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第55魔 『初めての外泊と今後の予定』

 辺りに薄闇が漂い始める。

 空が藍色に変わろうとしていた。


 2人は、大きな一軒の民家に到着する。


「ねぇオックス……もう泊まっちゃうの? まだ暗くないし、もっと先へ行けるんじゃ……」


 少し不満げな声色で、後ろに乗るルビーが言った。


「いいんだ。――とりあえず降りるぞ」


 何か考えがあるのだろう。

 ルビーは渋々と騎竜を降りる。

 腰に下げた剣は、邪魔にならなかった。

 

 この剣は、オックスの錬成術で作ったものだ。

 

 恐ろしく軽く、しかもすっごくかっこいい。

 ルビーのお気に入りである。

 オックスには内緒だが、こっそり名前もつけてある。


 そんなルビーを尻目に、オックスはバッグから、いくらかのお金を取り出すと、民家へ入った。


「ここに泊まるのかぁ」


 残ったルビーは、騎竜ペンタンの手綱を手に、辺りを見渡した。

 

 街道沿いの民家は、多くが宿屋を経営している。

 キャラバン達に快適な旅を提供するためだ。

 宿屋の営業を国が推奨しているのだ。

 

 宿屋として国に登録をしておくと、毎月いくらかのお金が給付される。

 そのため、街道沿いには、こう言った宿泊施設が数多く存在している。


 とはいえ、主な客だった帝国からのキャラバンの往来も、この半年で途絶えている。

 今の収入は、国からの給付だけだろう。

 それだけで生活は出来ているのだろうか?

 

 こんな不景気になったのも、タンタル森林が封鎖されてからだ。


 そのせいで、シスター・リーチが……。


 ルビーが暗い気持ちになった。

 そのとき、民家からオックスが現れた。

 


「大丈夫だそうだ。今夜はここに泊まろう。ペンタンを厩舎に入れるぞ」

 


 言うや、オックスがペンタンを厩舎に引っ張っていく。

 

 厩舎には8つの個室があった。

 宿から見やすい場所にペンタンを入れた。

 

 鞍を外す。

 少し離れた場所にある井戸から水を汲み上げる。

 ペンタンの前にある水飲み場に水を入れると、次は牧草を山ほど持ってきて、ペンタンの前に積んだ。

 

 惚れ惚れするほど手際がいい。

 

 オックスってすごいなぁ、とルビーは感心した。

 これで12歳だというのだから、呆れてしまう。

 でも……とルビーは考える。

 


 ――でも、オックスはちゃんと子供だもん。あたしはそれを知ってるもん。あたしだけが……。

 


「なにをニヤニヤしとるんだ。ほら、さっさと入るぞ?」


 オックスが言って、2つあるバッグの小さい方をルビーに押しつけた。


「二、ニヤニヤなんてしてないわよ!」


 バッグを受け取り、顔を触ってみる。

 ニヤニヤ……してないよね? 

 


 しかし、受け取ったバッグの軽いこと!

 長旅になるというのに、この軽さは……。

 こんなに少ない荷物でいいのだろうか、と不安になってしまう。

 なにしろ、旅の必須アイテムである『炊事道具』を一切持ってきていないのだ。


 ルビーの不安をよそに、オックスは大きなバッグを担いでズンズンと進む。

 そのまま民家へ入っていった。

 


 ルビーも後を追って入る。

 そこは広い食堂となっていた。

 20人は同時に食事ができそうな広さだ。


 しげしげと眺めるルビー。

 そこへ1人のふくよかな中年女性が現れた。ルビーたちを見て目を丸くする。

 


「あらあら、いらっしゃい! しかし、これまたかわいい旅人さんだね!

 ん? 嬢ちゃん達どこかで……って、あんた教会のルビーちゃんじゃない!

 ってことは、隣のこの子は……オックスちゃん?」


 言われてルビーは気づいた。

 この女性は、何度か教会へ祈りを捧げに来ていた。


「は、はい。ルビーとオックスです。

 今日はお世話になります!」


 ルビーがぺこりと頭を下げる。

 女将さんは目を細めて、こりゃ夕食を奮発しなくちゃね、と笑った。


 ∮



「あー! もう最高だったわ!」


 全身から湯気を出しながら、ルビーは興奮気味だ。

 ぴょんと、2つあるベッドの1つに飛び乗る。


「まさかお風呂があるなんてね!」


 コロンと仰向けに興奮冷めやらぬルビーは、清潔な肌着姿だ。

 


「そうか。よかったな」


 対してオックスはそっけない。

 ルビーと同じく、清潔な肌着を身につけている。

 共に女将さんが提供してくれた服だ。

 

 オックスの両肩と両足の太ももにある青い紋様が見える。(バンダナは付けているので額のは見えない)

 いつ見ても不思議なアザだ。と言っても、ルビーは久しぶりに見たのだが。

 

 ん? 右肩にある紋様が、以前見た時より、少し変わっている気が……。

 色が濃くなってる? なぜそこだけ?

 

 すごく気になる。だが、触れないでおこう。

 紋様はオックスのコンプレックスなのだから。


「もっと喜びなさいよ! こんなにふっかふかなベッドなのよ! はぁ、本当にオックスったら……。

 ――ねぇ、ここって一泊いくらだったの? 高かったんじゃない?」


「なんと2人で銀貨3枚だ。

 宿屋が乱立しているから、サービスで差をつけようってことだろ」


「そんなに安いの?

 ご飯も美味しかったし、最高なんだけど!」


「子供料金にしてくれたのかもな。

 旅費が浮いて、こちらとしては大助かりだ」


「ふーん、もうけたわね! それにしても、順調ね! もっと過酷な旅だと思ったわ! あたし、結構覚悟してたのよ?

 それが毎日こんなところに泊まれるなんて、まるで天国じゃない!」


「えっと……そのことなんだが」


「な、なによ、その言いにくそうな顔は! 止めてよね!

 ルビーちゃんの嫌な予感センサーがビンビン反応してるんだけど!?」


「真面目な話……今後の予定を話すとしよう」


 オックスが真剣な顔になり、椅子に座った身体を、ルビーへと向けた。


「うん。どうするの、これから?」

 

 ルビーは表情を引き締め、柔らかいベッドの上で正座をした。


「宿に泊まるのは、今日と明日だけだ」


「へ? だ、だってセシウスの街まで10日はかかるんじゃ……」


「街道を使わずに、森を抜けようと思ってる」


「森って……バラジ湖を東回りで進むってこと?」


「ああ、そうだ」


「なんでよ! そっちだと宿屋がないじゃない!」


「だから宿屋は明日までだと言っただろう。

 ――いいか、シスター・リーチの病状は一刻を争うんだ」


「うん……」


「街道沿いは、かなりの遠回りなんだ。

 急いで10日。遅くなると12日はかかっちまう」


「森を抜けるとどれくらいかかるの?」


「グスタンさんの話では6日でセシウスの街に着くそうだ」


「ということは……5日間は森で野宿なのね」


「イヤか?」


「ううん。シスター・リーチを助けるためだもの。それくらい平気よ。

 ――それで街に着いた後は?」


「冒険者ギルドに行って、タンタル森林の討伐依頼をするつもりだ」


「へ? だって、もうとっくに討伐依頼は出してるんじゃ……」


「いや、恐らく村長は討伐依頼を出していない。

 実際に奴の目をみて、そう感じたんだ」


「村長が嘘をついてるって言うの?

 なんで? なんのためにそんな嘘を?」


「さぁな。どちらにせよ、俺が討伐依頼を出せば、冒険者がなんとかしてくれるだろう。

 それからシスター・リーチを、アモルファス国境都市に運んで医者に診せるんだ」


「で、でも討伐依頼って高いんでしょ?」


「聞いた話では、Aランクモンスターで金貨30枚らしい」


「今あるお金全部じゃないの!

 オックス、いいの? ずっと貯めてきたんでしょ?」


「これでシスター・リーチが助かるんなら安いもんだ。

 ――お前が俺の立場ならどうする?」


「……そうね。全財産使っても助けようとするわ。

 ま、いっか! これからは2人で狩りができるんだもんね!

 バリバリ稼いで、テルルやシスター・ナトリにお菓子を沢山買ってあげましょう!」


「そうだな。頼りにしてるよ、相棒2号さん」


「2号ってなによ!

 まるでお妾さんみたいじゃない! あたしは1号でしょ!?」


「1号はペンタンだ。当然だろ?」


「なによそれ、キーッ!」


「いいから寝るぞ。明日も早いんだ」

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