第8魔 「【色欲】のマイトネ」
※グロテスクな表現があります(【色欲】さんだけ、ホラー仕様なのです)。
苦手な人は10話にGO!
薄暗い地下牢獄に、カラフルなドレス姿の娘。
不安を駆り立てる異常な光景だ。
数人が見ても、100人が見ても、全員が1つのことを思い描くはずだ。
1つのこととは、『悲惨な未来』だ。
ただしそれは、『この女にとって』の悲惨な未来だ。
男達にとっては……。
囚人達は一瞬呆けたように女を見つめ――そして、
「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!」
狂気乱舞した。
文字通り降って湧いた僥倖だ。
男達の〝この怪しい状況を疑う理性〟は機能を止めている。
この女がどこから、そしてなぜ現れたのかを考える人間は一人もいない。
「おいおいおいおいッ! 何ていい女だよッ!」
「なんだ、こりゃッ! 神様のご褒美かッ?」
「神でも悪魔でもどっちでもいいぜッ! ひっひっひ」
「お嬢ちゃん、ちょっとおじさん達と、いいこと、いや悪いことをしようか? きひひひッ」
男達の興奮した声の中で、女は起き上がる。
一気に顔が青ざめて、怯えたように後退る。
恐怖に震える姿は、まるで人間のようだ。
いや……もしかしたら、本当に……。
悲壮感溢れる女の表情を見ていると、自信がなくなってくる。
「な、なんですの、あなた達はッ! ここはどこですッ!
ち、近寄らないで下さいッ! お父様に言いつけますわよッ!
アーノルドッ! アーノルドはどこなのッ!」
女の懇願など、聞くはずもない。
男達がジリジリと詰め寄る。
すると、女が、はぁとため息をつき、諦観の表情となる。
「……つまりは、そういうことですのね。わかりましたわ」
観念した口調で女が言うと、ドレスのボタンを、ためらいがちに外し始める。
意外な展開に、男達は立ち止まり、固唾を呑んだ。
彼らは気づいているだろうか。明らかに変わった女の雰囲気に。
オックスには女の顔が、肉食獣のそれに見えて仕方がない。
パサリ、ドレスを脱ぐと、一目で高級とわかる下着が露わになる。
薄暗い部屋で、黒い下着と傷1つ無い白い肌とが、鮮明で強烈なコントラストをなす。
ゴクリ、男達の喉が大きな音を立てた。
ほんのり上気した顔で、女は重い口を開く。
「あの……ら、乱暴にしないで……くださいまし……」
うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!
女の言葉を合図に、男4人が襲い掛かった。
「キャッ!」
そして蹂躙が始まった。
オックスには、男達の背中しか見えない。
4人とも奇声を上げて女の身体を貪っている。
夢中になりすぎて、ズボンを下ろす余裕も無いらしい。
そこで何が行われているかは、想像に難くない。
目的がなんにせよ、女の正体がなんにせよ、見ていて気分のいいものではなかった。
視線を外し、参加していない囚人に、オックスは声を掛ける。
「お前は加わらないのか?」
「……興味が無い」
だろうな、とオックスは心中で呟く。
この男――ガブナギル・レイフは、元衛兵の戦闘狂だ。
元々の屈強な肉体に加え、強化魔法の達人でもある。
衛兵になったのも、より強い敵と戦えると思ったからだ。
だが、戦争はそう頻繁には起きない。
力を持て余したガブナギルは、ある日力試しと称して、小隊23人を皆殺しにする。
当然ながら手配書が回り、ガブナギルはお尋ね者となる。
オックスが捕まえるまで、逃亡すること2年と4ヶ月。
その間に殺した人数は、衛兵113人、冒険者26人、民間人45人に上る。
これだけの犠牲者を出していながら、暴行された女性被害者はひとりもいない。
単純に戦いにしか興味が無いのだ。
陵辱が始まってから数分後――異変が起こる。
音だ。
男達の興奮した声が止んで、代わりに音が聞こえる。
バキッ、ブチッ、グチャ、ジュル……。
オックスはこの音を知っている。
〝血の滴る生肉を喰らう〟音だ。
経験を積んだ冒険者なら、何度も聞いたことのある音だ。
だが、この音と今の状況とが結びつかない。
なんだ?
何が起きている?
ピタリ、男達の動きが止まる。
不気味な音も鳴り止んだ。
やがて、全員が幽鬼のようにゆらゆらと立ち上がる。
そして、オックスへ向き直った。
「……ッ!?」
全員の顔は血にまみれていた。
一人は、何かを咥えていた。
これは……人間の、腕だ。




