表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

32/109

第32魔 『静かな怒り』

「お前が噂の〝バークリウム様〟か」


「噂、ですか。

 フェルミンから何を聞いたのか、大体想像はつきます。

 あの子はどうにも、わたしを神聖化しすぎるきらいがありまして。

 なので、その噂は忘れていただけると幸いです」


「で、ここに何しに来たんだ? ええ? 〝淫乱大天使〟さまよぉ」


「お話をする前に、少しお時間をいただきます」


 キッパリと、魔人オックスの挑発をバークリウムは受け流した。

 そして巨大な盾を置くと、なんと魔人へ無防備な背中を晒したのだった。


「ちッ、なめやがって」


 魔人はその背中に、嬉々として襲い……かからなかった。

 攻撃をしようとはしたのだ。

 しかし、できなかった。


「くそッ! なんだこいつはッ!」


 攻撃の通じるイメージが、どうしてもできない。

 何度シミュレートしてみても、ダメだった。

 隙だらけなのに、この女にはまったく隙がない。


 バークリウムは、魔人がいないかのように膝をついた。

 そこには、血にまみれた、痛ましい姿の天使フェルミンが横たわっている。

 

「可哀想に……。さぞ、痛かったでしょう。さぞ、恐ろしかったでしょうに……」


 バークリウムの瞳から、水晶の様な大粒の涙が1滴、2滴とこぼれ落ちる。

 そして、天使フェルミンの涙と血に濡れた顔を、優しくそっと撫でながら、呪文を唱えた。


「《アセチレン・ベンジル・ジメチル・グルコース》 神の光よ、その御技を持って、傷を癒やしたまえ。――《神光の抱擁》……」


 フェルミンの身体が、パア、とオレンジ色の光に包まれる。

 光の中、ちぎれた羽の傷が、瞬く間に塞がっていく。

 血の跡も綺麗に消えている。

 苦悶の表情は嘘のように安らかな寝顔となった。


「おいおい、()()魔法かよ」


 魔人オックスが呆れるような声を上げた。

 

 生前、オックスも()()魔法は使えた。

 だが、それは自分の傷の治りを早くする魔術だ。

 他人の傷を癒やすことはできない。


 魔人オックスの言葉を、バークリウムはやはり無視した。

 フェルミンの身体を大事そうに、まるで乳飲み子を抱える聖母のように抱える。


 大天使の細い腕の中で、フェルミンは無垢な赤子のように安らかな寝息を立てている。

 その身体が、まるで羽毛のごとくフワリフワリと宙に浮いていく。

 

「ご苦労様でした、フェルミン……。あとは任せて、ゆっくりおやすみなさい」


 フワフワと空へ昇ると、フェルミンを包む光が輝きを増していく。

 数秒の後――光は消えた。

 もうフェルミンの身体は、どこにも見当たらない。


「グルルルルルッ。――オックス様ッ!」


 フェルミンが消えて、荊の拘束が解けたのか、【暴食のボーリ】が魔人と大天使の間に、割って入った。


「……えっと、オックス様っすよね?」


 大きな虎が振り返ると、困惑の声で問う。


「他に誰がいる?」


「いや、あまりに印象が違うんで、びっくりしたんす。オックス様、こいつはヤバいっすッ。十翼の天使は怒らせちゃダメッスよッ」


「そうか。だが手遅れだ」


「さて――」


 巨大な盾を持つと、バークリウムが立ち上がった。

 下を向いたまま、盾を少し持ち上げ、


 ガイィィンッ!


 その身体からは想像できないほど猛烈な力で床へ打ち付けた。


 ビキビキビキビキビキビキッ!


 蜘蛛の巣状のヒビが、虎の足下まで広がる。


 そうして大天使は、ゆっくりと魔人達へ顔を向ける。


 その表情は、先ほどまでの柔和なものではない。

 子を慈しむような眼差しは、今や面影もなかった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
この作品を読んで頂きありがとうございます!

少しでも気になった方は、ブクマと作品の評価をしてくれるようれしいです!(☆☆☆☆☆をタップするだけです)

★★★★★で、応援していただけるとすごく励みになります!

ブクマも超うれしいです!>

script?guid=on
 小説家になろう 勝手にランキング
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ