03 その夜
「アレックス、花祭り用の花畑の収穫を前倒しさせたと聞いたが・・・」
夕食の席でマキシミリアン・ホリデイ辺境伯、つまり俺の父親が言う。
辺境伯はその名のとおり国の辺境つまり一番端にあり、他国との国境に
接するため防備を任されている。
なので、有事の際には王の許可なく独断で軍を動かすことが認められている。
つまり貴族でありながら、軍人の要素も色濃く持つ。
何が言いたいかというと、このおっさんもガチの武闘派なのだ。
しかもマッチョな大男であるため、すっごく怖い。
「はい、すべて俺の独断でやらせました」
うん、やっぱり勝手なことをしたと怒られるよね。
「理由を聞こうか」
「深夜に豪雨が降り、花が痛んで商品にならなくなるからです」
「・・・そうか・・・」
俺は、怒声が飛んでくる覚悟をする。
下手したら殴られるかな・・・?!
それはやめてくれよ、死んじゃうよ。
が・・・
「メリンダ」
「は、はい・・・」
父は俺をスルーしてメリンダに話しかけた。
「花見が出来なくて残念だったね」
「あ・・・、は・・・、い、いえ、咲いてるところは見れましたし、
収穫を見るのも楽しかったです」
メリンダは俺をチラ見しながら答える。
下手なことを言って、俺の方にとばっちりが来ないか気にしているようだ。
気にしなくていいんだよ、お兄ちゃんが勝手にやったことなんだから。
「まあ、また行けばよい。次の季節にはまた種類の違う美しい花が咲く。
季節ごとに趣の違いを楽しめばいい」
マッチョおやじらしからぬ情緒のあることを言う父。
さすがに上級貴族である。
「そうね、都合がつけば、次は私も一緒に行きましょう」
母のルイーザが言う。
「はい!ぜひ、ご一緒に!」
メリンダ、嬉しそうだ。
ルイーザはメリンダによく似た・・・逆だな、メリンダが彼女に
似ているんだ・・・美人である。
俺も母親似のようなので、たぶん鍛えても父のようなマッチョには
ならないだろうと思う。
それとも、中身は父親似でいずれムキムキに・・・うん、つまらん
想像はやめよう。
とりあえず、今のところは叱られなかったのでよかったとして、
もし今夜、豪雨が来なかったら素直に怒られればいいさ・・・。
来ました。
日本にいたときの感覚で言えば、現在深夜の0時頃だろうか。
8歳児としては寝ている時間だが、さすがに眠れなかった。
雨だけじゃなく風も相当強く吹いている。
小さ目の嵐と言ってもいいかもしれない。
確かにこれなら花畑が全滅してもおかしくない。
心の底に、違うんじゃないか、ただ似てるだけなんじゃないかという
懸念があったが、これで、ここは『たそこい』の世界であると
いうことが確定した。
ならば俺のやるべきことは、メリンダの破滅フラグを折ることだ。
まあ、それはゲームの本編である学園に入ってからでいいか。
それまでは、この領を発展させることにに力を注ごう。
そうして、万が一メリンダがバッドエンドになってもこの領に
かくまって、幸せに暮らしてもらうのだ。
お兄ちゃんは、がんばるよ!
その頃、某所では。
「よし、フラグ回収!とりあえず、一休みするかな・・・」