第49魔 『旅の準備』 ※ジルコ村周辺MAP
コンコン。
オックスの部屋のドアを、ルビーはノックした。
「どうぞ、っていうか、いつもみたいに勝手に入れ」
せっかく礼儀正しくしたのに失礼な、と思いながら部屋に入ると、オックスが身支度をしていた。
丈夫な厚手の布製の服に、マント姿だ。
オックスのコンプレックスである額の印は、バンダナで隠してある。
「一応、用意してきたけど……」
皮の軽装備にマント姿のルビーが、おずおずとでオックスに問うた。
オックスはルビーの全身を眺め、フムと頷いて、言った。
「十分だ。あと、着替えを少々と、弓と矢筒だな」
「へ? 剣と矢は要らないの?」
「必要ない。詳しいことは後で話す。
今は俺を信じて、言うとおりにしてくれ」
「でも、食料はお弁当だけで、本当にいいの?
鍋もお皿も用意してないけど……」
「ああ、それも後で話す。
――俺はペンタンの準備をしてくる。用意が出来たら、厩舎に来てくれ」
言うと、重そうな袋1つ担いで、オックスは部屋を出てっいった。
剣どころか、ナイフすら持っていないふうだ。
いろいろ聞きたいことがあった。
だが、ようやく気が変わって、連れて行ってくれるのだ。(狩りとは違うけど……)
うるさくして、オックスの機嫌を損ねたくない。
ルビーは、言われた通りに用意したものを、オックスの机に置いた。
「これでよし、と」
それは手紙だった。
手紙には、
『シスター・ナトリへ
あたしとオックスは、セシウスの街まで薬を買いに行ってきます。
多分一月以内には戻れると思います。
シスター・リーチとテルルには、上手く言っておいて下さい。
オックスが無茶なことしないように、ちゃんと見張ってるから心配しないで。
ルビーより』
∮
オックスは教会裏手にある、厩舎に来ていた。
その一角で、大きな動物が、気持ちよさそうに寝息を立てている。
まるでトカゲのような生物だ
全身鱗に覆われ、頭には大きな角が2本生えている。
前足の代わりに、どう見ても飛べそうにない小さな翼があった。
竜の一種で、『ラプティール』という種族である。
一説によれば、この飛べない羽は、飛竜から進化(退化?)した証しだと言う。
二足歩行の草食動物で、気性は温和。
主に人間の足――騎竜として飼育されている。
通常、移動の手段としての動物は、馬が主流である。
確かに馬の方がスピードが出るし、乗り心地もいい。
だが、馬には看過できない大きな欠点がある。
荒れ地を走れないのだ。
その点、騎竜は岩山をも登ることも可能だ。(騎手の腕次第だが)
しかも、馬よりもスタミナがあり、1日の移動距離で見ると、騎竜に軍配が上がる。
値段は騎竜の方が馬より1.5倍ほど高くなっている。
世の中が全部舗装された道になれば、馬でもいいのだろうけど。
その騎竜に、オックスが近づいていく。
すると騎竜の耳がピクリと動いて、目を開けると、首をもたげてオックスを見た。
「おはよう、ペンタン」
オックスの声に、騎竜ペンタンが勢いよく立ち上がり、クエェッ、と嬉しそうに鳴いた。
隣の厩舎にいる大変痛い名前の馬よりも一回り大きい。
(シスター・ナトリの愛馬:『サンダーボルト・ライトニング』※命名シスター・ナトリ)
首を伸ばすと、角まで入れて3M半以上の高さがある。
全長は尻尾の先まで入れると5M程だ。
オックスが柵を外すと、騎竜――ペンタンは、オックスの腹にぐりぐりと頭を擦りつけてきた。
その頭を愛おしそうに撫でながら、オックスはやさしい声で囁く。
「今日からしばらく走りづめになるけど、よろしく頼むな、相棒」
言葉を理解したのか、ペンタンが首を上げると、羽をばたつかせて、クエクエと鳴いた。
まるで、水くさいな、相棒! オレに任せろ! と言っているようだった。




