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第三夜 太陽にほえろ!あぶない刑事貴族

(なか)()勇蔵(ゆうぞう)

 新潟県警捜査一課所属。

 県警においての理真のよき理解者のひとり。探偵としての理真の力を認めていることもそうだが、個人的な感情からも理真と親しくしている節がある。各種格闘技に精通しており、腕っ節も強い。

 登場作品『サイキ大戦殺人事件』『隻腕鬼』他


須賀(すが)洋輔(ようすけ)

 新潟県警鑑識課所属。

 髪の毛を茶色に染め、口調もフランクで、一見軽薄だが中身もそのとおりの鑑識員。中野刑事と同じように、理真に対して個人的な興味を持って接している。同い年ということもあり、中野刑事とは良き(?)ライバル。

 初期はよく登場していたが、証拠の分析などの仕事を美島に取られ、あまり出番がなくなってきている。

 登場作品『サイキ大戦殺人事件』『真夏の首』他

 こんな夢を見た。


 私は覆面パトの後部座席に座っている。運転席でハンドルを握るのは中野刑事で、助手席には須賀鑑識員の姿がある。

 私たちは、とある山荘で起きた殺人事件の証拠物件を持って県警の鑑識課に向かうところなのだ。その証拠物件とは、被害者の携帯電話。被害者は生前、「この携帯電話に、公開されたら人がひとり死んでもおかしくないくらいの凄いものが入っている」と周囲に吹聴しており、こうして実際本人が殺されてしまったわけだ。

 もちろん携帯電話の保存ファイルを確認してみたのだが、それらしい写真もデータも見つからなかった。そこで、もしかしたら何かしらの事情で、あるいは犯人の手によって、すでにデータが消去されてしまっている可能性を考慮し、鑑識課の設備でデータの復元をやってみようということになったのだ。

 須賀は、たまたま鑑識作業の後片付けで現場に赴いていたため、中野刑事に半ば強引に同行させられたのだ。理真(りま)がどうしても現場を抜けられないため、このまま須賀を残すことを中野刑事が嫌がっただけなのかもしれない。その証拠品である携帯電話は、中野刑事が肌身離さず持ってくれている。

 街中に入ったところで、覆面パトの無線が入った。中野刑事が応答すると、無線が入電した。


「管内で銀行強盗事件が発生。犯人は六名で、全員が拳銃を所持している。現金一億円を奪いバンで逃走中。警邏中の各位は、道中で見かけたら本部に通報のこと。車種とナンバーは……」


 車種とナンバーは須賀がメモに書き留めた。今どき銀行強盗とは。

 それから数分走り、あと少しで県警に到着する、というところで……。


「あっ! 待て、中野!」須賀は車窓を振り返って、「今すれ違った車、車種とナンバーが一致してたぞ!」

「銀行強盗のか?」

「そうだ!」


 なんと、逃走中の車両を発見してしまった。向こうは対向車線を走っていたため、すでに私たちの視界から消えてはいるが。すぐに本部に連絡を入れるのかと思いきや、須賀は、やおらダッシュボードから赤色回転灯を取りだしてスイッチを入れると、窓から手を出して覆面パトの天井に置いた。対して、中野刑事は、


「行くぜ、スガ」


 そう言うと懐からサングラスを取りだして目にかける。応じて須賀も、


「オッケー、ユウゾウ」


 同じようにサングラスで両目を覆った。


「……あの、二人とも……?」


 呆気に取られ、運転席と助手席の間から二人を見る私に対して、中野刑事が、


江嶋(えじま)さん、しっかりと掴まっていて下さい」

「えっ? ――どぅわっ!」


 中野刑事は左手をハンドルから離してサイドブレーキを掴み、ブレーキペダル、ハンドルとの巧みな同時操作で、直進していた覆面パトを一気に百八十度反転させた。タイヤがアスファルトを切り裂く高音が私の耳を打つ。車が停止状態に置かれたのは一瞬だけのこと。即座に中野刑事はアクセルペダルを踏み込み、私たちの乗る覆面パトはUターンして対向車線に躍り出る。

 私が今まで体験したことのないような速度で、覆面パトは見る見る強盗犯のバンに接近した。強盗犯のほうも追跡に気付いたのだろう(サイレンを鳴らしながら追跡しているので当然だが)、捕まってなるものかと、蛇行運転や無茶な車線変更を繰り返してこちらを振り切ろうとする。と、バンの後部ドアが開いて、


「……うわぁあ!」


 私は思わず叫んだ。車内から犯人のひとりが拳銃を向けて来たのだ。撃ち出された弾丸は覆面パトのボンネットにめり込み、助手席側のサイドミラーを吹き飛ばした。


「やろう、舐めた真似を……」


 中野刑事は、なおも発射され続ける弾丸を巧みなハンドル(さば)きで(かわ)す、回避しきれなかった弾丸が撥ね、車体に火花が散る。一方、須賀のほうはというと、背広の下に装着していたホルスターから拳銃を抜き、窓から半身を乗りださせて銃撃による応戦を開始した。中野刑事も拳銃を抜き、左手でハンドルを操作しながら窓から出した右手で須賀の援護をする。

 双方に無数の銃弾が飛び交う中、派手な破裂音が響いた。前方を走っていた強盗犯の車が大きく右に舵を切る。いや、須賀か中野刑事の弾丸が右後輪を撃ち抜いたため、バンはコントロールを失って蛇行運転を余儀なくされたのだ。

 強盗犯たちを乗せたバンは数十メートルほど蛇行を続けたのち、ガードレールをぶち破って道路下の空き地に転落した。

 中野刑事はアクセルを踏み込み、同じガードレールの隙間から覆面パトを空き地に躍り込ませた。路面と空き地には一メートルほどの落差があったため、着地した覆面パトは激しくバウンドする。

 強盗犯のバンは、空き地に転落してから数回ほど横転したらしい。今は天地を逆にしており、中から犯人たちが抜け出しているところだった。横転した車から脱出を果たした犯人たちは、こちらに向けて銃撃を開始した。覆面パトを停止させた中野刑事は須賀とともに車外に出て、ドアを盾にして銃で応戦する。私は後部座席にうずくまり、行き交う銃撃音に耳を塞いでいるだけだった。

「ぐわっ!」「うおっ!」「やられたっ!」だのといった強盗犯らの悲鳴が聞こえ、辺りが静かになった。どうやら銃撃戦の決着がついたらしい。


「江嶋さん、もう大丈夫です」


 中野刑事の声に、私はゆっくりと顔を上げて車を降りた。見ると、横転したバンの周辺に強盗犯たちが転がっており、皆一様に肩やら脚やらを押さえて呻いている。


「――!」


 私は犯人たちを見て、あることに気が付いた。そこにいるのは、五人。


「中野さん! 須賀さ――!」


 私の叫びは銃声に掻き消された。

 目の前で、中野刑事が膝から崩れ落ちていく。まるで、スローモーションのように。背広の左胸には、銃撃による穴が空いているのが見て取れた。

 彼を銃撃した人物がバンの陰から姿を現わす。そう、無線によれば犯人は六人組で、全員が拳銃を所持しているとのことだった。


「てめえも死ねぇー!」


 最後のひとりの強盗犯は須賀にも銃を向けたが、対する須賀の銃口が火を噴くほうが速かった。地面に転がる強盗犯の数は、これでようやく六名になった。


「ユウゾウー!」

「中野さん!」


 須賀と私は中野刑事に駆け寄った。須賀が相棒の体を抱き起こし、もう一度その名前を叫ぶ。まぶたを閉じた中野刑事の顔は、驚くほど安らかなものだった。


 新潟県警捜査一課 中野勇蔵 殉職


 ……とはならなかった。


「痛てて……」


 と安らかな表情を苦痛に歪め、気を失っていた中野刑事が目を覚ましたのだ。


「中野さん……?」


 きょとんとしている私に向かって、中野刑事は、


「こいつのおかげで命拾いしたよ」

 

 左の内ポケットから、ビニール袋に入った携帯電話を取りだす。その本体には弾丸がめり込んでいた。


「これじゃあ、データもおじゃんだろうな……」


 参ったな、というふうに頭を掻く中野刑事。須賀も無残な姿となった携帯電話を眺めて、


「まったくだ。こんなことなら、お前の心臓が弾を受け止めてくれたほうがよかったな」

「なにを、この野郎。さっきは俺が死んだと勘違いしてピーピー泣いてたくせに」

「誰が泣くか」

「泣いてただろうが」

「……待て、ユウゾウ」さらに言い返そうとした須賀だったが、半壊した携帯電話に視線を移すと「何か紙みたいなものが」

「なに?」


 携帯電話の外装の亀裂から、何やら紙片らしきものが覗いていた。



 その紙片は折りたたまれた写真だった。詳細は省くが(夢だからね)、確かにこんなものが世間に晒されたら、殺人事件が起きてもおかしくはない。また、犯人が誰であるか、動機は何であったかまでを、その写真は克明に物語る代物だった。「携帯電話の中に入っている」という被害者の言葉はまったく正しかったのだ。よもや、分解して物理的に「中に入れていた」とは。データの復元だけに囚われていたら、けっしてこの答えに辿り着くことはなかったはずだ。

 思わぬ「最重要手がかり発見」のお手柄で、中野刑事と須賀は理真からたいそう感謝されたことだろう。それを機に、二人は理真といっそう仲を深めることが出来るのか、それとも否か、それはまた別の「夢」の話になる。

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