第二話 日本の留学生 大和帝国に行く
新世界歴659年 11月21日 大和帝国 帝都空港 国際ターミナル
第一陣の『日本』からの留学生が大和帝国に来る。この留学生受け入れに対して留学中は学費、宿泊費、食費といった費用の負担は全て大和帝国側が持ち、警備に対しても全力で尽くすという殺すと書いてマジという位の殺気篭った『大和帝国』側の外交官が『日本』側に出した条件に『日本』政府は困惑はした。それでも国内情勢が回復に向かっているとはいえ油断が許されない『日本』で国際関係が不安定という条件で留学生を送るという案は難しかったがこの世界で初めて国交を樹立した『大和帝国』側にも配慮が必要な事もあり、転移して僅か一年と少しという短い期間に留学生を送る事に『日本』国内で賛否両論があったが可決はされた。
「はぁ〜やっと着いた」
『日本』の成田空港から3時間弱の飛行機の旅を終えて『大和帝国』の国際ターミナルに降りて背筋を伸ばして空港内を見渡した日本人学生。身長172センチと日本人にとっては特別大きい訳でない中肉中背で髪型が黒髪と容姿も『日本』の学校では特徴がないのが特徴と言われる程に普通の容姿をしている彼は山崎 健二。
今回の諜報的処置で可決された日本人留学生第一陣として『大和帝国』に留学生としてきた学生の一人である。彼は基本的に好奇心は旺盛だが、だからといって転移してまもない海外の情報が曖昧な『大和帝国』の留学生として「無理して行くことないな」と、行こうとは思わなかったが学費、宿泊費、食費といった費用が免除と聞いてある程度の私物の購入も『大和帝国』側が引き受けてくれると聞いて「じゃあ行くわ」と、決めて親や姉妹達、果ては友人や担任から呆れられ苦笑いされた。この様な性格の為に周りからは良く言えば思いっきりが良い、悪く言えば短絡的で考えなしという評価である。
「さてと、大和帝国は美人が多いって噂で聞いたけどお近づきになれるかな?」
最低でもお友達に、最高を望むなら恋人関係で大人な関係をと思春期な『日本』の少年の典型的な妄想をしながら未知な異世界国家に彼は足を踏み入れる。しかし、彼を含めた留学生達は後で思い知る。この世界の女性達は男性に飢えており肉食獣である事に……。
ーーー。
『日本』の成田空港から出発して帝都空港に到着する何十分前は空港は女性達の戦場となっていた……。
『大和帝国』の最も広く国内・海外で利用される事が多い『大和帝国』の首都である『帝都・秋桜』に近い帝都空港は長期休みになれば空港は人で沢山になるが、今日は平日の昼間で長期休みの時期でもないのに長期休み以上の人が空港に殺到していた。
「おい!日本人留学生が今日来る事は超重要機密事項だったはずだぞ!なんだあの暴徒に近い民衆の数は!?」
この事態に今回の日本人留学生の警備の小隊長に抜擢され『大和帝国』の空港警察官は部下に怒鳴った。彼女が怒鳴るのも無理はなく、今回の留学生が来る事がマスコミに知らて空港に男性観たさに集まられて困る為に、今回の日本人留学生が来る事は重要機密事項であった。
その為に今回の空港警察の人選も信頼がある選りすぐりが選ばれ、特別に空港警備に軍が動く事はないが陸海軍も空港警備に加わり、陸軍と海軍でも一番下でもベテランの下士官から指揮官もエリートの中のエリートが選ばれており任務が通達された一週間前であり任務内容を漏らせば重罪とまで念を押したのだから『大和帝国』側の本気がよくわかる。
「重要機密事項なんてそういうものよ。細かい内容は分からずとも噂程度の域をでない情報は簡単に流れる……本来なら噂程度の情報に文屋さんも無視はするけど内容が内容だからね」
「ちゅ、中尉殿」
陸軍士官の登場に現場の警備に付いている警察と軍人は敬礼する。
その士官は茶色の軍服を見に纏う女性士官である。この士官の服装をミリタリー好きの日本人が見たら旧大日本帝国陸軍の格好だと思うだろう。
この士官こそ今回空港警備の現場の最高指揮官として抜擢された人物だ。
「申し訳ございません。軍の方にも協力してもらいながらこの体たらく」
「構わないわ。それよりも早く民衆を実力行使で退かすわよ。このままだと即席で作ったバリケードが破られて空港に雪崩れ込んで来るのは時間の問題よ。島田首相閣下からは現場の判断で逮捕、最悪は短機関銃の使用も許可が下りてるから」
「よ、よろしいのですか?」
女性陸軍士官の命令に小隊長の女性空港警官は戸惑いが隠せなかった。
「当たり前よ。飢えた獣を日本の留学生達に合わせるつもりなの貴女。あんな状態で日本人男性に合わせたら獣達は日本人を拉致、下手をしたらその場で身ぐるみ剥いでヤルわよ。今回の日本人留学生の件だって上が無理を日本政府に打診して叶った千載一遇のチャンスなのよ。それを貴女はあんな獣達の欲望が原因で台無しにしていいの?男の価値もわからないヤリたいだけの屑の命百人より日本人男性一人の方が断然価値はあるわ……さあ、早くやりなさい」
「りょ、了解しました」
この士官の暴力的決定により、空港に押しかけた暴徒に近い女性民衆はバリケードを破る寸前であったが見事に制圧した。近くの陸軍・海軍の駐屯所より応援を要請し、催涙弾を叩き込み地獄絵図となった空港であったが政府の超法規的処置により空港に押しつけた民衆は全て逮捕され刑務所に行く事になった。
この政府や軍の行動にマスコミや民衆は非難はしたが、日本人留学生が危険となると現場の良識的判断として政府や軍は避難を突っぱねた。それよりも重要機密事項を民衆にリークしたマスコミや一部の軍、警察の関係者が重罪として囚われた。この政府の行動に今回の日本人留学生の件では政府やそれに関わる人間たちは本気であると理解した民衆は恐怖を感じ、一時的だが大人しくなった。
ーーー。
「我が大和帝国へようこそ日本の皆様!私は今回皆様の警備責任者を任されました真田です!」
「「「「「よろしくお願いします!」」」」」
つい到着より数十分前に戦場となっていた事は知らない日本人男子留学生達は挨拶をして返した。キリッとしてモデルの様なカッコイイ女性がミリタリールックをして出迎えしているから留学生の日本人男子学生達はテンションが高かった。
「あのお姉さん達カッコいいな!」
「ああ、並なモデルよりも綺麗だからミリタリールックが似合うぜ」
「噂通り大和帝国の女性てレベル高い人が多いんだな」
案内が四十代から五十代の学園のおばちゃんと思っていた男子留学生達だが、実際はモデルに匹敵する女性達の出迎えに留学生達は『大和帝国』側による粋な計らいと思い好印象を受けたのである。
「バスまで我々が案内します。どうぞ我々についてきてください」
先ほど暴徒と化した民衆の弾圧をした現場指揮官の陸軍中尉はキリッとした表情を崩さずに、内心では日本人男子留学生達が穏やかな事にホッとしていた。何しろ『大和帝国』のいや惑星『アース』の男性達の殆どは良く言えばプライドが高い……悪く言えばワガママである。今回の現場指揮官として抜擢された陸軍中尉も何度かその手の男性の相手をしてきたので、大勢の他国の男性が『大和帝国』に来るのだから絶対にトラブルはあると覚悟して男性からの罵詈雑言の嵐になる事も想定していた。
(あれ……思ったより反応が良いわね)
何しろ兵士が挨拶すれば普通に挨拶を返す男性がおり、その反応に女性兵士や警官は自制心で何とか冷静を保っているが、内心では挨拶を返されて嬉しくてテンションMAXであった。
(ああ、そんな純粋な笑みを浮かべて!なんて無防備なの!)
こんな物語でしか登場しない女性の理想を体現した男性が『日本』には多くいるのか?それとも留学生達が特別なのか?
マジで絶滅危惧種……いや、絶滅種の理想の男性が目の前にいるのだ。男性保護訓練で好成績を残し、そこから厳しい訓練を経て今回の任務に抜擢された自分達が今ではこうなのだ。普通の一般民衆が日本人男性を見たら絶対に襲うわと心の中で呟くが、もし彼女の思考回路が彼等たちに分かれば「普通に挨拶を返しただけ」と、首を傾げる案件である。日本人男性の『普通』が、この惑星『アース』では普通ではなく、女性が男性に挨拶しても挨拶を返さないなんてザラにあり、罵声を浴びせる事もあるから余計に嬉しくてしょうがないのである。
女性士官は何のトラブルもなく留学生達をバスに乗せる事に成功した。その後は士官も下士官も軍も警察もテンションが高くなり盛り上がった。
「うぁぁああ!今日ほど軍に入って厳しい訓練を受けて良かったと思った事はないわ!!」
「私も!あんな優しく男性に挨拶を返された事なんてなかったわ!!」
「私なんて無理を言って写真撮りますかって言ったら了承して貰って今でも夢でも見てるんじゃないかって感じよ!」
「本当に!?写真のネガを頂戴!」
「〇〇君の純粋な笑顔の写真よこせ!」
先ほどまでのキリッとした宝塚美人達の集団の面影はなくなっていた。こうして『大和帝国』は『日本』から来た留学生達を無事に送り届ける事に成功して、第一段階は成功と政府高官達はホッと一息をついた。