第9魔 「【色欲】は男を殺す」
※グロテスクな表現があります(【色欲】さんだけ、ホラー仕様なのです)。
ボトリ、そいつが咥えていた腕を落とした。
赤くなった唾液が全員の口から、ボタボタとしたたり落ちる。
うぅぅぅぅぅぅ……。
突然4人の男達は、苦悶の声をあげる。
頭を抱えてしゃがみ込んだ、次の瞬間、
「うがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!」
各々が絶叫を上げて立ち上がり、自らの服をバリバリ引きちぎる。
露わになった肌が、まるで火膨れのようにボコボコと膨らんでいく。
そこへ、
「ふぅ。こんなに食べ残すだなんて……」
声の主が、倍に膨れ上がった肉の塊達の間から、現れた。
「みなさん、思ったより小食なのですわね」と、襲われていた女がガッカリした声を出す。
ただし、その右腕は無かった。
頬肉はそげて、歯がむき出しになっていた。
いたるところの皮が剥がれて、肉が抉れていた。
不気味なのは、凄惨な怪我に対し出血が少ないことだ。
この状況を鑑みて、オックスの全身が総毛立つ。
まさかこいつ……自分の身体を、わざと喰うように仕向けたのか?
それに、なぜ立っている?
死んでもおかしくない傷だぞ? なぜこいつは平然としている?
「な、なんなんだお前はッ! お前達はッ!」
ガブナギルが立ち上がって、オックスを代弁するように恐怖の声をあげる。
「あら、あなたは襲って下さらなかったのね?
ショックですわ。わたくし、そんなに魅力がないかしら?」
そげた頬に、残った左手を当てると、女悪魔が小首を傾げる。
その光景は、恐怖を通り越して、どこかシュールにさえ見える。
ガブナギルが言葉を無くしていると、悪魔ブラセオが牢の中に現れ、
「さて、生き残りたければ、戦って勝利することですな」
「だ、誰だテメェはッ!――な、なんだッ!? か、身体が動かねぇ!」
ガブナギルの〝魔力封じの首輪〟を、こともなげに外す。
用事が済むと、悪魔ブラセオは、すぐにまた消え去った。
「ッ!? う、動く? ――首輪が……外れた……?」
拘束の解けたガブナギルが、自分の首をペタペタと触る。
肉の塊4体が、ゆっくりとガブナギルに近づく。
「く、くそッ、なんだってんだッ! ――《剛強法》ッ!」
ガブナギルの身体が鈍い光を纏う。
この男オリジナルの肉体強化魔術だ。
「喰らえぇぇッ!」
全身の筋肉を使った強力な拳を放つ。
甲冑を着た衛士をも一撃で殺した必殺の拳だ。
だが、
「なにぃッ!」
元囚人だった肉の塊のひとつが、その拳を難なく片手で受け止めると、
「くそッ! は、放せぇぇぇッ!」
ボグゥッ!
ガブナギルの太い腕を、いとも簡単にへし折った。
「ぐわぁぁぁぁッ! 腕がぁッ! 俺の腕がぁぁッ!
く、くそッ! 来るなッ! 来るなぁぁぁッ! ぎゃぁぁぁぁぁぁッ!」
元囚人の肉達が、大量のよだれを垂れ流しながら飛び掛かった。
彼らは喰らいつく。
奇しくも、ガブナギルの言葉通りに……。
「離、せ……あ……や、やめ、やめ……ゴブァ……ごブぶぶ……ぶご……だずげ……ぶしゅ……ごぼッガぼボぼ……」
クチャ、クチャ、クチャ、クチャ、クチャ、クチャ、クチャ、クチャ……。
ガブナギルの断末魔と、彼を咀嚼する音が響き渡る。
オックスは静かに惨劇を見つめる。
自業自得だな。
ガブナギルが投獄前に犯した罪、殺された人達、そして残された遺族のことを思うと、同情する気にはなれない。
ん?
ふと視線を感じ、女悪魔に目をやる。
「それでは、コホン――はじめまして、旦那様」
女悪魔がニコリと挨拶をした。
その身体にできた傷が、千切れた腕が、ボコボコと肉を盛り上げて再生していく。
「わたくし【色欲】の四翼、マイトネと申します」
バサッ。
傷一つない女の、その細い腰から4枚の黒い羽が生える。
あの酷い怪我が、この短時間で?
「《以後、あなた様の使い魔として忠誠を誓います》」
そしてオックスは、二人目の従魔と契約を交わした。
追記)
今まで出た従魔
1.【暴食】四翼、ボーリ
「あーしは気のいいお姉ちゃんタイプっすね」
他の従魔全員から呼び捨てにされてるっす。でも気にしないっす。
2.【色欲】四翼、マイトネ
「わたくしは貴族のお嬢様タイプですわ」
通称:『あんぱんま○子』
お腹が空いたら、わたくしを食べればよろしいですわ!
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