第一夜 『ドラゴンブレード』殺人事件
安堂理真
恋愛作家が本業の素人探偵。居住している新潟県警管轄下で起きる不可能犯罪事件を、警察と協力して幾たびも解決している。
食べることが好き。にも関わらず均整の取れたスタイルを維持しており、「摂った栄養がすべて脳に行っている」と由宇に羨ましがられている。
こんな夢を見た。
「由宇、謎が解けた。関係者全員を集めて」
「わかった」
理真の言を受けて、私は舞台をセッティングした。
「えー、では、これより、探偵安堂理真による“辰見家連続殺人事件”、通称“『ドラゴンブレード』殺人事件”の推理披露会見を行います」
司会を務めるアナウンサーの宣言が終わると同時に、理真が立ち上がって頭を下げる。彼女の目の前に列挙した記者、カメラマンたちからフラッシュの雨が浴びせられた。理真の前には、「探偵」と書かれたプレートが置かれている。その隣に座る私の前にあるプレートは「ワトソン」だ。何だこれ、という疑問が噴出する余地はない。なぜなら、これは夢だから。
理真の左右には事件関係者たちが並び、皆一様に緊張の面持ちを見せている。そのそれぞれにも、私たち同様プレートが置かれ、そこには「容疑者」と書かれている。
着席した理真は、目の前に置かれたマイクに少し顔を近づけると、
「皆様ご存じのとおり、今回のこの“『ドラゴンブレード』殺人事件”は、実に凄惨極まる事件へと発展してしまいました。ビデオゲーム『ドラゴンブレード』のパッケージイラストを模した“見立て殺人”により、実に六名もの被害者を出す結果となってしまったのです」
記者席のそこかしこから、やるせない気持ちが込められたため息が漏れる。そんな記者席を一度ぐるりと見回してから、理真は続ける。
「この事件が急転直下の展開を迎えたのは、四人目の死体が発見されてからでした。なにせ、それを皮切りに、一気に六人目までの三名もの死体が間髪入れず発見されたのです。それまでの三人目までの被害者は全員、数日間の間を空けて殺されていたことを考えると、あまりに早急すぎます。ですが、このことが決定的な手がかりとなり、私は犯人を絞り込むことに成功しました」
おお、と記者席がどよめく。
「こちらに『ドラゴンブレード』のゲーム実品を用意しました」
理真は足下に置いていた箱から、ゲームのパッケージを取りだして机の上に並べた。再びフラッシュの雨が降り注ぐ。
「ご覧のとおり、この『ドラゴンブレード』は、家庭用ビデオゲーム黎明期から数世代の機種に渡り、計六本が発売されたシリーズR.P.Gです。一作目から三作目まではROMカセットで、四作目以降はゲーム機の機種変更に伴ってCDに媒体を移して発売されています。私は当初、このカセットとCDという記録媒体の違いが、犯行に何かしらの影響を与えたのでは、とも思いましたが、そうではありませんでした。……ところで」と理真はここで、「今、私が並べたこのゲームですが、何かおかしなところに気付いた方はいらっしゃいませんか?」
探偵の声を受けて、最前列に並んでいた記者の数名が手を挙げた。理真が、その中のひとりを示すと、
「『Ⅳ』と『Ⅵ』が逆です」
記者が答えた。理真は満足そうに頷いて、
「そうです。私はシリーズ順にゲームを並べたつもりだったのですが、そちらの記者の方に答えていただいたとおり、『Ⅳ』と『Ⅵ』を間違えて並べてしまいました。私がどうして間違えたのか、皆さんお分かりですね。この『ドラゴンブレード』は、シリーズのナンバリングがこのようにギリシャ数字で表されているためです。ギリシャ数字においての『4』は、『5』を現わす『V』の左に『Ⅰ』を、『6』は逆に右側に『Ⅰ』を置く形で書き表されます。慣れていないと実にややこしい表記です。それは、犯人にとっても同じでした。犯人は殺人を行うに際して、現場となった辰見家リビングにあった六作の『ドラゴンブレード』を参考にしていました。
私は、三件目の殺人が行われたあと、事件のヒントを得ようとゲームを持ち出したのですが、それを返却する際に、『Ⅳ』と『Ⅵ』を入れ替えた形で棚に並べ直してしまっていたのです。そして、そのあと、犯人は次の『Ⅳ』の見立て殺人を行う際、並べ方が間違っていることには気が付かないまま、『Ⅵ』を『Ⅳ』だと思い込んで四件目の“見立て殺人”を行ってしまったのです。犯人がミスに気が付いたのは、犯行を終えて、次の“見立て”のために『Ⅴ』を手に取ったときのことだったと思われます。パッケージに表記されたゲーム発売年を目にしたとき、『Ⅴ』が――あくまで自分が思い込んでいた――『Ⅳ』よりも以前の年数であったことから、犯人は、自分は『Ⅳ』ではなく『Ⅵ』の見立てを行ってしまったことを知ったのでしょう。
犯人は慌てたはずです。これまで順調にゲームのナンバリング順に“見立て殺人”を遂行してきたというのに、ここで二つも番号を飛ばす結果となってしまった。このまま死体が発見されたら、どうなるか。突然『Ⅲ』から『Ⅵ』に“見立て”が飛ばされた理由、それはつまり、『犯人が『Ⅳ』と『Ⅵ』を間違えてしまったためなのではないか?』という推理が当然されることとなり、動機やアリバイといった心理的、物理的条件のほか、『ギリシャ数字に疎い』『ゲームに疎い』という知識的条件が犯人絞り込みの要素に加わることとなってしまいます。そうなってはもう、犯人は名指しされたも同然です。それを避けるため、犯人は何としても『Ⅳ』と『Ⅴ』の見立て殺人を急遽行わなければならなくなってしまったのです。死亡推定時刻の差を出来るだけなくすためにも、急いで、すぐにです」
理真の言うとおり、これまでに見聞きした容疑者たちのプロフィールや言動と照らし合わせてみれば、もう犯人は名指しされたも同然だ。席を立った理真は、その人物の後ろに立つと、テーブルの上にあるプレートを「容疑者」から「犯人」へと取り替えた。
「……私がやりました」
容疑者から一転、犯人へと肩書きを変えられたその人物も立ち上がって一礼したところに、再びフラッシュの雨が降り注いだ。
ゲームを“見立て”に使ったことに何の意味があったの?
六人も殺され続けている間、理真はいったい何をしてたの?
理真がゲームを返却する際、並べ方を間違えていなければ、最後の二人は殺されずに済んだんじゃ?
等々、疑問は数あるが、そんなことは特段気にするべきことでもないだろう。なぜなら、これは夢だから。




