第36魔 『従魔緊急会議』
「ここは……教会じゃな。まずいことになった」
「ハッシ様! ウチら、どないすれば……」
「ダームちゃん、落ち着きなさい。慌てても、事態は変わりませんわ――シーちゃん、ボーリは、今どうなっていますの?」
「ダメです、マイトネさん! まだ意識が戻りません!」
「『大天使の聖槍』に貫かれたのじゃ。生きてるだけで奇蹟じゃよ」
「赤ちゃん……いえ、赤様になってしまった旦那様は、魔力が少ないですわ。ボーリが傷を回復しようにも、このままでは……」
「おいおい、ここは教会だぜ? ボーリの傷よりも、心配することが、他にあるだろうが」
「え? ラボさん、それは、どういう意味ですの?」
「いいか、マイトネ。ここは教会――つまり天使の領域なんだぜ? 俺様達はここにいるだけで、少しずつ魔力を消費しちまうって話だよ。さっきからハッシが心配してるのは、それだぜ」
「そ、そうか! ボク達の魔力が減ると、オックス様から……」
「このままでは、旦那様の命が、あぶないのですわね……」
「その通りじゃ。――ドブニ、ずっと黙っておるが、お主の意見は?」
「……このまま主君が死ねば、我らは解放される」
「「「この悪魔ッ!」」」
「いや……悪魔なのだが……」
「信じられませんわ! こんなにかわいい赤様を、見捨てるだなんて!」
「ボクは断固反対です! あの魔人の糞野郎は、死んで欲しいけどさ……」
「ウチも反対やな。赤ん坊のオックス様を見殺しにするやなんて、目覚めが悪うて仕方ないわぁ。そやけど、魔人はなぁ……。あれはあかん。敵とはいえ、羽を毟り取るなんて、人のやるこっちゃないわ」
「魔人の命令に従う義理はございませんわ。あいつが出てきても無視してやりましょう」
「それじゃ足りないよ! 今度会ったら、ボクがぶん殴ってやるっつーの! あいつはボーリを見殺しにしたんだ!」
「そやな。ちょっとお灸を据えたろか。って多分ウチらじゃ、勝てへんけどな。ふへへへ」
「そこは、みんなで力を合わせればよろしいですわ。でも半殺しまでですわよ? 旦那様が死んでしまっては、元も子もありませんわ」
「うんうん、それで行こう! って言っても、魔人の野郎は、大天使バークリウムに封印されたんだっけ?」
「みたいやな。この印紋がそうやろ? 7つあるけど、どういう仕組みなんやろな?」
「あんな奴、一生封印しておけばいいんだってーの!」
「この封印が旦那様に影響なければよろしいのですが……。ねぇ、ドブニ」
「……なんだ?」
「旦那様が死ねば……って話ですけれども。ドブニは、旦那様が死んでも平気なんですの?」
「……わたしが守るのは、主君の〝命令〟だ。〝命〟ではない」
「「「この悪魔ぁッ!」」」
「いや……だから悪魔だと……」
「まぁ、待つがよい。このままじゃと、ボーリも我が主殿も……ということになるぞ」
「……活動を停止するしかねぇな」
「活動を停止? ラボさん、それはどういう意味ですの?」
「俺様達の〝刻〟を止めるって意味だぜ」
「……なるほどのう。刻を止めれば、妾達の魔力消費も無くなり、主殿も生きていけよう」
「で、でも、ハッシ様、ボク達の止まった〝刻〟は、誰が動かすんですか?」
「……わからぬ。そもそも、このような事態は、前例がないのじゃ」
「……他に方法はありませんわね」
「しゃあないなぁ。ほな、眠りましょか」
「うん、仕方ないよね」
「カカカ、心配するな! なるようになるもんだぜ!」
「ドブニも、それでよいか?」
「……ああ」
「ボーリは、意識だけを止めればよかろう」
「傷は自然治癒に任せる……というわけですわね」
「ボーリ! ボク達が目覚める前に、死んじゃダメだよ! また会おうね!」
「それでは……あら? まぁ! みなさん、ご覧になって! 旦那様が笑ってますわ!」
「本当だ! うわぁ、かわいいなぁ」
「今、ウチの顔を見て笑うたで! ふへへへ」
「おうおう、なんという愛い赤子じゃ。ドブニも見てみるがよい」
「…………うん、たしかにな」
「赤ん坊はどいつもこいつも、かわいいのが仕事なんだぜ! カカカ!」
「……では、そろそろ……じゃな」
「はい……それでは、また、ですわ!」
「ほな!」
「それじゃあ!」
「カカカ、またな!」
「……いつでも構わん」
「それでは、皆の者、また会おうぞ!」
【後書き】
誰が誰かわかったでしょうか?
わからなかったら、第18魔の後書きに従魔一覧がありますのでご覧下さい。




