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第38魔 『オックス幼年期』

「おい、あくまッ!」「やーい、あくまっこ!」「おまえ、ノロわれてるから捨てられたんだってな!」


 昼下がりの農村。

 教会の前にある原っぱで、大きな声が鳴り響く。


 声の主は3人の少年達だ。

 彼らは、なにかを取り囲んで、悪態をついている。


「あくまやろう、こっちむけよ!」「むしするな、あくま!」「あくま、あくまッ!」


 少年達の中心に、もう1人の人物――少年がいた。

 帽子を目深にかぶったその少年は、沢山の薪を抱えてしゃがみ込んでいる。

 これは少年達による『いじめ』という残酷な狩りだったのだ。


「おい、オックス! あくまのしるし、みせてみろッ!」


 一番大きな子供が、獲物の少年――オックスの帽子を奪い取った。


(男の子にしては長い)黒い髪と、額にある印のようなアザが露わになる。

 薪を落とすと、オックスは慌ててアザを隠した。


「でた! あくまのしるしだ!」「あくまはムラからでていけ!」


 少年達が一斉にオックスを小突き回す。


 オックスはできるだけ小さく身を屈めた。

 いつものように、嵐が過ぎるのをじっと待つ。

 

 次第に興奮が高まったのか、1人がオックスを乱暴に蹴飛ばした。


 たまらず倒れたオックスは、地面に伏せて背を丸める。


「やっつけろ!」「やっちまえ!」「たいじしろ!」

 

 小さな狩人達がさらにヒートアップしたそのとき、新たな声が聞こえた。


「こらーっ! オックスをいじめるなーっ! このーッ!」


 赤い髪の少女が叫び声を上げながら、家畜追い用の棒を持って駆けてくる。


「ル、ルビーだ!」「やべぇ、にげろ!」「ぶんナグられるぞ、にげろ!」


 一転して追われる側になった3人は、一目散に逃げだした。


「――ハァハァ、なんてにげあしのはやい奴らなの!」


 数秒前3人のいた場所で、ルビーと呼ばれた少女は軽く息を整える。 そして悪ガキ達が投げ捨てたオックスの帽子を拾い、パンパンと土を払った。

 

「ほらオックス、だいじょうぶ? っていうか、すこしはやりかえしなさいよ!」


 ルビーはあきれた顔で帽子を差し出す。


「…………」

 

 オックスは無言で起き上がる。

 ルビーから帽子を受け取って、深くかぶる。

 地面に散らばった薪を拾い集めると、そのまま何も言わずに、教会の裏手へ歩いて行った。


「おれいくらいいいなさいよ。――はぁ、まったくオックスには、ほんとうに困ったものだわ」


 ヤレヤレと大袈裟に首を振り、ルビーが大人じみた溜息をこぼす。

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