第56魔 『ルビーのトレーニング』
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灯りを消して1時間ほど経過していた。
寝返りを打つ。もうすっかり暗闇に目が慣れていた。
窓際のベッドで眠るオックスの真っ黒い後ろ頭を見つめる。(バンダナはしていない)
「ねぇ、オックス。起きてる?」
「……なんだ?」
「やっぱり眠れないよね。どうしてだろ? 疲れてるのに」
「初めての外泊だからじゃないか?
2人とも教会以外で寝るのは初めてだからな」
「そっか。言われてみればそうだね」
「ルビー……ごめんな」
「ん? どうして謝るの?」
「本当は、もっと早くこうやって旅に出るべきだったんだ。でも……」
「オックスは、1人じゃご飯を食べられないもんね」
「……それについても、謝る。
利用するようなことをして申し訳ない」
「よいしょ……お邪魔しまーす!」
ルビーは起き上がると、枕持参でオックスのベッドに身体を滑り込ませた。
オックスは驚いた風に、向き直る。額の紋様がはっきりと見えた。
「お、おい、ルビー……」
「ねぇ、オックス。謝らなくていいんだよ?」
「いや、しかし、俺はお前を利用して……」
「それのどこが悪いの?
あたしだって、自分のしたいことのためにオックスを利用してるんだけど?」
「それに、もっと早くルビーに打ち明けていれば、もっと早くシスター・リーチのために……」
「それも謝らなくていいんだよ。
だって、オックスは能力を知られて悪魔だって思われるのが怖かったんだよね?」
「……うん」
「でも、ずっと旅の準備をしてくれてたんでしょ?
2人乗りの鞍を買ってたなんて、知らなかったわ」
「でも、もっと早く……」
「だから謝らなくていいって。
――ねぇ、オックス。手を握ってもいい?」
「あ、あぁ、構わないが……」
「ふふふ、なんて手のかかる子なのかしら。まったく困ったものだわ。
――さぁ、早く寝ましょ。明日は早いんでしょ?
おやすみ、オックス」
ルビーはオックスの、おでこの紋様部分にキスをした。 オックスの身体中にある紋様で、おでこものが、ルビーは一番好きだった。
「おい、ルビー……」
オックスが、何か言っていた。
しかしここでルビーの記憶は途絶えている。
驚くほど早く、ストンと眠りについたのだった。
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一夜明け、オックスたちは宿を出た。
騎竜で2時間ばかり走った、ある小川のほとり。
ルビーが緊張した面持ちで、オックスを見つめている。
「《オウル、ヘムアイア、プロパディス》――明鏡止水!《武具錬成陣》ッ!」
片膝をついたオックス呪文を唱えると、半径1Mの魔方陣が現れた。
そこから何本もの矢が出現し、ぷかぷかぷかと浮いている。
「相変わらず、すごいわねぇ。
ねぇ、これって、あたしも覚えられるかな?」
「そうだな。剣の一本くらいは創れるかもしれん」
「本当!?」
「ただし、20年ばかり修行したらな」
「やっぱりダメかぁ」
「創るのはオレに任せておけばいいんだ。ほら、矢の説明をするぞ?」
「ねぇ、なんでいろんな色があるの? きれいだけどさ」
「実際に使ってみた方が早い。――まずは赤い矢だ。あの岩を射ってみろ。
わかりやすいように、少し強めに魔力を込めてあるから気をつけろよ」
オックスが指で示した先に、大きな岩が見える。
ん? いま魔力って言った? オックスの言葉に少し引っかかった。 だが好奇心が勝った。 早く撃ちたかったルビーは、少しわくわくしながら、赤い矢をつがえ、放った。
ガッ!
なんと矢は、いとも簡単に岩へ突き刺さった。
それだけではない。
矢から炎が発生したかと思うと、またたくまに岩全体を炎で包み込んだのだ。
「これが『炎矢』だ。
次は青い矢を、燃えている岩に射ってみろ」
放心する間もなく指示されたたルビーは、言われたとおり青い矢をつがえ、炎に巻かれる岩に放った。
ズガッ!
やはりたやすく矢は岩に突き刺さる。
そこからビキビキと氷が広がっていき、岩は大きな氷の塊となった。
「これが『氷矢』だ。次は黄色い矢だ」
もはや何も考えずに、ルビーは黄色い矢を氷の岩に向けて放った。
ビシッ!
すると今度は、バリバリと雷のような黄色い光が発生して、岩を覆う氷を破壊した。
「これが『雷矢』だ。魔力を弱めると麻痺させる効果がある。
対人戦で役に立つだろうな。次は……」
「ちょ、ちょっと待って!」
「どうした?」
「めちゃくちゃすごいじゃない!
こんなの見たことないわよ!」
「そう思うよな」
「これを売れば大金持ちになれるわよ!
ウハウハの錬金長者よ! そんでもって教会にお風呂をつけましょう!
お金を取って近所の人にも解放するの!
大衆浴場『ルビーの湯』はきっと大繁盛よ!」
「どんだけ金と風呂が好きなんだ、お前は……。
盛り上がってるところ申し訳ないが、実は錬金で創った道具は24時間で消えるんだよ」
「へ? 全部?」
「うむ」
「この剣も?」
「消える」
「そんな……」
ルビーはがっくりと膝をついた。
「『聖剣ルビーちゃん』が消えちゃうなんて……」
「なんつー名前をつけてるんだ。
まぁ、シスター・ナトリのネーミングセンスに比べればまだマシだがな。
ちなみに『聖剣ルビーちゃん』は、あと数時間でご臨終だ。ハハハ」
「うぅ……悲しいけど仕方ないのね。
じゃあ『聖剣ルビーちゃん2号』に期待しましょう。
――ねぇ、もしかして、剣にも、この矢みたいな効果をつけられるの?」
「可能だ。だが危ないから聖剣ルビーちゃんにはつけないぞ?
ちなみに俺は特殊効果付きの剣を使って狩りをしてたんだ。
使うのは『雷剣』だけだがな。
炎や氷は素材がダメになっちまう。
見てろ――「《オウル、ヘムアイア、プロパディス》――背水不屈《武具錬成陣》」」
オックスの足下に、もう一つの魔方陣が浮かび、剣が四本現れた。
「《飛空剣》」
言うや、四本の剣が高速で飛び立ち、ルビーの射った岩へ刃を立てた。
ゴガガガンッ!
轟音とともに剣が爆発して、岩の一部を大きく破壊した。
ルビーはあんぐりと口を開けて、オックスを見つめた。
「うんうん、わかるわかる。初めて見たらそうなっちゃうよな。
俺も自分でやったときは腰を抜かしたもんだよ。ハハハ」
「すごいじゃない!
ねぇ、これだけすごかったら、タンタル大森林の魔獣だって、あたし達でやっつけられるんじゃない?」
「それがそんなにうまくいかんのだ。
魔方陣から離れると錬成した剣の操作ができなくなるんだよ。
特殊効果はそのままだがな。
それに錬成陣を作るのに5秒もかかっちまう。
Aランクの魔獣がそれを許すとは思えん」
「じゃあ、こそっと近づいて攻撃すれば……」
「不意を突いて、最初の一撃で倒せるならそれでいいかもしれん。
だが仕留め損なったら、やられるのはこっちだぞ。
それに、この技は遠距離攻撃をしてくる敵と相性が悪い。
地面の魔方陣を消されたら手も足も出なくなる」
「そっか……。やっぱり討伐依頼を出すしかないか」
「所詮俺たちは素人なんだ。武器は武器屋って言うだろ?
討伐はプロに任せればいいんだよ」
「だよね。――ねぇ、この灰色の矢はなんなの?」
「灰色が『煙矢』で、黒いのが、さっきの剣で見せた『爆矢』だな。
さぁ、練習を再開するぞ。早く狩りをしないと昼飯抜きになっちまう」
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