28 社交界デビュー その14
俺は布に包まれた物を取り出しイリアナ公爵夫人の前に行く。
「イリアナ様、お近づきの印です」
包みを差し出す。
「あらあら、結納の品かしら?!」
「違います!」
間髪を入れず否定する。
「うふふ・・・、あら、面白い包み方ね」
贈答用の化粧水の瓶をただ箱に入れるのでは面白くないと思った俺は、
いろいろと考えて、風呂敷での包み方を思い出した。
今回は、風呂敷に対角線上に2本の瓶を底を向き合わせておいて
筒状に巻き込み、両端を持ち上げて縛った『瓶二本包み』と
言われるものだ。
もちろん、この世界に風呂敷はないのでスカーフや大き目のハンカチを
代用しているんだが、それも一緒に贈り物になる。
イギリスの文豪チャールズ・ディケンズの小説『オリバー・ツイスト』
では、主人公の少年はハンカチ窃盗団に入るはめになり、掏り取った
ハンカチの名前やイニシャルの縫い取りをすばやく抜き取り、証拠を
残さないようにする訓練をさせられる。
そんな窃盗団が成立するほど当時のイギリスは貧富の差が大きかったのだ。
この世界でも当時のイギリスほどではないが、ハンカチやスカーフは
高級品で上流階級の持ち物ということになっている。
「あらあら、これは何?!」
包みを開けて、瓶を取り出したイリアナ公爵夫人が俺の方に向き直る。
「それは化粧水といって肌に潤いを与えて美しくする整えるものです」
「肌を美しく?!!!」
おっと!イリアナ様、思いっきり食いついてきた!!
「アレックス様が王妃様に献上したということで、私が頼んで
譲っていただいたのですわ」
フランチェスカ、得意げに言う。
「まあ、いい娘ね!」
イリアナ様がフランチェスカの頭を撫でる。
「うちの母も数日前にアレックス様から譲っていただいたのですが、
肌の調子がいいと喜んでおりますよ」
お!マッティオ、ナイスフォロー。
「マンデイ侯爵夫人も・・・」
「そういうわけで、使い方の説明を致します」
そして、基本の使い方の説明をした。
(詳しく知りたい方は、検索などして調べてください)
「あと首筋や肩、背中も忘れないように塗ってくださいね」
女性のパーティードレスは首や肩などが露出するものが多いから、
その部分の肌の美しさも大事なんだよね。
ファッション・美容用語で『デコルテ』と言われる部分である。
「使い切ったら、どこで買えばいいの?」
「市販化は2~3ヶ月後の予定ですので、それまではうちの
王都屋敷に問い合わせてください」
「わかったわ。それでこちらの面白い模様の布は何?」
お、さすがイリアナ様、そちらにも気が付くよね。
「これも、うちの領で開発した絣という染物です。
よろしければ、スカーフやハンカチとしてお使いください」
しかも、ただの絣ではない。
普通、絣は藍染だが、それでは地味すぎてこの国では
受けないんじゃないかということで、赤や黄色などの鮮やかな色を
使ったものである。
「絣・・・」
布を注意深く見るイリアナ様。
「これもホリデイ領の特産ということね」
「はい、これもそのうち市販化しますので、お気に召したなら、
よろしくお願いします」
こんなかんじで、イリアナ公爵夫人への挨拶は終わり、シャルロッテと
ライアンにもお土産に化粧水の包み(こちらの布は絞り染めである)を
渡して、王都屋敷に帰る俺とメリンダであった。




