第71魔 『ハイタッチ』
ギルド会館利用者専用の厩舎小屋に到着した。
ここは公共の厩舎扱いになっている。
常に係のものの目が光っており、盗難されやすい馬や騎竜を安心して置いておくことができる。
しかも無料である。なんとすばらしい。
全部で20ある厩舎のうち、一番奥の部屋にペンタンを入れる。
と、視線を感じ、振り返った。
顔中髭だらけな厩舎係の男(制服でそれとわかる)が、なぜか首を傾げている。
「あの、俺の騎竜がどうかしましたか?」
オックスはごく普通に丁寧な言葉で尋ねた。
相手が喧嘩腰のハゲ頭じゃなければ、オックスは好少年なのだ。
「いやね、最近ちょこちょこ見かける騎竜に、こいつが瓜二つなんだよ」
「瓜二つ? だって大体同じ顔でしょ、騎竜って」
と、ルビー。
実際に街中で見かける騎竜は、どれも似たような顔をしていた。
皮の色や、装飾品の違いがなければ、オックスでも区別は難しいだろう。
(もちろん、よく見れば、ペンタンだけは見分けることはできる)
「あんたらにとってはそうかもしれん。だが、おっちゃんはプロだからね。皮色は違ってたが、この騎竜に瓜二つだったよ」
と、髭男が自信たっぷりに言った。
男の話が本当だとして、心当たりがあるといえば、ペンタンの兄妹である、騎竜オクタンだろう。
オクタンは――オックスの師匠で、悪徳素材買い叩き屋である――グスタンの騎竜である。
もしや彼が、この街に?
そうだとしたら、いったい何のために?
∮
ペンタンを預けた二人がギルド会館へ向かう短い距離で、ルビーが話しかけてきた。
「もしかして、グスタンさん来てるのかしら?」
「どうかな。俺の知る限り、一度もグスタンさんは、このセシウスの街へ足を運んだことがなかったが」
「一度も? それって、どうしてかしら? おいしいものだって、ジルコ村なんて比べ物にならないくらい沢山あるのに」
「なんでも人混みが嫌いなんだと。人が多い場所に行くと頭が痛くなるそうだ」
「へぇ、変な体質ね。でも、だからなのかしら。グスタンさんが村から離れた場所に住んでるのって。あれ? そういえば、あの人っていつからあそこに住んでるんだっけ?」
「10年くらい前だとシスター・リーチが言ってたな。なんにせよ変わった人だよ。ここへ来てるとしても、俺たちは明日には村へ帰るんだ。会うことはないかもな」
「それもそうね。さぁ、早く依頼の手続きをして、買い物に行きましょうよ! テルルとシスター・ナトリにお菓子を沢山買って帰らなきゃ! もちろんシスター・リーチにもね!」
「一応グスタンさんの分も買っておこう――じゃあ覚悟はいいか?」
ギルド会館に到着したオックスが、真面目な声で言った。
「だ、大丈夫よ。なんたって今日はついてるんだもん」
言葉とは裏腹に、ルビーの声に不安の色が混じる。
「よし、行こう」
オックスが勢いよく扉を押し開けた。
広い館内の様子が目に飛び込んでくる。
役40平米の広い部屋には、さまざまな人種がひしめき合っていた。
このほとんどが冒険者である。
ほとんどのものはガタイがよく、荒事に長けている風に見える。
職業柄、そうでなくてはならないのだろう。
当然、子供はいない。
なのでオックス等は大変よく目立った。
フードを被っていても子供だとバレバレである。
ちなみに今のオックス等と同じくらいの身長で成人する〝ドワーフ族〟という種族も存在する。
(※ドワーフは、全員がとんでもなくガタイがいいので、人族の子供と間違われることはない)
露骨に見る者、チラチラと隠れ見る者、一瞥しただけで興味を示さない者。
反応はそれぞれだった。
仕方あるまい。
場に不釣り合いな子供がいたら、それは見てしまうさ。
ただ気になることがひとつ。
異質な者が数名存在するのだ。
気づいたのは、三回目に、このギルド会館を訪問した時だった。
そいつ等も他のものと同様、オックス等に興味を示していた。
ただ、オックスと目が合うと、慌てて目を逸らすのだ。
それもひどく怯えた風に。
今まで会ったのは、10名程。
もれなく全員が悪人ヅラだ。
それ以外の共通点として、そいつ等は皆、何かしらの傷を負っていた。
重症とはいかないが、軽い怪我ではない。
オックスの見立てでは、狩りで負った傷ではない。
喧嘩で殴られたような、そんな傷――というか打撲痕だ。
気になるが、オックス等に対して害意はない様子なので、こちらから関わることはない。
オックスはフードを(今更ながら)目深に被り直して、館内を進んだ。
ルビーは、いまだ緊張したままだ。
目的の場所は、さらに奥にある扉の中……。
その扉の前に到着したオックスは立ち止まり、一度大きく深呼吸した。
そして〝討伐依頼受付〟と書かれた扉をノックした。
さて、今日はどっちなのか。
買取屋のハゲ男に罵詈雑言浴びせられてもどこ吹く風だったオックスが、緊張の色を濃くしている。
そして、
「どうぞお入りくださいだワン」
その声に、ルビーとオックスは顔を見合わせて、
「ほら、あたしの言った通りでしょ!」
「勝ったな!」
二人でハイタッチをしたのだった。
後書き)
ブクマぁぁぁぁッ! してくださぁぁぁぁい!




