第92魔 『作戦内容』
次の投稿は明日9月26日(日)だぜ!
「君のことはグスタンさんから聞いています。年齢に見合わないほど腕が立つと。――どうか引き受けてくれないでしょうか? 金銭での報酬ならば、いくらでもお支払いします。どうか……」
「金はいい。それより俺は幼馴染を助けたい。あの館にいるのか?」
「恐らくは……。つい一刻前に、小さな馬車が館へ入っていくのを見ました。あれは素材買取屋の馬車だったと記憶しています」
「ルビーはその馬車に乗せられて、か。――どうやって潜入する?」
オックスの言葉に、男の表情が少しだけ明るくなった。
「はい、お二人は、何名かの獣人の仲間と共に、馬車で屋敷に入ってもらいます。この馬車はボルディゼンド商会から奪ったものですので、まず疑われることはないでしょう」
「なるほど。それから?」
オックスの問いに、男が屋敷を指した。
「強固な結界が屋敷を覆っているのがわかりますか?」
「ここからじゃわからないな。外から破れないのか?」
「時間と労力をかければ恐らく……。しかし、手間取っている間に、誘拐された人たちがどうなるかわかりません。最悪の場合、証拠隠滅のために……」
皆殺しってわけか。
奴隷売買の証拠が明るみになるくらいなら、やりかねないだろうな。
「そうか。俺たちは何をすればいい?」
「はい。屋敷の天辺に鐘楼があるのは見えますね」
「ああ」
鐘楼とは、鐘を設置するための建造物だ。
鐘は、祝い事や緊急時に使用される。
オックスの育った教会にも鐘楼があり、結婚式には村中に鐘が鳴り響いたものだ。
鐘を鳴らす役は、主にシスター・ナトリだった。
しかし、ある日の結婚式。
どうしてもやりたいと、ルビーが代役を申し出たことがあった。
再三注意されたにも関わらず、耳栓を忘れてルビーは鐘を鳴らした。
それからしばらくの間、アホな幼馴染は耳が遠くなっていたな。
「そこに、結界を張る魔道具があるはずです。それを僕の仲間と共に破壊してもらいたい。それから合図をいただければ、一気に屋敷へ突入して制圧します。――どうでしょうか?」
「敵は何人だ?」
「警備兵12名。その以外3名。そのうちの一人が、君の幼馴染を連れ去った人物です」
ソルベーだな。
景気良く素材を買い取ると思ったら、ボルディゼンドって悪徳商会の子飼いだったか。
人のいい笑顔に、すっかり騙されたぜ。
もっとも、その顔を向けていたのは、もっぱらルビーだけだったがな。
「敵の強さは?」
「強くてCランク冒険者程度かと。ですが、一人だけ厄介な人物がいまして」
「厄介? どんな奴だ?」
「噂では魔眼を持つという双剣使いの男で、名前は……」
「ギャスガル、だな」
「え? どうしてそれを?」
「そいつなら、今ごろ宿屋に転がってるよ」
簀巻き状態でな。
「まさか君たちが……ふぅ、グスタンさんのお墨付きな理由が、ようやくわかりました」
「時間が惜しい。早く始めよう」
そしてオックスとボーリは装備を外し、男の用意した旅人の装束へ着替えた。
ボーリが暴れやしないかと、ハラハラした。
だが、彼女は意外にも、男の指示に素直に従っていた。
さすがに手枷と足枷をはめられたときには、不機嫌になった。
しかし、それ以上の不満は示さなかった。
「枷の鍵は、仲間の一人が持ってます。門を潜ったタイミングで外しますので、ご安心ください」
オックスは返事をしなかった。
初めて会う連中なんて、信用できるはずがなかった。
だが、ルビーを救うためだ。
仕方あるまい。
それにいざとなれば錬成術を使って、鍵を作ればいい。
ボーリには、それすら必要ないだろうがな。
「それではこちらへ」
男の誘導で馬車の中へ入る。
暗い車内では、屈強な獣人が4名待機していた。
一人は女性。
全員がオックスと同じ、手枷足枷をつけている。
そこで詳しい作戦内容を聞いた。
「オックス、ルビーちゃんを頼んだぞ。あと――死ぬな」
いざ出発という段になって、グスタンがいつになく真面目な顔で言った。
死なずにルビーを救出する。
言うのは簡単だが、なかなかの難易度だ。
それにしても、グスタンは過剰にルビーを心配してないか?
村にいるときも、そんなに接点はなかったはずだが。
「準備はいいですか?」
男が最終確認をした。
オックスが頷くと、なぜか手を差し出した。
「あと、これは個人的なお願いになります」
そしてオックスの手を握ると、泣きそうな顔でこう言った。
「ジョイスーを、僕の恋人を助けてください。お願いします……」
男はジョイスー――心優しい獣人のギルド受付嬢――の恋人だったのだ。




