第67魔 『はらぺこオックス』
「見てよ、オックス! こんなに大きな魔石が取れたわ!」
ロックボアの解体を終え、ルビーが弾んだ声を上げた。
その手には、なるほど大きな魔石が握られている。
「これって、いくらで売れるかしら?」
「そうだな。傷もないし、5万フィンくらいかな?」
「うっそでしょ! これひとつで50ルビーちゃんなの?!」
ちなみに1ルビーちゃんは1000フィン(※ルビーの一月のお小遣い)である。
「グスタンさん査定だと、おそらく22ルビーちゃんだけどな」
「それってひどくない? グスタンさんって意外と腹黒いのね。今まで、一体いくらピンハネされたのかしら?」
「授業料と思って諦めるさ。ピンハネ分は、グスタンさんの、未だ目処の立たない結婚のご祝儀ってことにしよう」
「お相手は、シスター・ナトリね!」
「消去法だとそうなるな。――ところで、だ。ルビーくん」
最後の方で声色の変わったオックスの言葉に、ルビーの眉がピクリと動く。
「な、なによ? いいわよ。ど〜んときなさい!」
「ふむ。では、その魔石が、本来5万フィンで売れるところを、悪徳買取業者グスタンに2万2千フィンで買い叩かれました。さて、哀れなオックスくんが奴にピンハネされたのは、いったいいくらでしょう?」
「え? 4桁なの? そんな……」
「ちなみに5桁な?」
「5桁ですって!? す、少し時間を頂戴! えっと、1ルビーちゃんが1000フィンで、10ルビーちゃんで大銀貨一枚だから1万フィンってことは……」
それから5分ほど、地面に丸やら三角やらの、なにやら不思議な絵を書き連ねた。
4桁以上の計算は、なぜかルビーちゃん換算するとわかりやすいらしい。
計算のやり方は人それぞれなので文句は言うまい。
ようは正しい値を導き出せればいいのだ。
「わかったわ! 28ルビーちゃん――つまり2万8千フィンね!」
ルビーはようやく正解に辿り着いた。これは4回目の回答である
「正解だ。やるじゃねぇか」
「すごいでしょ! もっと褒めなさいよ!」
「えらいえらい。これでようやく菓子屋の親父に一泡吹かせられるな」
「これからは1フィンだって騙されないわよ! あのハゲ親父、あたしのおつりを5ルビーちゃん以上もごまかしちゃってさ!」
そう、ルビーは宿屋の近くにある菓子屋で何度も散財した挙句、毎回のように釣り銭をごまかされていたのだ。
「ってか、お前、菓子を食い過ぎだぞ。またさらに太ってるじゃねぇか?」
「んな!? だ〜か〜ら〜っ! 乙女に、太ったなんて言うなつってんでしょ! それに、今まで散々シスター・ナトリと影でお菓子を盗み食いしてたのは、オックスでしょ! どうせなら、誘いなさいよ! あたしもテルルも!」
「誘ったら分け前が減るじゃねぇか。それで、太った乙女には、なんて言えばいいんだ?」
「なにも言わなくていいのよ! はぁ、本当にオックスには困ったものだわ。っていうか、オックスの方が、たくさん食べてるじゃない! なんであんたは太んないのよ!」
あんたはって……。こいつ、自分が太ったことを認めやがった。
「俺はどんなに食べても太らない体質なんだよ。悪いな」
「体質っていっても、限度があるでしょ。オックスってば、最近は毎食5人前は食べてるのよ?」
「5人前って、ハハハ。それは言い過ぎだろう」
「なに笑ってんのよ。言い過ぎじゃないわ。ファルネラさんが、4人前でトントンなのに、これじゃ大赤字だってボヤいてたもの。あと、おかわりのたびに毒見させられるあたしも、いいとばっちりだわ」
ファルネラという人物は、オックスたちが世話になっている宿屋の女将だ。
まだ30代前半と若くして、宿屋を切り盛りしている。
ファルネラには、マヌエラという14才の娘がいる。
ルビーとマヌエラは気が合うようで、二人でぺちゃくちゃキャーキャーと騒いでいるのをよく目にしていた。
ちなみに宿屋はひとり一泊4000フィンで、ごはん食べ放題サービス付きだ。
といっても、ずっと狩りに出ているため、街についてから15日のうち、3泊ほどしか寝泊まりしていない。
それにしても、5人前もご飯を食べているとは、オックスには信じられなかった。
これでも量を控えているつもりだった。
本当は、もっともっと食べたいのだ。
そう、例えば今この瞬間だって……。
そう考えた瞬間、
「ぐぅぅぅぅッ!」
オックスの腹が大きな音を立てた。
「なによ、その音は? ふざけてんの?」
呆れ声を上げるルビーの前には、たった今解体したばかりであるロックボアの肉が……。
「ところで、ルビー」
「なによ? あんた、もしかして、もう……」
「そのもしかしてだ」
3時間前に大量の果物を食べたばかりのオックスが、真面目な顔で、こう続けた。
「腹が減った……それも、かなり」
ルビーは、そんなオックスを、半目でジットリと見つめている。
(後書き)
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