第51魔 『ルビー、仰天する』
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二度目の休憩、昼下がりの小川のほとり。
サラサラと流れる水の音が、耳に心地よい。
東にあるエクサの森の向こうに、シプロス山脈の雄大な山陵が峰を連ねている。
今いる場所は、ジルコ村から北に20KM程。
たったそれだけで、見慣れているはずのシプロス山脈が、まるで別の山に見える。
山を見るために右に向けた顔を、ルビーは戻した。
手頃な岩に腰を下ろすと、お弁当の蓋を開けて、そして呟く。
「思ったより、ペースがゆっくりなのね」
「そう思うよな?
でも長い距離を走らせるときは、遅いくらいがちょうどいいんだよ。
あとは2時間置きの休憩だな。
無茶をさせると、馬や騎竜は身体を損ねてしまうんだ。
ーーなぁ、ペンタン。そんなのゴメンだよな。おーよしよし。お前は本当にかわいいでしゅねぇ」
猫撫で声で言って、川の水を飲む騎竜の首元を、オックスがやさしく撫でる。
ペンタンは顔を上げ、その通りと言わんばかりに、クエェと鳴いて、パタパタと羽ばたいた。
この男は……とルビーは少しだけ腹を立てた。
騎竜ペンタンやテルルに対してはデレデレにデレる癖して、あたしにはちっとも優しくないんだから、とルビーは思ったが口には出さない。
ふーん、と平静を装って、ルビーはポテトをパンに挟んで頬張った。
いつもより美味しく感じるのは気のせいか。
「モグモグ、ゴックン――オックスさぁ、そういうのって、誰から教わったの?」
「そりゃグスタンさんだよ。
他にもいろいろ教えてもらったぞ。
剣技とか、燻製の作り方とか。あの人は何でも知ってるからな」
「彼女の作り方とかも?」
「それはグスタンさん唯一の不得意分野だ」
「あのさ、シスター・ナトリは、グスタンさんに気があるよね?
今日だって、シスター・リーチの件がなかったら、絶対に気合いの入ったお弁当を持たされてたわよ。
でさ、さっき、グスタンさんに、しばらく来られないって、オックスが言ったじゃない?」
「うむ」
「あのときに、グスタンさんがガッカリしたのってさ。単にお弁当が食べられなくなるからかな?
それともシスター・ナトリと会う口実がなくなるからかしら?」
「あの落胆は、胃袋由来だな。
グスタンさんは良い人だけど、恋とかそういうのに疎いんだ」
「ふーん、誰かさんと同じだね」
ルビーが皮肉ると、オックスは頭にはてなマークを浮かべて首をかげた。
ダメだ、こりゃ。
「――それにしても、いいなぁ!
あたしも剣を教えて欲しいわよ! あとおいしい燻製も作れるようになりたいわ!」
「いいぞ。今度からは、一緒に連れて行ってやるよ。
存分に鍛えて貰うといい。ついでにグスタンさんに、女心を教えてやってくれ。
シスター・ナトリが、どうにも不憫でならん」
あんたがそれを言うか、と思いつつもルビーは驚いた。
聞き間違い……じゃないよね?
「ほ、本当! 絶対だからねッ! 約束だよッ? あとから『やっぱり……』なんて無しだからね!」
「あぁ、約束しよう」
オックスはこういう冗談は言わない。
つまり、今後ルビーはオックスと一緒に働けるのだ!
「きゃー! やったーッ!」
ルビーは喜んだ。と同時に、ある疑問が頭に浮かぶ。
「――ねぇ、そろそろ教えてよ。
どうして今まで、あたしをグスタンさんのところに連れて行ってくれなかったの?」
「……まずは、これを見てくれ。こいつをどう思う?」
おもむろにオックスは、騎竜に吊したバッグを開けて、両手ほどの大きさの皮袋を、2つ取り出した。
それを、ルビーの足下に置き、続けて言った。
「開けてみてくれ」
「な、なによ」
ルビーは、お弁当箱を岩の上に置くと、いぶかしげに皮袋の1つを手に取った。
ズシリ、と重い。
袋の口を開くと……ルビーは硬直した。
丸くした目をシパシパと瞬き、そして、大きく息を吸い込むと、山に反響する程の大声で叫んだ。
「えーーーーッ!!」
なんと、袋には大量の銀貨が詰まっていたのだ。
「こ、こ、こ、これ! い、一体いくらあるの?」
銀貨どころではない。
金貨も何枚か混じっている。
こんなに沢山のお金を見たのは初めてだ。
「ざっと金貨30枚程だ」
「えーーーーーーーーーーッ!」
さらに大きな声を響かせ、ルビーは仰天した。
き、金貨30枚!?
オックス達の住むジルコ村では、多くの村人が小作人として働いている。
その1人あたりの平均的な月の収入は、大銀貨5枚がいいところだ。
ちなみに、大銀貨10枚で、金貨1枚。
つまり、金貨30枚は、村人の平均収入の60ヶ月分――5年分に当たる。
ルビーがたまげるのも無理はない。
さらにいうと、ルビーのお小遣い250年分である。
貯めるには相当長生きしなくてはならない。
「じゃ、じゃあもう一つの袋は……」
ルビーが、お金の袋をしっかと抱え込んだまま、もう一つの袋を膝の上に置いた。
「えーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッ!」
袋を開いて、またまた、さらなる大絶叫をあげ、仰天した。
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