第64魔 『希望の光』
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大通りに面した宿屋の1階。
そこは一般的な宿屋と同じように街の食堂も兼ねている。
まだ日が残っているにも関わらず席が埋まっていた。
ほとんどが粗野でたくましい男達――鉱山で働く抗夫だ。
ここセシウスの街は、主に鉱石の発掘により発達した街だ。
街から南へ数KM、シプロス山脈の北にあるバリウム鉱山は、鉄はもちろん、希少鉱物である『オリハリコン』や『ヒヒイロカネ』などにおいても、シプロス大陸一の採掘量を誇っている。
この場所――『馬のたてがみ亭』は美味しい酒が飲めると評判の店で、鉱山労働者の憩いの場だ。
その一角、場に不釣り合いな2人が腰を下ろしている。
子供だった。
男女一名ずつ。
両名とも身近な者が亡くなったかのような暗い顔だ。ジッとテーブルを見つめている。
やがて少女が重い沈黙を破った。
「……ねぇ、オックス。冒険者ギルドで何があったの?」
少女ルビー言葉に、少年オックスがゆっくりと顔を上げた。
「討伐依頼は……受けてくれるそうだ」
「え? じゃあなんで落ち込んでるのよ! あたしはてっきり……」
声を荒げるルビーを右手で制して、オックスは言う。
「ただし……問題が2つある」
「問題? 2つ?」
怪訝そうなルビー。オックスが頷く。
「1つ目の『問題』だが……個人での依頼は後回しにされるらしい」
「後回しって、どれくらい?」
「実際に討伐に行くのは早くて2ヶ月後。それ以上遅くなると、冬を越してからになるそうだ」
「2ヶ月後……」
「シスター・リーチはかなり衰弱している。今年の冬は、もう越せないかもしれない……」
「なら急がなきゃ!」
「2つ目の『問題』は――討伐費用が……900万フィンだったんだ」
「え!? 300万フィンじゃなかったの!?」
「それは村長が正規の手順で申請した場合だ。村が三分の一、残りは国が負担する仕組だったんだ」
「そんな……」
「すまん……俺の確認不足だ……」
「……」
「だから領主様に直談判しに行ったのに……くそッ!」
ルビーは、900万……と呟き、ハッとした顔になる。
「そうだ、オックス! これを見て!」
ずっと握りしめいていた皮の小袋を、オックスに手渡した。
「これは……」
袋を開いたオックスが、驚きの表情を浮かべた。
中には17万8千フィンもの金が入っている。
「あたし達が片手間に狩った魔獣よ。さっきそれだけの値段で買い取ってくれたの」
「あの魔獣が、こんな値段で……?」
「オックスの全財産は魔石も合わせると、えっと……500万フィンでしょ?」
「ああ」
「あと足りないのは……えっと、えっと」
「400万フィンだな」
「わ、わかってるわよ! コホン、400万なら、20日もあればなんとかなるんじゃないかしら?」
「20日……」
「それじゃ間に合わないかな?」
「そういえば、300万フィンを払えば討伐予約ができるって……」
「え、討伐の予約ができるの? 300万って、じゃあ残りの……えっと」
「残りの600万フィンは、一月以内に納めればいいって……」
「オックス!」
ガタンッ! ルビーが立ち上がる。
オックスはルビーの顔を見上げ、コクンと力強く頷くと、勢いよく立ち上がった。
「行こう、ルビー!」
「うん!」
ルビーの瞳がキラキラと輝く。
オックスの目にも、いつもの精気が宿る。
「討伐の予約が終わったら、すぐに出発だ!」
「忙しくなるわね! 腕が鳴るわ!」
ルビーはニンマリと笑う。
やはりルビーには悲しい顔より、元気な笑顔がよく似合っている。
だがルビーは……
「それで、ルビー。残り400万フィンだけど、ルビーが17万8千フィン持ってるから、俺たちはあといくら稼げばいいんだっけ?」
「へ? えっと、えっと……け、結構な額ね!」
「……狩りの合間に勉強もしような?」




