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第69魔 『嫌われオックスとかわいいルビー』

「おう、ルビーちゃん待ってたぜ! カーッ! 相変わらず今日もかわいいねぇ!」


 スキンヘッドの大男が人懐っこい笑顔でそう言った。

 素材買取業者のソルベーである。


「あらやだ、ソルベっちったら。〝今日も〟だなんて、まるであたしが、毎日かわいいみたいじゃないですか!」


 褒められ慣れていないせいか、ルビーの謙遜は少しズレていた。


「それで、今日もかわいいルビーちゃんは、いつも通り、かわいくないほどの獲物を持ってきたんだろ?」


「ふふふ、今日は特別すごいですよ! あ、今日は特別かわいいって意味じゃなくて……コホン、さぁオックス、カモ〜ン!」


 言うと、ルビーは指を鳴らす。

 鳴らしたつもりだろうが、パチンとはならず、カシュッと、なんとも間抜けな音が鳴った。


 ってか、俺は召使いかよ。

 まぁ、フードを目深に被ってるし、従者に見えなくもないが。

 と、思いつつ、(中の2人から見えないところに待機していた)オックスは、騎竜のペンタンの手綱を引く。


 ソルベーの元へ着くと、荷台にかけられたシートを剥ぎ取った。

 現れたのはルビーの仕留めた獲物の数々。

 オックスには目もくれず、ソルベーの目が、荷台の一番目立つ場所に置かれた品に釘付けとなった。


「これは……ロックボアじゃねぇか。半分冗談で言ったんだが、本当に獲ってきたのか。それに……装甲部分に傷一つない、だと? いったいどうやって……」


「ふふふん。さぁ、ご依頼の品は、これでよろしかったかしら?」


「よろしいもよろしくもないもねぇよ! こんなの初めて見たってくらい上等すぎるぜ! カーッ! 相変わらず凄まじい腕をしてやがるな!」


「その分、買取額に上乗せしてくださいね!」


「おう、任せときな! ルビーちゃんのおかげで、こちとら商売大繁盛だぜ!」


 そういってハゲと小娘は カカカふふふと笑い合った。


 一方でオックスは、冷めた目でふたりを見つめている。

 すっかり顔馴染みとなったこの素材買取屋では、こんなふうに、いつも妙な疎外感に苛まれてしまうのだ。

 なんでこいつらは、こんなに仲良いんだ。

〝ソルベっち〟ってなんだよ……。


 思えば、村にいる時から、ルビーは年配の方に、なぜかウケが良かった。特に中年男性から。

 それに比べてオックスは、なぜかウケが悪い。それも万人から。


 別に悪いことはしていないのに、なんという理不尽。

 世の中って不公平だよな。


 てなわけで、もうかれこれ10回は来ているにもかかわらず、ソルベーと交渉するのは、いつもルビーなのである。

 まぁそれはかまわん。

 実際に、ルビーが交渉した方が、高く買い取ってくれそうだしな。


 こっそり盗み聞きしているかぎり、買取額の誤魔化しや、不正はない。(むしろ多めに支払われている気がする)

 やはり相手がルビーだからなのか?

 この禿頭は、人相は最悪だが、なぜかルビーに対してだけは愛想がいいのだ。

 それ以外には、とんでもなく口が悪いんだがな。


「おい、オックス、テメェ」


 突然ソルベーが話しかけてきた。

 話しかけてきたというより、絡んできたと言った方がいいかもしれん。


 心の悪口を読まれたのかと、少しだけドキッとしてしまった。

 フードを脱いで、ソルベーへ顔を向ける。

 相手は一応年配だし、最低限の礼儀としてな。


「なんすか?」


 多少ぶっきらぼうなのはご愛嬌。

 喧嘩腰の相手だ。

 これくらいは勘弁してほしい。


「テメェ、平和な顔してやがるが、本当に大丈夫なんだろうな? ああん?」


「えっと、大丈夫すよ? 今のところはっすけど……。ご心配どーも」


「ああん? 誰がテメェの心配なんざするか! ルビーちゃんが危険な目に遭わないようにちゃんと守れっつってんだよ! テメェがおっ死ぬのは、まったく構わん! むしろ死ね! 今すぐ死ね!」


 人ってのは、ここまで人を憎めるのであろうか、ってくらいの勢いである。

 このハゲは、オックス等の狩りの輝かしい成果は、あくまでルビー一人の功績であり、手柄であると思いこんでいるのだ。

(オックスのことは、ルビーにくっついて甘い汁を吸う寄生虫だと認識している節あり)


 別にいいけどね。


 弓(超一級品)を持っているのはルビーだし、勘違いするのは仕方ないさ。

 錬成術の件は秘密にしたいもあり、誤解を解くのは大変面倒なので、あえて弁明はしていない。


 でも、ここまで言うことなくない?

 と、さすがのオックスもムカムカしている。


 元々、オックスもソルベーのことが好きではない。

 どころか、買い取りの用がなければ顔も見たくないほどだ。

 ソルベーがルビーを見るとき、時折りネットリとした目つきになるのが気に入らなかった。

 ルビーはまったく気づいてないがな。


「はぁ。善処しま〜す」


 まるでチンピラのように仏頂面で返答する。


「ああん? まったくテメェときたら、いつもいつもかわいげがねぇなぁ! こんなかわいいルビーちゃんと二人でいつもいつも〜ブツブツ」


 オックスに対する愚痴や自らの女運の無さを延々と語るハゲの話を聞き流しつつも、ルビーとの扱いに差がありすぎだろ、と不満を抱えながら「はぁ」「そっすね」「大変すね」とオックスは生返事をする。


 要約すると、ソルベーは、オックス達の金を狙って現れる暴漢について、口汚く心配しているのだった(※ルビーの心配のみ+オックスへの愚痴少々暴言多数)。


 というのも、ここ最近、どうにも街中に噂が広がってしまったからだ。


『凄腕の狩人が、高級素材をガンガン狩ってくるらしい。しかもそいつらは、たった二人の子供だそうだ』


 そんな噂だ。


 発端は、ここ最近、極上の素材が、ありとあらゆる方面に出回り始めたことだった。

 いうまでもなく、その素材は、すべてオックス等が納めた品である。

 仕入れ先は、当然のように、商品の入手経路を知りたがった。

 直接交渉して、素材を独占するためだ。


 ルビーへの心配ぶりから察するに、ソルベーがオックス等の情報を漏らしたってことはないだろう。

 だが、何度もこの買取場に足を運ぶうちに、誰かしらに目星をつけられてしまった可能性はある。


 そんなわけで、噂はいつの間にやら広がってしまったのだった。


 そして、困ったことに、この噂は、まったくもって真実なのだ。

 それを知った良からぬ輩が、金を狙いに現れてもおかしくはない。

 なにせ相手は年端も行かない子供ふたりなのだから。

 小生意気な田舎娘と紅顔の美少年なんて、普通に考えると、ただのカモである。


 さらに、持ち金狙いではなく、オックス等の持つ狩猟技術をそのまま利用するために、誘拐して拷問にかける輩もいるかもしれない。


 実際に、不穏な視線を、オックスは街中で感じることがあった。

 ネットリとした嫌な視線だ。(ソルベーがルビーを見る〝ネットリ〟とは別種類)


 なのでオックスは常に警戒している。

 今この瞬間も、ソルベーに言われるまでもなく、だ。


 だが、不思議なことに、今まで暴漢に襲われたことは一度としてない。

 なぜなのか?

 それはオックスにもわからない。


 経験上、不審者の視線や気配は、次第に濃くなり、殺気へと変化する瞬間がある。

 そして実際に襲われるのだ。(先の宿屋での襲撃時は実際にそうだった)


 その前段階で、そろそろマズいなと身構える。

 すると、なぜかフッと気配を感じなくなるのだ。

 何事もなかったかのように、綺麗さっぱり、だ。

 

 一度だけではない。

 何度も何度も同じようなタイミングで。


 決して偶然ではあるまい。


 そうして結果的に、オックス達は、今のいまままで、すこぶる平和に暮らしている。


 どういうことなのか?


 もしや、凄腕の衛兵が取り締まってくれたのだろうか?

 いや、そんなピンポイントで何度も取り締まるのは無理だろ。


 もしくは、単純に治安のいい街ってことなのか?

 いや、しかし、街の外でも同じだったし、そもそも治安がいい街に不審者は……ブツブツ。



「ってコラ、なにブツブツ言ってやがる! 俺の話を聞いてんのか、オックス、テメェ、ああん?」


「チッ……マジで口悪ぃな、このハゲ」


 つい、どんどんと口が悪くなってしまうオックスなのであった。


「テメェ、いまハゲっつったか、ああん?」


「言ってないっすよ。あいかわらず被害妄想が()()しいっすねぇ(笑)」


 そろそろ本気で手が出そうである。お互いに。


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