第43魔 『俺はオックスだ』
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昼下がりの農村。
6歳になる村のガキ大将ミンバムは、いつものように手下を2人連れて歩いていた。
「なぁ、ミンバム。ほれからどうふる?」
質問をした手下の1人、モールが退屈を持て余すように石を蹴った。
こいつは昨日の夜に前歯が抜けたらしく、口を開くのを恥ずかしがって喋るので、何を言っているのか聞き取りづらい。
気持ちはわかる。
前歯が無い顔は間抜けすぎる。
もし自分に前歯がなかったら、ずっと家に引きこもっているだろう。
「そうだな。トーマスさんのところに卵をぬすみに行くってのはどうだ?」
これはミンバムの強がりだ。
村の養鶏所のトーマス氏は、例え子供であろうと、泥棒には一切の容赦が無い男として有名である。
もし掴まったら、ボコボコにぶん殴られるだろう。
しかも恐ろしいことに、トーマス氏は泥棒の親への報告も怠らないのだ。
まさに悪魔もたじろぐ地獄のフルコースだ。
もちろん、先の発言は手下どもが及び腰になることを見越してのものである。
「そ、それは、ちょっと……」「うん、おれも、それは……」
モールとケイスの2人が、予想通りの反応をした。
なのでミンバムは、予定通りの言葉を口にする。
「おまえらは、ほんとうにどきょうがねぇなぁ」
これでミンバムのガキ大将としての地位はさらに盤石となった。
ぶらぶらと益体もなく3人は歩いた。やがて教会の近くに来ると、薪を運んでいる小さな男の子を発見した。
そいつは、いつもの帽子姿ではなく、頭に包帯を巻いていた。
ミンバムは手下と顔を示し合わせて、ニヤリと笑う。
ガキ大将として、これを見逃すわけにはいかない。
「おい、やるか?」
ミンバムの言葉に、手下が笑顔で同意する。
「おう!」「へへへ、いこうぜ!」
3人は意地悪な顔を貼り付けて、オックスへ駆け寄った。
切り込み隊長は、ガキ大将であるミンバムの仕事だ。
いつものように、後ろから肩を掴んで、ミンバムは言った。
「おい、あくまっこ! ほうたいなんかでかくしても……」
バキッ!
揶揄の途中で、ミンバムは吹っ飛んだ。
残った2人は呆気にとられて、ポカンと口を開けている。
振り抜いた右手の拳が震えるのを、左手で必死に押さえながら、オックスは叫んだ。
「ボク……俺はあくまなんかじゃ……ねぇ! 俺は……俺の名は、オックスだ! いいか! わかったか!」
ミンバムは尻餅をついたまま、言葉が出なかった。
こいつ、本当にあの弱虫オックスなのか?
まるで別人だった。
それに、コイツのパンチは丸太で殴られたような衝撃だった。
こいつ、こんなに強かったのか……。
言葉をなくして呆然としていると、口の中に違和感があった。
違和感の場所は前歯だ。
舌で少し触る。すると、前歯がポロリと落ちた。
暫く呆気にとられたあと、ミンバムは大きな声を上げて、泣きに泣いた。
当分家に引きこもろう。
ミンバムは泣きながら思った。




