02 いきなりイベント
『黄昏の聖女と七曜の恋人たち』(トワイライトセイント
&セブンラヴァーズ)、通称『たそこい』。
タイトルどおり聖女となる少女と7人の攻略対象との恋愛シミュレーション
ゲームである。
攻略対象キャラはそれぞれサンデイからサタデイまでの曜日の家名を
持っており、サンデイは王家、マンデイは隠しキャラだ。
BL要素もあり、ノンケから腐女子まで幅広い女性層に人気のゲームである。
そして、なんと我が愛する妹は、悪役令嬢の1人だ。
え?!なぜ知ってるのかって?!
やらされたんだよ!!
スチルを埋めるために、うちのクソ姉に!!!
何が社会人は仕事で忙しいだ!!
受験勉強で大変なときにもやらせやがって!!
なんとか予備校の受験合宿で逃げることができたけど、落ちてたら
どうしてくれるんだよ!!
大学の入学準備の合間にもやらせやがって!!
ほんと姉なんてカスだ!!クソだ!!
(注:あくまで個人の感想です。彼の姉以外は違うと思われます、
たぶん・・・)
それにしても、下宿暮らしで姉の魔の手から逃れ、これからというときに
事故とは・・・俺、運が悪すぎるだろ・・・。
「お兄様~、着きましたよ~」
考え事をしながらうつむいて歩いていた俺は、メリンダの声に前を向く。
そこには・・・
「お~~~~っ!」
思わず叫んでしまう美しい光景があった。
一面の花畑だ。
そして、その中に咲くひときわ美しい大輪。
言うまでもなく、メリンダのことである。
そのまぶしい笑顔!
女神か!!!!!!
うむ!やはり妹は最高である。
(注:あくまで個人の感想です。もしかしたら、彼の妹以外は違うかも
しれません)
こんなかわいい妹を持てて、俺はなんて運がいいんだろう。
「ようこそいらっしゃいました」
農作業をしていた農民の1人が俺たちに気づき、近づいてきた。
「リカルドと申します。この花畑の責任者をしております」
「うむ、ご苦労。アレックスだ」
頭を下げ挨拶をしてきたリカルドという男に対して、俺は軽く会釈を
して名乗る。
俺は元日本人なので、転生後もつい頭を下げて挨拶をしてしまっていた。
それは貴族としてダメだと執事やメイドたちに何度も注意されて直したのだ。
当然、言葉遣いも貴族風に修正した。
「メリンダです」
「お嬢様、ようこそいらっしゃいました。いかがですか・・・?」
挨拶をしたメリンダに、リカルドは自慢げに花畑を示す。
「ええ、とてもすばらしいですわ」
「ありがとうございます。特に今回は王都の花祭り用なので、
さらに気合を入れて育てました」
そう、ここの花は全て商品だ。
うちの領の重要な産業の1つである。
特に今回の分はリカルドが言ったように王都で行われる花祭り用なので
鮮やかな色の大輪の品種が作られている。
なので収穫予定の前日である今日、メリンダの希望もあって俺たちは
ピクニックがてら花見に来たというわけだ。
え?!王都の花祭り・・・?!
ホリデイ領産の花・・・?!
俺の思考に何かがひっかかった。
・・・おいおい、何で今まで気が付かなかったんだよ?!
イベントだぁ~!!!
『たそこい』では、過去の事件としてテキストメッセージでしか
でてこなかったので忘れてた。
今日の深夜、この季節としては異例の豪雨のため、ここの花は全滅に近い
被害を受けてしまうのだ。
花祭りに花がなくては話にならない。
そのため、代わりの花を確保するために他の領に金銭的にも義理としても
借りを作ってしまい、それがホリデイ家の没落の原因の1つとなるのだ。
ならば・・・
「収穫だ!!」
「はい、明日の予定です」
にこやかに微笑みながら返事をするリカルドだが、
「違う!!」
「は?!」
「今から収穫するんだ!
「へ?????」
すぐに鳩が豆鉄砲をくらったような顔になる。
「でないと、今夜豪雨で全滅する!!」
「お兄様!いったい何を・・・」
メリンダが驚いた顔でこっちを見る。
「ごめん、花見は中止だ」
楽しみにしてたのに、ごめんよ。
「坊ちゃん!」
「坊ちゃま!」
ゴンじいとリリーが俺に呼びかけるが。
「聞こえなかったのか?!!さっさとやれ~~!!」
無視してリカルドを怒鳴りつける。
「は、はい~~~!!」
俺に怒鳴りつけられたリカルドは、後ずさりした後、後ろを向いて
駆けて行き、
「しゅ、収穫するぞ~!!」
他の農民たちに叫んだ。
「リリー!!」
「は、はい!」
呼ばれたリリーがビクッとなって『気を付け』をする。
「屋敷に戻って収穫の手伝いを集めて連れてこい!」
「は、はいぃ~~!!」
『回れ右』をして走り出すリリー。
「ゴンじい!」
「へい!」
「収穫作業を手伝うぞ!!」
「へ~い!」
大事な妹のためにも、この領を没落なんかさせてたまるかよ!!