが『ピアノの若様』ですのね。お噂は聞いております。
私は、サタデイ男爵家の長女でクラリスと申します」
「ぶっ!!げほっ!げほほっ・・・」
俺は、余りの衝撃に、吹き出すとともに咳き込んでしまった。
「若っ!」
「だっ、大丈夫ですか?!」
心配するゴンじいとクラリス。
「だっ、げほっ・・・大丈・・・夫・・・です・・・」
と返事をする俺だが、実は全然大丈夫ではなかった。
だって・・・、
ヒロインだ~~~~~っ!!!
見覚えがあるはずだよ。
彼女は『たそこい』のメインヒロイン、クラリス・サタデイであった。




