第25魔 『ある大悪魔さんの憂鬱』
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【暴食のボーリ】が、オックスの救援に走った。
悪魔ブラセオは、ジリジリとした気持ちで立っている。
今にもオックスが殺されてしまうというのに、ただ眺めているしかできない。
ちらりと右に目をやる。
頭の固い女悪魔が、やはりピクリともせず構えている。
――腹立たしいですね。
ブラセオは考えた。
他の5人は、何とかなります。
問題は【憤怒】ドブニです。
こいつの間合いから、強引な離脱は、まぁ可能です。
ですが、無傷とはいかないでしょうね。
それに時間がかかります。
結局は間に合いません。怪我をするだけ無駄です。
我が輩、乳のない女と、無駄なことは、大、大、大嫌いなのです。
実に腹立たしいですね。
いっそ殺してしまいましょうか。
ドブニは……うん、距離を取って戦えば、軍配が上がるのは、間違いなく我が輩です。
ですが、この近距離で、しかも、既に構えているドブニ相手に……。
いえ……戦う必要はありません。
わかっています。
我が輩の加護を、オックス君に与えればいいのです。
そうすれば、四翼の天使フェルミンごときは敵ではありません。
なるほどですね。
恐らく、オックス君の狙いは、初めからこれだったのでしょう。
『自らをピンチに追い込んで、我が輩の加護を受ける』
それがオックス君の計略でしょう。
実に頭のいい男です。
それに度胸もあります。
我が輩は、まんまとしてやられたわけです。
策略に乗るのは、気分が悪いです。
――ですが、仕方ありませんな。
彼を殺させるわけにはいかないのです
オックス君の強化は、あの方から指示を受けていません。
とはいえ、強化するなとも言われてません。
我が輩の判断に任せている、と判断していいでしょう。
となると……うむ、やはり問題はドブニですね。
この唐変木で、頭でっかちの貧乳悪魔は、オックス君の指示を愚直に守るでしょう。
己の貞操がごとく、死守するでしょう。
果たして、加護の付与は、『オックス君の邪魔』に当たるでしょうか?
我が輩の判断では、当たりません。
しかし、この鉄板胸はどう思うでしょうか。
むむ、この胸のない悪魔に、お前はどう判断するか、なんて尋ねるのもシャクですね。
まるで、顔色を窺っているみたいじゃないですか。
こいつの胸を見て興奮していると勘違いされるくらい、それは恥ずかしいことです。
恥ずべきことです。
『お前、今わたしの胸を見てただろう? このスケベェが』
何て言われたら、我が輩、生きていける自信がありません。
その場で自害して身の潔白を証明する所存です。
そもそも見ようにも、その胸がないのです。
言いがかりにも程があります。詐欺にも程があります。
もういっそ、今すぐに加護を授けてしまいましょうか。
……いえ、ダメです。
そんな博打など、我が輩は嫌いです。
一か八かは性に合いません。
もし加護を授けるそぶりを、少しでも見せれば……。
女を捨てたこの悪魔は、我が輩に斬りかかって来るでしょう。
貧相な乳を振り乱して、無乳剣を振りかざしつつ飛び掛かってくるでしょうな。
実に、実に、腹立たしいですね。
ボーリが天使フェルミンを相手しているうちに……。
その間に、加護を与えなければならないのです。
さあ、オックス君ッ!
頭も乳も固いこの女悪魔に、命令の撤回を、早くッ!




