表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

43/109

第42魔 『罪の味』

 ∮



 

 ナトリの部屋の中で、オックスは椅子に腰掛けている。

 その額に包帯を巻き終えると、ナトリはホッと息を吐いた。


「これでよし、と」


「……ありがとうございます、シスター・ナトリ」


「あのね、オックス君。アザって言うのは、擦っても消えないのよ?」


 ナトリが膝をついて、オックスに目線を合わせる。


「……」

 

 若い修道女の大きくまん丸な瞳を、オックスは無言で見つめ返す。


「オックス君は悪魔なんかじゃないわ。なんてったって、全能神ローレンシア様の印を授かってるんだから」


「ボクは……あくまじゃないの?」


 おずおずと尋ねるオックスへ、ナトリは大きく頷く。


「オックス君の背中の印は、あの聖人オックス様とまったく同じなのよ? 悪魔なわけないじゃない」


「せいじんオックスさま?」


「そうよ。とってもとーっても偉い方なの。オックス君の名前は、聖人オックス様から頂いたって聞いてるわ」


「でも、ボクは……」


「……誰にいじめられたの?」


「それは……いえません」


「ほら、やっぱり」


「……え?」


「オックス君は、自分をいじめた相手だって、そうやって庇うでしょ? そんないい子が悪魔な訳ないわ。悪魔なら、喜んで名前を喋るわよ」


「でもボクは、あいつらがきらいです……せいじんさまとはちがいます」


「……あのね、オックス君。聖人オックス様だって、完璧なわけじゃないのよ?」


「え? 『せいじん』なのに……?」


「うん、潔癖すぎて、悪いことは少しだって許せなかったらしいの。そのせいで、昔いろいろとやり過ぎちゃったみたいね。今はそうでもないらしいけど」


「でも、シスター。それはいけないことなの? だって、わるいことは、わるいことでしょ?」


「確かにそうなんだけど……うーん、どう言ったらいいかな。――そうだ! オックス君はお掃除するでしょ?」


「うん」


「油汚れは、水じゃ落ちないでしょ?」


「うん」


「油汚れを落とすときは、灰や油を使うわよね?」


「うん」


「それと同じよ。汚れのない聖人様は、どんなにがんばっても、悪い人を改心させられないと思うの。出来たとしても、せいぜい汚れた床を剥ぎ取るみたいに、悪い人へ罰を与えるだけじゃないかしら」


「バツを、あたえるだけ……」


「悪い人にも、それなりの事情があるかも知れないわ。それを理解してあげられるのは、自分でも悪いことを経験した人じゃないかしら。神父様でも、元犯罪者の方が結構いらっしゃるのよ?」


「じゃあ……わるいことは、わるいことだけじゃないの?」


「うん、わたしはそう思うな。だって、神様がわたし達をそうお創りになったんだよ? 必要ないなら、最初から悪いことが出来ないようにするはずよ」


「わるいことが……ひつよう?」


「立場上言っちゃいけないかもだけど……オックス君は、もうちょっと悪い子になってもいいと思うな」


「でも、ボクはシスター達みたいに、もっといいひとに……」


「じゃん! オックス君、これなーんだ?」


 ナトリがポケットから包みを取り出し、封を解いた。


「え? それは……『おかし』? もうなくなったんじゃ……」


「むふふ、こっそり盗んで隠しておいたのだよ。――どう? わたしは良い人? それとも悪い子かしら?」


「それでも……シスター・ナトリはいいひとです」


「ふふ、ありがとう。でも悪い子なのよ。つまりわたしは、良い人でもあり、悪い子でもあるってわけ。でもって、もし死んじゃって、神様に怒られたら、こう言ってやるわ――」


 言葉を切って、ナトリはビシッと指を突き出す。


「『だって神様が、お菓子を盗むわたしをお創りになったんじゃないですか!』ってね」


 言ってウィンク1つすると、お菓子を一切れ取り出してかじった。

 残りをオックスの口に突っ込むと、


「はい、共犯! これでオックス君も『悪い子』仲間だね!」


 修道女はニヤリと笑う。


 オックスの口に、甘い味が広がっていく。

 それは甘くて美味しい(おかし)の味だった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品を読んで頂きありがとうございます!

少しでも気になった方は、ブクマと作品の評価をしてくれるようれしいです!(☆☆☆☆☆をタップするだけです)

★★★★★で、応援していただけるとすごく励みになります!

ブクマも超うれしいです!>

script?guid=on
 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ