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第84魔 『絶体絶命』

次の更新は明日9月12日(日)じゃよ。

「クックック、また口が滑っちまったな」

「そいつは……誰だ? 俺と……どんな関係が……」

「その御方のことは、お前が気にするこっちゃねぇ。オレの個人的事情ってやつだ」

「個人的……だと?」

「まぁどうしても会いたいってんなら連れて行ってやるさ。ただし――」

 ギャスガルが右手の剣を振り上げ、ニヤリと笑った。

「首だけだがな」


 それは、オックスの首へ振り下ろされる剣だ。

 おそらくあと数秒。

 つまりオックスの命も、あと数秒ってことだ。


 実は眠りこける前、オックスはベッドの下に魔法陣を作っていた。

 魔法陣さえあれば、武具の錬成も、錬成した武具の操作もできる。

 だから、どんな状況になろうとも大丈夫。

 そう思って油断していたのだ。


 オックスの両手(実は両足にも)に装備しているのも、錬成した武具だ。

 つまり、この状況でもオックスは動くことができる……はずだった。


 動けなくなってからずっと、オックスは武具の操作を試みている。

 しかし、ガントレットも剣も、糸を切られた操り人形のように、ピクリとも動かない。


 ギャスガルの〝魔眼〟は、オックスの身体を動かなくした。

 だが、魔眼の効果は、それだけではなかったのだ。

 どうやら、魔眼は、オックスの魔法陣の効果を消し去ってしまったらしい。


 まったく、なんて攻撃だ。

 今のオックスには手も足も出ない。

 絶体絶命、死亡確定の状況だ。


 だが、死ねない。

 死ぬわけにはいかない。


 シスター・リーチに、皆のことを頼まれたのだから。

 ルビーに、シスター・リーチを救うと約束したのだから。


 ……。

 いや。

 そうじゃない。

 それだけじゃない。


 1番の理由は、オックスが生きたいからだ。

 なぜ生きたいのかと問われれば、その答えはいくらでも出てくる。


 テルルの成長を見届けたい。

 ペンタンに乗って、いろいろなところへ旅をしたい。

 グスタンに止められているダルダルを飲んでみたい。

 シスター・ナトリを、もっともっとからかって遊びたい。


 生きるとは、こういうものなのかもしれない。

 生きてやりたいことの全てをひっくるめたものが、〝生きていたい理由〟なのだ。


 そして、その理由の中で、真っ先に浮かんだのは、赤い髪の少女――ルビーの笑顔だった。


 『ルビーの笑顔を、ずっと見続けていたい』


 これがオックスの一番の願いだった。


 そのルビーが男に連れ去られてしまった。

 オックスが居眠りをしたせいで、だ。


 これからルビーの身に何が起こるのか。

 ギャスガルの発言から、最悪な未来が待つのは明白だった。


 あのルビーに。

 わがままで、でも明るくて、食い意地が張って、でも弓が得意で、すぐ泣いて、でも勇気があって、すぐ怒って、でも優しくて、小生意気で、でも誰にでも愛されてきた少女に、最悪な未来が……だと?


 それはルビーから笑顔を奪う未来だ。


 許さん。

 そんな未来は、絶対に許さん。

 断じて許してなるものか。


 ルビーを救う。


 そのためならオックスは全てを捧げるだろう。

 それに気づいたとき、オックスは生まれて初めて願った。


 親に捨てられ、悪魔の子と罵られる碌でもない人生だった。

 そんな人生を――運命をオックスに与えた超常の存在に、心から――そして、なぜか傲慢に願ったのだ。


『俺を……ルビーを助けろ! もしお前が存在し、今も見ているのなら、俺たちを救って見せろ!』


 そしてギャスガルの剣が、無慈悲に振り下ろされた。


「あばよ、クソガキ」


 行為者のトドメの言葉を聞いた瞬間、

 シュバッ!

 眩い光が部屋を、いや視界を満たした。


「くっ!」


 オックスは、たまらず目を閉じる。

 そして――世界は一変した。



 ∮


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