第70魔 『明るい未来!?』
「とうとうやったわね!」
ルビーが弾んだ声を大通りに響かせた。
フードを目深にかぶっているので口元しか見えない。
だが、跳ねるような軽い足取りがルビーの気持ちを表している。
「あぁ、やったな」
同じくフードを深くかぶったオックスは、騎竜ペンタンの手綱を引いている。
顔を隠している理由は、前述の通りだ。
今は、誰も俺たちを狙っていないようだがな。
「なによ! もっと喜びなさいよ!」
「喜んでるさ。俺なりにな」
「オックスのくせに、なにかっこつけてんのよ! そんなんじゃ人生損しちゃうわよ! うれしいときは全力でよろこぶの! それが人生を楽しく生きる秘訣よ!」
そういってルビーは軽やかに進む。
人生語るほど生きちゃいないだろうに。
なるべく目立ちたくはないのだがな、とオックスは思いつつ、ルビーのはしゃぐ気持ちは、わからなくもなかった。
なにせ、先程の買取で、目標だった900万フィン(正確には不足分の400万フィン)を稼ぎ終えたのだから。
というか、稼ぎ終えたどころの話ではない。
ハゲで口の悪いソルベー氏は、ロックボアの装甲皮を、驚くほどの高値で買い取ってくれたのだ。
最後の狩りで、足りなかった15万フィンを稼ぐつもりだった。
そりゃ、小遣いとして、少し余分に稼げれば良いと思ってはいた。
それが、先程の買取額が、なんと合計55万もの大金になったのだから驚きだ。
つまり討伐依頼の金を払い終えても、40万フィン手元に残るのだ。
ルビーの小遣い400ヶ月分である。
傑作だったのは、査定額を聞いたときのルビーだった。
ヒュッと息を吸ったかと思うと、置物のように固まってしまったのだ。
『おーい、ルビーちゃぁぁん』
と、口の悪いハゲがルビーの目の前で手を振った。
だが、なんの反応もなかった。
あまりに動かないので、男二人して、少し心配してしまった。
ややあって意識を取り戻したルビーが、男二人の鼓膜を破るほどに絶叫したのは言うまでもない。
その絶叫は凄まじく、工房にいる職人達が全員集まってきたほどだった。
ともあれ、やっとだ。
これでやっと魔物の討伐を依頼できる。
これでやっとシスター・リーチを救うことができる。
ルビーの言葉ではないが、今喜ばずして、いつ喜ぶというのか。
心なし、オックスの足取りも軽い。
ギルド会館まであと少しだ。
ただな〜。
ほんの少し――ほんのすこ〜しだけ不安はあった。
「今日はどっちだろうな……」
つい漏れてしまったオックスの呟きに、ルビーが耳ざとく、くるりと振り返る。
「なにいってるのよ。良い方よ。そんなの決まってるわ」
「ほう、その根拠は?」
「根拠なんてないわ。でも今日のあたし達は最高についてんのよ?」
「ついてる……ねぇ」
「あたし達の未来には一点の曇りもないわ! ほら見なさいよ! あぁなんて良い天気なのかしら! まるであたし達の未来を暗示しているみたいじゃない! まるっといい予感しかしないわ!」
そういってルビーは、再びルンルンと前へと進み出した。
「良い予感……か」
オックスは、ふと後ろを振り返ってみた。
心なし、遠くに見える暗雲がこちらに近づいている気がする。
暗示してるのはこっちの方じゃねぇか?
うーん、まるっと嫌な予感しかしない。
後書き)
何が欲しいって、ブクマが欲しい




