第20魔 『武具錬成陣』
「これは、どういうことです? 聖人オックスよ」
天使フェルミンは、平然と言ってのけた。
オックスの拳は、顔面に届くことなく止まっている。
やはりというか、天使の防御障壁だ。
オックスは即座にバックステップで距離を取る。
「いやなに。あなたの態度が、少しばかり鼻についたものでね」
話しながらも、術式を展開する。
――硬度50、範囲50で様子を見るか。
オックスの周りに、透明なシールドが浮かぶ。
これがオックスの防御障壁だ。
「……どうやら、悪魔に持ち上げられて、少々勘違いしているようですね」
天使フェルミンが、ヤレヤレといった顔で首を振る。
「仕方ありません。少しだけ、お灸を据えてあげましょう」
瞬間ッ! 天使の姿が消えた!
「グッ!」
咄嗟にガードした右腕に、とんでもない衝撃。
飛ばされた身体を空中で立て直す。
元いた場所に目をやるも、天使の姿は無い。
「どこを見てるのですか?」
背後からの声とほぼ同時に、背中へ衝撃があった。
「ガッ!」
今度は前方へ吹き飛ぶ。
地面に着く間もなく加えられた連続攻撃だ。
どちらの攻撃にも障壁は機能していた。
なのに、このダメージか。
オックスは飛ばされながら、空中に固定防御障壁を作る。
それを足場に高く飛び、前転。
「《石塊連弾》ッ!」
逆さの状態で、後方へ連続範囲魔術を放つ。
バガンッ!
が、手応えはない。
着地したオックスは、愕然とする。
「まさか、ここまでの戦力差とはな」
ほんの一瞬の手合わせで、絶望的な力の差を痛感した。
自慢の防御障壁も、全く意味を成していない。
人間相手には不敗を誇るオックスの自信が、ガラガラと音を立てて崩れ落ちた。
「驚きました。それだけの戦闘能力を得るために、どれほどの鍛錬を課してきたのか……。」
眼前5メルの距離に現れると、天使フェルミンは驚いたふうな顔を作った。
「しかし、所詮は人間の身体です。――さあ、お遊びはこれくらいにして、共に参りましょう」
わたしは気にしていませんよ、と言いたげな笑顔で、再び手を差し出す。
(なまなかなことでは、顔色1つ変えられぬか。ならば――)
攻撃力、防御力、魔力、体力、気力……。
戦闘に関わる要素のほぼすべてにおいて、オックスは天使に劣っている。
つまり、戦闘が長引くほど、オックスが不利になる。
唯一勝負になるのは……『人間の技』だ。
オックスは天使の誘いを無視して、
「《オウル、ヘムアイア、プロパディス》――背水不屈ッ!《武具錬成陣》ッ!」
呪文を唱え、天使をキッと睨み据えた。
(出し惜しみは無しだ!)




