第93魔 『不測の事態』
次の更新は明明後日9月29日(水)やなぁ。
「坊主、名前はなんてぇんだぁ?」
意外に揺れの少ない馬車の中、熊の獣人男性が話しかけてきた。
おっとりとした口調だ。
その身体はでかい。
体重でいうと、オックスの三倍はありそうだ。
「……」オックスは無言。
「ちょっとやめなさいよ。余計な詮索はしない約束でしょ? 坊や、気にしなくていいからね?」
犬の獣人女性が言った。
白い毛皮に覆われた顔は、人間に近い風貌だった。
それに、討伐受付嬢のジョイスーとは違い、犬族特有の訛りがない。
おそらく、混血種で、人間の血が濃いのだろう。
「ケッ、名前くらい聞いたっていいじゃねぇか。相変わらず犬族ってのはケチ臭ぇな」
狐の獣人男性が言った。
オックスを見つめる目には猜疑心が宿る。
「はぁ、わかったわよ。じゃあ名前だけよ。私の名はイロベル。この作戦のリーダーをやってるわ。よろしくね、坊や達」と犬族女性。
「オレっちは、オスカリゲス。まぁ覚えなくてもかまわん」と狐族男性。
「おいは、ソリブガブガっていうんだぁ。よろしくなぁ」と熊族男性。
「……」無言なのは鳥族の男性(恐らく)だ。
「彼は言葉が話せないの。鳥族にはそんな人が多いのよね。ちなみに彼の名はカレーニルよ」
と犬族女性のイロベルがフォローした。
犬族女性が、イロベル。
熊族男性が、ソリブガブガ。
狐族男性が、オスカリゲス。
鳥族男性が、カレーニル。
よし、覚えた。
「……俺の名前はオックスです。よろしくお願いします」
「よろしくね、オックス坊や」「よろしくなぁ」「ふん、足引っ張んじゃねぇぞ、人族」
さて次はボーリの自己紹介か、と隣を見ると。
「ぐぁぁぁっ……むにゃむにゃ」
なんと悪魔の少女は涎を垂らして眠りこけていた。
話では12年間眠っていたはずなのに、まだ眠るのか。
あまりに気持ち良さそうに眠っているので、起こすのは忍びない。
「彼女の名はボーリです。なんかすみません……」
なぜか謝るオックスであった。
オックスが主人の筈なのだがな。
それからオックスはイロベルから話を聞いた。
オックス等が座っている座席には細工がしてあり、複雑な手順で開くらしい。
中に武器が隠してあるとのこと。
オックスが試してみたが、仕掛けは解けなかった。
というか、どこに仕掛けがあるかすらわからない。
すごい技術だ。
ルビーはこういうパズルを解くのが好きなんだよな。
あいつなら、解けるかも知れんな。
「おっと、そろそろだぞ。みんな静かにしろ」
イロベルが言うと、馬車が停止した。
屋敷の門に着いたようだ。
「こんな夜中に大変だな。ほれ、差し入れだ。一級品だぞ」
御者役の男が、門番の一人に酒を手渡しているらしい。(犬のイロベルからの説明)
あとは、門番が屋敷の楼閣に合図を送って、結界を解く。
そうすれば、晴れて馬車での潜入が果たせるわけだ。
「うほ! こりゃいいや! 冷えた体を温めるにはちょうどいいな! それじゃ、荷物の確認をさせてもらおうか」
「いいぜ。今日の品は極上物ばかりだ。腰を抜かすなよ?」
馬車の扉が開かれて、御者役の男と、二人の門番がオックスらをジロジロと、まさに品定めした。
「もういいだろ。早くこいつらを屋敷に届けて、帰りてぇんだよ」
御者役がそうせかすと、門番の一人が、なんと馬車に乗り込んできた。
「な、なにしてんだ!?」
御者役が思わずと言った感じで叫んだ。
バカか。
そこで狼狽えてどうする。
オックスは舌打ちしたい衝動をかろうじて抑えた。
「俺ぁちょうど交代の時間なんだよ。ついでに乗っけてってくれ」
乗り込んだ門番がオックスの隣に腰を下ろした。
「そ、それならオレの隣に座りゃいい!」
「いいって、いいって。ほら、早く出発しろよ」
御者役が犬族女性イロベルに視線で助けを求める。
イロベルは無言で頷いた。
逆らうなって意味だ。
「そ、それじゃ……」
御者役が扉を閉めて、鍵をかけた。
「結界が解けたぞ。早く入れ!」
外から門番の声。
そして再び馬車が動き出した。
車内に緊張が走る。
全員の表情が強張っている。(爆睡中の一名を除き)
その中でも、門番の男が一番緊張しているように見える。
奴隷と同じ車内とは言え、どうしてそこまで?
まるでイヤイヤ乗っているようだ。
だがこいつは、自ら進んで乗ってきたよな?
男の様子に、オックスは違和感を覚えた。
ボーリは相変わらずいびきをかいて、就寝中だ。
頼りになるのか、ならんのか、よく分からない悪魔だな。
しかし、まずい。
作戦では、このタイミングで手枷足枷を外す予定だった。
そして車内に隠していた武器を手にするはずだったのだ。
門番の男がいたのでは、不可能だ。
枷の鍵はイロベルしか持っていない。
今この瞬間、男を気絶させるか?
そう思い、正面に座る狐族男性オスカリゲスへ視線を送った。
オックスへあからさまな猜疑心を向ける彼こそが、一番信用できると踏んだからだ。
オスカリゲスは、すぐにオックスの意を解した。
思ったより優秀な男だ。
リーダーの判断を仰ぐべく、オスカリゲスが、犬族女性イロベルへ顔を向けた。
すると、なんとイロベルは首を横へ振ったのだ。
これには、狐族男性オスカリゲス、熊族男性ソリブガブガ、鳥族男性カレーニルが困惑の表情を浮かべた。
は? どういうことだ?
このままじゃ、武装どころか枷も外せない。
作戦どころではなくなってしまう。
全員が困惑し、無言のまま、やがて馬車は停止した。
そして、扉が開き、オックスらは愕然とした。
「ようこそ、我らが来賓館へ」
出迎えた貴族風の男が、そう言った。
その後ろには、武装した警備兵が20人以上待ち構えていたのだ。




