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第73魔 『最悪な女』

「下等生物ですって!? あんたいったい何様のつもりよ!」


 ルビーが立ち上がって叫んだ。


「何様かってぇ? そりゃ人間様よぉ。こんなことも、いちいち言わなきゃわかんないわけぇ? これだから孤児院育ちなんて下級民は困っちゃうわぁ」

 

 信じられない発言だった。


 この最悪の女は、討伐受付係を担当する、もう一人の受付嬢である。

 名はビュアナ。


 明るい茶色の髪をカチューシャでまとめ、広いおでこがテカテカと目立っている。

 身長はオックスと同じくらい(150センチメル)。

 なのに、体重は倍を軽く超えるだろう。

 ピンクのフリフリのスカートは普段着というより、パーティードレスだ。

 よくこんな格好で歩けるものだ。


 ルビーが言い返そうとした、そのとき、(オックス等の後ろの)扉が開いた。


「ようガキども。また会ったな」


 現れたのは大柄の男だった。

 閉じた右目の上には、大きな傷が走っている。

 動きを重視しているのか、急所のみに防御を施した軽装備姿だ。

 その腰にはショートソードが二振り。

 つまり双剣使いだ。


 こいつはギルド館内の警備を担当(自称)している男だ。

 ぽっちゃりビュアナと言い争いになると、必ずと言っていいほど現れる。

 まるで口裏を合わせているのでは、ってくらいのタイミングで、だ。


 オックスは最初からこの男が気に入らなかった。

 現れるといつも、ニヤニヤと舐め回すようにルビーを見つめるからだ。

 実際に今もそうしている。


 男はドアを閉めると、部屋の隅で、腕を組んで壁にもたれかかった。

 言葉は発しない。

 だが、男のあからさまな気配が、オックス等に警告をしている。

 迂闊な真似はするな、と。


 オックスはいきりたつルビーの肩を抑えて、椅子に座らせる。

 ルビーは悔しそうに唇を噛み締めて、ビュアナを睨んでいた。


 ビュアナはそんな視線など気にする様子もなく、獣人ジョイスーを罵倒し続けた。


 イカれた服装といい、度を超えた暴言といい、マジか、こいつ。

 この女と会った人間は、十中八九そう思うだろう。


 オックスが、初めてこいつに会った日も、

 〝ガキ〟〝育ちが悪い〟〝人生の負け組〟〝世間知らず〟〝厚かましい〟

 など、散々罵倒されたものだ。


 具体的には


『あら、アンタ親は一緒じゃないのぉ? え、親はいないですってぇ? 孤児院育ちぃ? ハッ! そんなの人生負け組確定じゃないのぉ。え? Aランクの魔獣の討伐依頼ですってぇ? 300万フィンで? ハッ! とんでもない世間知らずねぇ。仮にもÅランクの魔獣を討伐するのに、たったの300万フィンで足りると思ってたのぉ? アンタの知能と同じで全然足りないわよぉ? そんな世間知らずで、よくここに顔を出せたものねぇ。ほんと親がいないガキって厚かましいわぁ』


 である。


 思い返すと、酷い言われようだ。

 だが、その時はそれどころではなかった。

 〝討伐依頼の依頼料が足りない〟

 その言葉以外、耳に入らなかったからだ。


 二度目、この女に会ったときは、ルビーも一緒だった。

 そこでこいつは、


 〝自分が、どんなに上等な人間か〟

 〝オックス等がどんなに頑張っても、育ちの良い自分には敵わないこと〟

 〝全ての生物の中で人間こそが至高の存在である。他の種族、特に獣人は全員、人間の奴隷であるべき〟


 などの差別的持論を、コンコンと語り続けた。

 その内容があまりに酷いので、ルビーは最初、趣味の悪い冗談だと思っていたらしい。


 その差別女の罵倒がひと段落した頃、ジョイスー静かに語りかけた。


「……ビュアナさん。今日は非番だったのでワン?」


「あ? 何でこのわっしが、アンタみたいな野蛮人種に指図されなきゃならないわけぇ?」


「いえ、これは指図では……」


「アンタごときが話しかけること自体、指図だって言ってるのよぉ。あぁ、もういいからしゃべらないでくれるかしらぁ。アンタの耳障りな声でわっしの耳が悪くなったらどうするわけぇ? 後はわっしが引き継ぐから、アンタはさっさと獣臭い犬小屋に帰りなさいなぁ」


「でも、今はジョイが手続き中で……キャイン!」


 言葉が終わる前に、ジョイスーが椅子ごと蹴り倒された。


「だ〜か〜ら〜! 指図するなって言ってるのぉ!」


「この!」「テメェ!」


 我を忘れたルビーと、そしてオックスが飛びかかろうとしたとき、


「おっと、館内での暴力行為は感心しないぜ?」


 すぐ後ろから男の声。

 かと思うと、ルビーとオックスの首筋に、冷たい刃が……。


「ハッ、やめてあげなさい、ギャスガル。ガキどもがオシッコ漏らしちゃったら掃除が大変でしょぉ? まぁ、掃除をするのはこの獣女だけどねぇ」


「ギャハッハ、ちげぇねぇ!」


 ビュアナの言葉に、喉元の剣は男の腰へ戻った。


「これが最後よぉ。後はわっしに任せて、さっさと尻尾を巻いて、お帰りなさいなぁ」


 ジョイスーが、ビュアナをキッと睨み、何か言おうと口を開きかけた。

 が、その口先が言葉を発することはなく、すぐに視線を外して、ゆっくりと立ち上がった。

 そして、申し訳なさそうに、オックス達を見つめた。


「いいんです、ジョイスーさん。俺たちは大丈夫です。それより怪我は?」

 

「そうよ、ジョイさん。あたし達は大丈夫だから……」


「オックスさん……では、後の手続きは、このビュアナが引き継ぐワン……それでは……」


 手荷物をまとめて、出て行こうとするジョイスーへ、


「あ、ジョイさん、ちょっと待って!」


 ルビーがポケットから、小さな布袋を取り出した。


「これ、ジョイさんにぴったりかなって……。あの、今までお世話になりました!」


 袋を受け取ると、驚いたような、喜んだような、複雑な表情をジョイスーは浮かべた。

 そして頭を下げた。


「お世話なんて……ジョイは……ごめんなさいだワン……」


 泣きそうな表情になったジョイスーは、駆け足で部屋を出て行った。


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