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第13魔 『【強欲】は眉を剃り【憤怒】は十翼に挑む』

「ん……」


 オックスが目を開ける。

 辺り一面に、荒凉とした沼地が広がっている。


「ここは……スカンジ地方の湿地帯か」


 スカンジ地方は、帝国のあるジオーラル大陸の西端に位置する。

 主にスカンジ湿地帯と呼ばれる沼地に占められた、不毛の土地である。

 ちなみに【色欲】が現れた監獄都市ミスガンドは、このスカンジ地方のすぐ東だ。


 地面が柔らかいため、大きな建造物は建てられない。

 年中湿度が高く、毒を持つ生物や植物が多く生息して、農業に適した土地も少ない。

 要するに、人を寄せ付けない場所だ。

 上記の土地柄は、帝国がここへ侵攻しない理由でもある。


 視界に映るのは、点在する沼と、景色を妨げない程度に生えた背の低い樹木。

 正面200M程の距離に、複数の木造家屋が見える。



 そしてオックスは、今回もご多分に漏れず、身体が動かない。

 まったく、いい加減にしてほしいものだ。


 何とか拘束を解除できないものかと思案していると、目の前の空間から人が現れた。

 その数2人。

 毎度おなじみの光景になりつつある、転移魔法だ。



「はじめまして、我が主様よ。妾の名はハッシ。『強欲』の六翼じゃ」


 珍しい服を着た女悪魔が、恭しく頭を下げる。

 見た目で判断すると、年の頃は20代後半だ。


 この服はヤマト王国の、しかも高貴な女性が着る『着物』と呼ばれる召し物だ。

 色は赤。

 派手な原色を、上品に着こなしている。

 

 長い黒髪は艶やかな光を放つ。

 よほど手入れしないと、ここまで美しい髪は維持できまい。

 

 その顔に眉は無い。

 かわりに、額の中央に2つの黒い墨で印が2つ。

 ヤマト大国では、皇族が、このような化粧を施すと聞く。

 この悪魔も高貴な生まれなのだろう。

 何年前の話かは知らぬがな。


 しかし、まさか六翼とは。

 四翼の実力を見せつけられた今、六翼の強さなど想像もできん。


 ふと、黒い礼服姿の悪魔が、頭に浮かぶ。

 

 ――いわんや、十翼の悪魔ブラセオをや、だな。

 


「お初にお目にかかる、我が主君。――わたしはドブニ。【憤怒】のドブニだ」


 片膝をついてオックスに礼をする。


 ぬかるみで汚れようがお構いなしか。


 見た目は20台前半の女悪魔だ。

 こちらも着物を着ている。

 ただし、こちらは『着流し』と呼ばれる着物だ。

 ヤマト王国では、男性の普段着とされている。

 

 髪はやはり黒。

 ハッシほどではないにしても、美しい光沢を持つ。

 

 長い髪を後ろでくくり、化粧っ気はない。

 キリリとした自前の眉が、意志の強さを感じさせる。


 翼の数を言わないのは、なにか理由が?

 

 オックスの表情を読んだのか、【強欲】ハッシがフォローを入れる。


「我が主様。ドブニの非礼を許されよ。翼位は示さずとも、ドブニの強さは本物じゃ。それは妾が保証しようぞ。とは言え、論より証拠。見て貰えば納得してもらえよう。む?――来たな」


 ハッシが視線を建物に移す。

 オックスもそちらを見やると、木製の建物から、ぞろぞろと人影が現れた。

 

 太陽の下でテラテラと緑の光沢を浮かべる体躯。

 オックスの太ももほど太い尻尾。

 全身を覆う大きな鱗に、のっぺりとした顔。

 

 リザードマンだ。

 

 種としてのリザードマンは、人間と表だって敵対はしていない。

 だが、決して友好的とも言えない。


 リザードマンの男は全員、戦士として育てられる。

 いわゆる戦闘種族だ。

 その動体視力、筋力は人間の比ではない。


 魔法を使う者はいない。

 だが、全身の鱗がある。

 その防御力は魔法障壁に匹敵するほどだ。

 並の剣戟では傷ひとつ入れられはしまい。

 

 優秀なリザードマンの戦士になると、総合力はAランクの冒険者クラスだ。


 そのリザードマンの戦士達が、こちらに向かって来ている。

 総勢10人。


 こちらを認識するや、怒声をあげて突進の速度を上げる。

 早い。

 足場の悪い沼地を、滑るように走ってくる。

 互いの死線が重なるまで、あと数秒。

挿絵(By みてみん)

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