第九夜 変者の贈り物
保志枝琉香
東京在住のフリーライター。仕事を通じて理真や由宇と知り合いになった。他人に対してあまり遠慮をしない性分は記者に向いている、とは理真の談。年上に対しては誰にでも名前に「先輩」と付けて呼ぶ。新潟に来県した際、地元名物ノドグロの塩焼きにはまった。
登場作品『「新潟県警の取り調べで出るカツ丼は、タレカツ丼って本当ですか?」完全版』『偽毛連盟』
こんな夢を見た。
「ねえねえ、由宇先輩、この前、私、城島警部にご馳走になったんですよ」
「何を食べさせてもらったの? エムボマ?」
「違いますよ、ブスケツですよ」
「だから、ノドグロだろ! ボケにボケを返すな」
「由宇先輩、ボケは私の役割です。人の仕事を取らないで下さい。というか、『エムボマ』だと『ノドグロ』と一文字も合ってないです」
「『ブスケツ』だって同じだろ」
「それはそれとしてですね、いつもご馳走になってばかりで悪いので、私、警部に何かプレゼントでもしようかと思いまして」
「いい心がけじゃない」
「で、どんなものがいいのか、相談に乗って欲しいんですよ」
「よし、わかった」
「やっぱり、後腐れのないように“消えもの”(食料品など、消費したら無くなる贈り物)がいいですかね」
「変なところで気を遣うな」
「笹だんごとかどうですかね。あれ、私大好きなんですけれど」
「うん、地元の人に地元名物を贈るって、あんまりしないよね」
「由宇先輩、何か良いアイデアありませんか」
「うーん、せっかくのプレゼントなんだから、自分では買わないけど貰うと嬉しいものとか、いいんじゃない?」
「何だろう? シンバルとかですか?」
「何でだよ!」
「シンバルって、自分で買う機会ってないじゃないですか」
「もうひとつの条件の“貰うと嬉しい”が抜けてるだろ! それとも何か? お前はシンバル貰って嬉しいのか?」
「絶対いらないです」
「じゃあ、やめとけ(全国のシンバル奏者の方々、すみません)。琉香ちゃんは東京在住なんだから、何か東京の名物がいいんじゃない?」
「東京の名物って、銘菓“ひよこ”くらいしかありませんよ」
「そんなわけあるか」
「そうですよ。食料も人材も電力も、東京には地方から持ってきたものしかないんですよ」
「いきなり社会派!」
「そうだ、お金で買えないものって、どうでしょう」
「ああ、そういうのでもいいね」
「ですよね。肩たたき券なんて、どうですか」
「子供か! それに、警部がそれを使うたび、琉香ちゃんが東京から来なくちゃならなくなるでしょ」
「違いますよ。警部のほうから上京してもらうんですよ」
「コスパ悪すぎ! だったら近くのマッサージ店にでも行くわ」
「ああ、でも、城島警部だけにプレゼントをすると、他の皆さんに悪いですかね。私、丸姉先輩にもお世話になってるし」
「そうだね。せっかくだから、他の刑事さんたちにも何か贈ってもいいかもね」
「じゃあ、シンバルを」
「やめろ! 新潟県警をシンバル合奏団にするつもりか」
「丸姉先輩には私、エロい下着をプレゼントしたいです」
「セクハラだよ」
「科捜研の小っこい人は、どうします?」
「絵留ちゃんのことか。本人がいないと言いたい放題だな。さては、いつか飲み会で説教されたことを根に持ってるな」
「絵留先輩は飲んべえだから、やっぱりお酒がいいですよね。市島酒造の“王紋”、私好きですよ」
「だから、地元民に地元名物を贈るな。まあ、絵留ちゃんは喜ぶだろうけどな」
「中野先輩は何がいいですかね。あの人、格闘技やってるそうだから、袖の破れた道着でも贈っときます?」
「何でだよ。お前の中で格闘家はみんな袖の破れた道着着てんのか? そんなのゲームのキャラクターだけだよ」
「あれさん先輩には、何がいいですかね」
「あれさんは、もう少し広い店舗に移転したいって言ってたよ」
「おま――妾に店持たせるとか、わしは大企業の重役か」
「冗談だよ。それに、あれさんはお前の妾でも何でもないだろ」
「その資金を得るために横領して、最後はバレて土下座すんのか。倍返しされんのか」
「ドラマの見過ぎだよ」
「輝子先輩って、スイーツ好きなんですよね」
「そうそう」
「じゃあ、○ッチンプリンでいいか」
「店からの落差が凄いな」
「論子先輩には、当然あれですよね。『ドラゴンボール』全巻セット」
「何でだよ。というか、論ちゃんなら、それ絶対もう持ってるよ」
「いや、読む用、保管用、人に貸す用で」
「面倒くさいマニアじゃねえか。論ちゃん、それらも全部揃えてそうで怖いんだよな」
「次は、鑑識の須賀先輩なんですけど、実は私、須賀先輩が欲しがっているものを知ってるんです」
「本当? いつリサーチしたの?」
「須賀先輩が喉から手が出るほど所望しているもの、それはずばり……出番です」
「いくら夢だからって、メタい発言はやめい」
「警察関係者は、こんなところですね。まあ、今後事件の展開上必要になったら増えるかもしれないですけど」
「だから、やめい」
「理真先輩の弟者には、あれしかないですよね」
「宗くんね。何? あれって」
「高校生男子が喜ぶものっていったら、あれしかないじゃないですか、ムフフ……」
「やめろ。品性を疑われるぞ」
「え? サッカーボールのどこが?」
「思ってたのと違った、すまん。というか、サッカーボールに『ムフフ』って言う要素ないだろ」
「私、『ブッフォン』って言ったんですよ」
「嘘をつけ、全然違っただろ」
「そういえば、昔、こんなクイズがありましたよね。『マサルくんは、お父さんから貰ったプレゼントを蹴っ飛ばしてしまいました、なぜでしょう?』っていう」
「あったね。正解は『プレゼントがサッカーボールだったから』」
「違いますよ、『プレゼントが気に入らなかったから』ですよ」
「マサルくん、鬼だな。お父さん悲しすぎだろ。そもそも、サッカーボールの文脈で引き合いに出されたクイズなのにおかしいだろ。というか、高校生男子にはサッカーボールっていう発想が古いわ」
「私、クイーンちゃんにもプレゼントをあげたいです」
「猫の名前は憶えているのに、琉香ちゃんの中での宗くんの立ち位置って……」
「猫が喜ぶっていったら、もうあれしかないですよね、“○ャオちゅーる”」
「確かに」
「じゃあ、クイーンちゃんには、“チャ○ちゅーる”一年分で」
「一年分……たしか、あの商品の説明書きに寄れば、与えるのは“一日四本まで”とされていたはず」
「“チャオちゅ○る”って、いくらするんですか?」
「だいたい、一袋四本入りで198円くらいじゃない?」
「ということは……一日で一袋消費するわけだから、198円かける365日で……72,270円! 高っ! 私よりいいもの食ってんじゃん! 畜生のくせに」
「そんなわけあるか。どんな食生活送ってるんだよ。あと、猫に対しての言い方」
「最後は、理真ママなんですけど」
「理真のお母さんね。『理真ママ』って、言いにくいな」
「『セガガガ』みたいでしょ」
「知らねえよ。で、なに?」
「お母さんにあげるものっていったら、肩たき券しかないじゃないですか」
「やめろ――ん? 琉香ちゃん今『かたたきけん』って言ったよね? 『た』が一個少ないよ?」
「いいんです。『肩焚き券』ですから」
「肩焚きって何だよ!」
「えっ? 肩を焚くんですけど?」
「意味わかんねえよ。『何で知らないの?』みたいな言い方すんな」
「じゃあ、贈り物のまとめをしますよ、まず、城島警部にはシンバルでしょ」
「シンバル、生きていたのか!」
「丸姉先輩にはエロい下着」
「怒られるぞ」
「ついでに、絵留先輩にもエロい下着を贈っときましょう」
「どうなっても知らんぞ」
「中野先輩には、袖の破れた道着」
「それも採用されていたのか」
「道着の色は白と赤、どっちがいいですかね」
「どっちでもいいよ!」
「あれさん先輩には不動産情報誌を贈ります。私の家の近くのコンビニに置いてあるやつを」
「実質タダ! そして東京移転!」
「輝子先輩にはプッ○ンプリンでしょ」
「贈らないほうがマシなレベル」
「論子先輩は、『ドラゴンボール』の全巻はすでに持っているんだったら、代わりに『バオー来訪者』の全巻を贈っておきます」
「なぜ『ドラゴンボール』の代わりが『バオー』? しかも全巻ったって、あれ2巻で完結だぞ」
「須賀先輩には『ゴージャスアイリン』の全巻を」
「脈絡ゼロ! しかも『ゴージャスアイリン』は1巻完結の事実上短編集だし」
「『魔少年ビーティー』のほうがお好みですかね?」
「どっちでもいいよ。それと、そっちも1巻完結」
「理真先輩の弟者には……」
「名前、憶えてやれ」
「何か、臭くて汚いものを」
「何でだよ!」
「ほら、貰ったら蹴っ飛ばしたくなるようなものってことで」
「因果が逆になってるよ!」
「クイーンちゃんには、“チャオちゅー○”一日分」
「198円! それでもプッチン○リンよりは高い!」
「理真ママには、東京銘菓“ひよこ”を」
「ここに来て“ひよこ”復活! 唯一常識的な贈答品!」
「ふー、こんなものかな」
「待って、琉香ちゃん」
「何ですか?」
「理真には、何もないの?」
「ふふふ……見くびらないで下さいよ由宇先輩。私が理真先輩のことを忘れるわけがないじゃないですか」
「信じてた」
「理真先輩には、とびきりのプレゼントを用意しますよ。由宇先輩も一緒に」
「嬉しい。何だろう?」
「ずばり、お二人ペアで旅行をプレゼントします」
「やったー! どこ?」
「絶海の孤島に建つ洋館です」
「間違いなく殺人事件が起きるだろ! もう夢から覚めさせてもらうわ!」




