23 社交界デビュー その9
ラストダンスを踊るということは、この国の貴族社会ではその2人は
特別な関係にあるということを他人に示す意味がある。
なのでラストダンスを申し込むということは、少なくとも『お付き合い
してください』という意味になり、申し出を受ければそれを承諾した
ことになる。
ただし、ダンスを申し込むのは必ず男からである。
これは選択権を女性に委ねることで断られる、つまりフラれるという
恥を女性にかかせないためである。
では、女性の方から付き合いたい男性がいたらどうすればいいのか?
ラストダンスが始まる前までに、相手にダンスを申し込んでくれと
伝えるのである。
それを今、フランチェスカがやったのだが・・・。
「フ、フランチェスカ様!何をおっしゃるのです?!」
「おほほほ・・・」
驚く俺に近づいたフランチェスカは、
(アレックス様ともあろうものが、私に恥をかかせるようなことは
なさいませんわよね?!)
耳元で小さく言う。
そして、
「では、ラストダンス、楽しみにしておりますわ。お~っほっほっ・・・」
今度は、周りに聞こえるようにはっきりとした声で言った後、離れて行った。
普通、女性からのラストダンスの申し込みは断られたときに恥をかくことが
ないように、こっそりと伝えるものなのだ。
それをフランチェスカはわざと周りの者たちに聞こえるようにした。
そのため、俺がラストダンスを申し込まなければ彼女に恥をかかせることに
なってしまう。
身分の低い女性がこれをやると、ただ断られて当人が恥をかくだけだが、
さすがに公爵家のご令嬢に恥をかかせるなんて、リスクが高すぎる。
「やられましたね~・・・」
マッティオが言う。
「・・・お兄様とのラストダンスは私が踊るはずでしたのに・・・」
とメリンダ。
「では、僕とならいかがでしょう」
マッティオがメリンダのラストダンスの相手を申し出る。
「ね! アレックス様、いいでしょう?!」
マッティオか・・・ちょっとアレだけど悪い奴じゃないし、
身分も申し分ない。
第一俺は、メリンダさえよければ文句はない。
「う~~ん、メリンダ、どうする?」
ということで、当人に聞く。
「仕方ないですわね」
ちょっと寂しそうに言うメリンダ。
「マッティオ様、よろしくお願いしますわ」
「はい!まかせてください」
マッティオ、嬉しそうだ。
まあ、そういうことで仕方ないか・・・。
それにラストダンスを踊ったからといって、すぐに婚約とかの話に
なるわけじゃないしね。
とか、のんびり構えていた俺のバカ!!
次の嵐がすぐそこまで近づいてきていたのだった。




