第26魔 『とある天使さんの思考』
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オックスを吊り上げたまま、天使は硬直していた。
まるで蝋で固めたように、ピクリとも動かない。
聖人とは言え、下等で下劣な人間に、〝汚い〟〝淫乱〟とまで言われたのだ。
その屈辱は、いかばかりか。
怒りが臨界を越えている、と天使フェルミンは、冷静に自らを判断する。
怒りが振り切れると逆に冷静になるのだと、身をもって知った。
恐ろしいほど冷めた頭で、目の前で呻いている糞を見つめる。
「さて、どうしてくれましょうか」
天使フェルミンは、天使であることに、そして【純潔】の天使であることに、誇りを持っている。
この糞人間は、その誇りをまるごと否定して、その上で侮辱したのだ。
【純潔】の手本たる自分を否定すること。
それすなわち、大天使バークリウムを否定するも同義だ。
天使フェルミンの敬愛する、【純潔】の十翼、美しき大天使バークリウム様を、だ。
天使フェルミンは考えた。
ああ、バークリウム様、バークリウム様、バークリウム様、バークリウム様。
わたしの威厳が足りないばかりに、あなた様の名誉まで傷つけてしまったことを、お許しください。
果たして、この罪深い人間を許せるでしょうか?
許されるべきでしょうか?
いえ、そんなことありません。
絶対にありえません。
わたしは許しません。許しませんとも。
きっと、神もお許しになりませんわ。
だって、あの美しく、聡明で、汚れを知らない大天使バークリウム様を、侮辱したんですもの。
ツバを吐いて、土足で踏みにじったんですもの。
許せるはずありませんわ。
こんな罰当たりな人間を、天界に召し抱えるだなんて、とんでもありません。
きっと誰もがそう思うはずです。
そうですとも。
神の手を煩わせるまでもありません。
わたしが処罰いたしましょう。
ええ、そうです。
神の御名において、この罪人を罰するのです。
ふふふ、バークリウム様の名誉を汚した罪は、その死をもって償わせましょう。
ああ、バークリウム様。バークリウム様。
こんなに気の回るわたしを、貴女は誉めてくれるでしょうか。
温かい微笑みを与えてくれるでしょうか。
くふ、くふふふふ……ん? あれは……。
そのとき、糞悪魔の糞虎女が、こちらに向かってくるのが見えた。
「くふふ、困りましたね。邪魔をされては、この糞罪人に、天罰を与えられないじゃないですか」
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