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第3魔 『大悪魔ブラセオ』



 天使の消えた場所には、足を高く上げて、男が立っている。


「ダメダメダメダメ、ぜーんぜんダメッ!」


 男が言って、チッチッチ、と人差し指を振った。

 肩に届くほどの黒髪に、黒い礼服と黒いステッキ。

 全身黒ずくめの男は、天使の顔面を蹴った足を下ろす。


「悪魔、か」


 無駄な警戒をしつつも、オックスが言った。

 先の攻撃が、オックスに向けられたなら、いくら警戒しても意味は無い。

 だが、恐らく攻撃はされない。

 この悪魔が現れた理由は、おおよその見当がついている。


「正解ですッ。我が名はブラセオ。

 ――まったく、こーんな重要人物を、下級天使なんかに任せちゃダメでしょ――よっと」


 悪魔ブラセオの腰から、勢いよく羽が現れた。

 パンッ!

 音がはじけて、衝撃波が生じる。


「ぐッ」


 咄嗟に障壁を張って、オックスは、その場に踏みとどまった。

 無駄かと思われた先の警戒が、役に立ったわけだ。


「我が輩、こういうの、イヤなんですよねぇ。

 ほら、なんて言うんです?

 『ワタクシ、こんなに偉いんザマスヨ』と自慢しているようで」


 男の腰から生えた羽は、見事な漆黒だ。

 その数10枚。


 恐ろしいほど、高位の悪魔だ。

 というか最高位ではないか?


 立ち振る舞いから、並みの悪魔ではないと思ってはいた。

 まさか、これほどとはな。


「あなたもそう――」


 言うや、何もない空間を掴むと、高く舞い上がった。


「思いませんかッ!?」

 

 掴んだまま、床へ叩きつける。


 ゴバンッ!


 轟音が鳴り響く。

 オックスは咄嗟に、腕で顔面をガードした。


 ――腕を降ろすと、なんと床には大きなクレーターができていた。


「くッ……ブラセオかッ。

 どうしてここにッ!――離せッ。

 この汚らわしい悪魔めがッ」


 クレーターの中心で抑えられて、ジタバタと暴れる人物がいる。


 天使フェルミンだった。

 生きていたことに、オックスはひとまず安心した。

 しかも、なんと無傷だ。


 攻撃する側もされる側も、そろって化け物か。



「ご要望通りに」

「ぐッ!」


 悪魔ブラセオが手を離すと地面から柱が生えた。

 かと思えば、悪魔のステッキが縄へと変わり、瞬く間に天使フェルミンを拘束した。


 縄の先端が、身動きできない天使の眼前で、鎌首をもたげている。

 いや、縄に見えたのは、黒く、長い、一匹の蛇だ。


 仕方ないな、と助けに動いたオックスを、悪魔が手だけで制す。

 瞬間――オックスの全身が、鉛を流し込まれたように固まった。


 顔を向けずに、悪魔は右腕だけオックスへ向けて、チッチッチと人差し指を振る。

 その様は、なんとも言えず絵になっている。


「こんな……屈辱……。解けッ! 解きなさい!」


 恥辱にまみれた顔で、天使フェルミンが叫んだ。

 ギチギチと蛇が、その真っ白な肌を締め上げる。


「ククク。悪魔にお願い、ですか」

 

 悪魔はニタリと嗤うと、2つに分かれた長い舌を出す。

 チロチロと動く舌が、天使の首筋を、ゆっくりと這いずる。


「ひッ……」


 天使が身を捩ろうとする。

 しかし、身体に巻き付く蛇は、びくともしない。


 オックスは……動けない。


 悪魔の黒い手袋が、天使のドレスの裾をめくり、足の内側に触れる。

 その手が少しずつ上へ……。


 明らかな陵辱だった。

 にもかかわらず、2人が被害者と加害者の関係に見えないのは、なぜなのか。

 これが、悪魔の悪魔たる所以か。

 どちらにせよ、男女の機微というやつは、オックスにはわからない。


「いやいやいや……や……やめ……て……。あぁ……」


 数分の間、天使を愛しい恋人のように、悪魔は愛撫した。

 天使の表情が、怒りから別の色へ変化する。

 そして白い羽が、灰色へ濁ろうとしたとき……。


「あ、やめます?」


 悪魔がパッと離れた。


 天使は名残惜しそうな表情を浮かべる。

 次の瞬間に、ハッとなると、赤くした顔を恥じるように背けた。


 その様子を、満足げに悪魔は眺めて、


「我が輩は、お嬢ちゃんレベルの天使なんて、どうでもいいのですよ。ーーさて」


 天使からオックスへ、視線を移す。 


 同時にオックスの身体が拘束から解放される。

 生かすも殺すも、悪魔の気分次第ってわけだ。

 やれやれ、自分の命がこんなに軽く感じるとはな。


 自分の命運を握る悪魔の目を真っ直ぐ見つめて、オックスは言う。


「上位悪魔が、私になんの用だ?」


 わかりきった質問だった。

 悪魔がここにいる理由と、オックスを殺さない理由は、恐らく同一だ。


「もちろん」


 悪魔は、(うやうや)しく礼をした。

 そして顔だけを上げると、予想通りの言葉を述べる。


「あなたのスカウトに参りました」


 悪魔は、ニタリと(わら)う。


 その姿は、やはり絵になっていた。

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