12 ブランデー
夕食の時間である。
「ふむ、そうか・・・」
夕食を食べながら、父のホリデイ辺境伯が俺たちの話を聞いている。
知らない人が見たら、ずごく不機嫌そうだと思われそうな顔を
しているが、実はとても機嫌がいいのがわかっている。
まあ、本当に不機嫌なときにも、似たような表情をしているん
だけどね(笑)。
この微妙な表情の違いを読み取れるようになるまで2年かかった。
母上が指摘して教えてくれなかったら、今でもわからなかったかも
しれない。
母上の話では、武人として、また辺境伯家の跡取りとして、
威厳を保つようにしていたらこうなってしまったらしい。
そういうことなら俺もやったほうが・・・いや、無理だな。
貴族として感情を読み取られないようにすることは、ほぼ必須の
ことだが、ここまでやる必要はないだろう。
ちなみに日本の貴族・お公家さんの白塗りの化粧(わかりやすい
例だと、漫画やゲームでの今川義元)も表情を読まれないように
するためである。
特に眉は心の動きがでやすいので、眉を剃って、表情筋の動きが
少ない額の高い位置に偽の眉を描くことで、心の動きを読まれにくい
ようにしている。
どこの貴族も交渉・駆け引きが大事だということですな。
母上が、父上と学園で出会った頃は、もっとわかりやすかったそうだ。
『・・・それでね、私が手を握ったらあの人ったら顔を真っ赤にして・・・』
そのことを聞けたのはよかったのだが、その後、さらに2人の馴れ初めと
惚気を1時間以上聞かされるはめになったが・・・。
「アレックス、よくやったな」
「はい、お褒めの言葉、ありがとうございます」
俺も辺境伯家の跡取りらしい言葉遣いで言う。
「うむ」
軽くうなづいた父上は、テーブルの上のグラスを手に取り一気に
呷る。
そして、目を閉じて鼻から息をして香りの余韻を楽しむ。
「たしかに、香りがよくなり、味もまろやかになっているな」
グラスの中身は俺が指導して作ったブランデーだ。
ブランデーの飲み方としては、ちょっと邪道かもしれないが
これが父上の好きな飲み方だ。
「はい、やっと3年物が出来ました」
当たり前のことだが、3年物を作るには3年、10年物を作るには
10年かかる。
ブランデー作りを始めて3年、最初の頃に蒸留した物から、
やっとまともなブランデーだと言えるものが出来た。
「あ、父上!」
執事に追加のブランデーを指示した父に言う。
「すみませんが、今年、父上に差し上げられる3年物はその
1瓶だけですので」
「えっ?!」
あらら、その表情、誰にでもがっかりしたことがわかるけど、
いいのかな?!
「せ、せめて、もう1本ないのか?!」
「来年、再来年に4年物、5年物を楽しめなくなってもよいと
おっしゃるなら、そうしますが?!」
「うっ・・・!」
少し考えて父は、執事にブランデーをグラス半分だけ注がせて
味わうようにちびちびと飲み始めた。
うん、それがブランデーの基本の飲み方ですよ、父上。




