第二十話 日本人女性達の苦悩と大和帝国国際パーティ1
コザック共和国 首都モルトス モルトス東地区
「どうだ?」
「ダメです。やはり思った通りにガードが硬いです。現時点で今以上の機密レベルに無理に踏み込むと足がついて自分達の裏の顔がバレる可能性が高いですね」
『コザック共和国』の東地区のビルの会議室で会議する日本人達。この日本人男性達も前話(第十七話参照)で話した様に表向き『日本』の商社から派遣されサラリーマンの肩書であるが日本政府から送り込まれたスパイである。
「流石は『ソ連』と酷似した国家だ。まさに鉄のカーテンだな」
初老の日本人男性スパイは感心した様に呟く。
「上質な情報を得ている女性相手にハニトラを仕掛けて機密情報を入手していますが、核心に迫る情報に関しては簡単には掴ませてくれませんね」
「男性慣れしていないから女性と関係を持つことは簡単だが、その上質な情報を得ている彼女達の国家に対する信念は本物だからな」
「ソ連に酷似した国だからな……コザックの政策に不満を持つ奴らが多いと思ったが、思った以上に少なかった。コレも今のコザックの最高指導者のユリーナの手腕の賜物か……」
実際に彼らはコザックの治安の良さや外国人の受け入れ易さに驚きが隠せなかった。本当にこの国は自分達が予想していた『ソ連』全盛期に酷似した国なのかと、初めは疑問に思っていた。まあ、それでも各国同様に男性が珍しい為に彼らは多くのコザックの女性達にいきなり告白されて、結婚を申し込まれて困惑していたが……。
「ただいま戻りました」
「おう、ご苦労」
一人の二十代と若い日本人女性が食べ物や飲み物を詰め込んだ袋を両手に持って会議室に入ってきた。男性スパイがいる様に女性スパイも存在する。その女性スパイは疲労した表情でため息を吐く。
「今回も目新しい情報は入手出来ませんでした。ですが、毎度のことながらこの世界の女性達には参りますよ。惑星アースの女性達の日本人女性に対する嫉妬や妬みの深さには……」
「ああ……色々とすまんな。日本だと問題はないが、この世界だと女性でないと日用品を購入する事も難しいからな」
「それについては仕方ありませんよ。不満はありますが、下手に日本の常識に凝ってボロを出したくありませんからね」
日本人女性スパイはそう呟く。何度も話してはいるが、惑星『アース』での女性が男性と触れ合う機会は極端に少ない。そのため男性と女性の比率がほぼ均一の『日本』では女性が男性と触れ合う機会が多い。そして日本男性が惑星『アース』基準で考えれば好条件に当てはまる男性が多く、その男性が日本人女性は選びたい放題という認識である。
「何で男性の告白を断るのよ!」→惑星アース女性
「え〜と、私には彼氏がいるから……」→日本人女性
「私の好みじゃないし……」→日本人女性
「何でよ!男性の告白やお誘いを断るなんて女性じゃないわ!」→惑星アース女性
「貴女達日本人女性は何様のつもり!」→惑星アース女性
「え〜(困惑)」→日本人女性
この様の会話の様に各国の女性達が日本人女性に対して凄まじいまでの嫉妬や妬みを抱いており、各国との女性達の価値観の違いに困惑している日本人女性が多いのである。
「まあ、この国の女性達はレベル高いのは認めるが……(汗)」
「だけど、愛が重いんだよな……(汗)」
「それな……惑星アースの女性達の噂は聞いていたが実際に体験して驚いたよ。目線が合うなり肉食獣の様な目で結婚してくれって迫られたからな……(汗)」
「美人が多いだけに怖さが倍増しですからね……(汗)」
スパイとして選ばれた日本人男性達の中には結婚している人もいるためコザックの女性達の告白に対して、それを理由にして断ってはいるが、中には本気で愛しているから自分を妾にと迫ってくれる女性達もおり、恋人から一足飛びで結婚して一緒に住もうと言ってくる為に、恋愛に関してぶっ飛んでいると思ってドン引きする日本人男性が多いのも事実である。
「まあ良いじゃないか。この世界の民間も軍事の主力は女性だからな。その女性達が男性に免疫が少ない人が多いから情報を入手しやすい事をメリットと考えれば」
「そうはいいますけど班長。断るコッチの身にもなってくださいよ」
「対応一つミスしたら即国際結婚て怖すぎですよ!」
「あの、男性は女性達の誘いを断ればそれで問題はないですけど、私は常にこの付近の女性達から目の敵にされて殺されかけてるんですが……!!」
女性スパイの怒気の篭った言葉に、日本人男性スパイ達は固まる。何しろコザックスパイメンバーで常に危険に晒されているのは彼女であるからだ。
「男性と一緒に仕事しているだけで何で私が殺されかけなければいけないんですか!?私は今まで生きていた人生で男性と恋人関係にもなった事ないのに!そんな私がどうしてリア充を妬む様に嫉妬や妬みの視線を受けないといけないんですか!?」
「わ、わかった落ち着け!」
「は、班長!今日の活動はおしまいにして一緒に飲みにいきませんか!」
「そ、そうだな。活動に貢献してくれてる彼女を労う様に今日は飲みに行くか」
『コザック共和国』に派遣された日本人スパイ達の苦悩は続く。そして日本人女性スパイの不満は、惑星『アース』で活動している日本人女性達の本音である。どうして本国で男性と行動を共にしただけで、こんな危険な目に合わないといけない!
『日本』だと男性なんて日本人女性と同じ数がいるんだからそんな理不尽なと、それが日本人女性達の本音であったが、男性との接点を持つ事が極端に難しい惑星『アース』達の女性達は日本人女性達に嫉妬せずにはいられないのである。
ーーー
大和帝国 帝都秋桜 大和国際ホテル
山崎と白浜の日本人男性留学生コンビと、天魔高等学園の仲良し三人組と、ユニオンの貴族令嬢の六人は『大和帝国』主催の国際パーティの会場に入場していた。『大和帝国』が誇る自国の名が刻まれた帝都秋桜の中でもトップに入るホテルの数百名が入っても問題がない豪華なパーティ会場に入って国際パーティに慣れていない山崎と白浜は唖然としている。
「戸惑う気持ちはわかりますが、それでもビシッとしてくださいヤマザキ様、シラハマ様」
「あんまり隙を見せすぎますと色々とまずいですので」
そんな唖然としている二人に注意するキャロルと桜。貴族令嬢と武家娘の二人は慣れた手つきで山崎と白浜を守る様にエスコートする。
「やっぱりこういう時は桜は頼りになるよね」
「……私と穂乃果だけだと厳しいからね」
そんな風に感心した様に呟く穂乃果と志野。
「何でだろう。天宮さんがいつもと雰囲気が違う感じがする」
白浜は不思議そうに呟く。
いつもアワアワと慌てている感じが強いと山崎と白浜は天宮桜に対するイメージである。しかし、今はそんな事を感じさせない様に山崎と白浜をエスコートしているから山崎も白浜も別人の様に桜が変わっている様に見えていた。
「……いつもの桜からは信じられないけと、桜はあれでも公家や天皇家と深いつながりがある古い歴史を持っている武家の出身」
「そうなの?」
「……だからこういうパーティには慣れてる」
白浜は桜からは自分が武家の出身ではあると説明を聞いていたが、そんな格式ある家柄の出身だとは白浜も思っておらず驚く。
「それもあるけど、桜だけじゃなくてキャロルも役に立ってるよ」
「キャロルも?」
キャロルが貴族令嬢なのは山崎も知ってはいるが、そこまでの影響力があるのかと驚く。
「認めたくないけど、キャロルはユニオン貴族の名門の中の名門の出身だからね」
「そうですね。名門貴族と格式のある武家のお二人の親密な関係がある男性であれば、下手なアプローチはアークライト家と天宮家を敵に回すも同意。そのため各国の女性達は山崎様や白浜様と親密な関係になりたいのですが、キャロル様と桜様を恐れてなかなか踏み込もうとしません」
山崎と白浜に説明する穂乃果と男性保護警官の隊長であるサツキ。
二人に言われた通り、天魔高等学園の女子生徒や教師達と同様に各国の女性達から熱い視線を感じてはいるが、此方に歩み寄ろうとはしなかった。
「あれがニホン男子……」
「ち、近づきたい。親しくなりたい……!」
「なんて優しい瞳なの……ああ!」
鼻息が荒くて目線が肉食獣なのも天魔高等学園の女子生徒達と同じで、各国の女性達も同じ様に男性に飢えているのかと若干引いている山崎と白浜。
「あまり気にしない方が良いですよヤマザキ様。ニホンを除いて男性との出会いに飢えている女性達が多いのは万国共通ですから……それと私達から離れて一人にならないで下さいね。もし離れたら」
「離れたら?」
「飢えた女性達に捕まって婚約を迫られ強制国際結婚なんてザラにありますよ。実際に私がユニオン主催の国際パーティに参加した時も強制国際結婚された男性がいましたよ」
「……マジ?」
「マジです。ニホン男性は世界各国の女性達から人気があるんですから気をつけて下さいねヤマザキ様」
引きつった表情で信じられないといった様子で呟く山崎に、キャロルは真剣な表情で答えた為に強制国際結婚の話は本当である事を理解した。山崎は、この国際パーティに参加して改めて惑星『アース』の男性問題に対して理解する。実際に山崎や白浜以外に少数ではあるが参加している日本人男性達が各国の美女達に詰めよれて大変苦労しているのが遠目から見て理解できた為に、自分たちは桜やキャロル達のおかげで詰めよられないだけマシかと心の中で山崎は呟く。
『大和帝国』主催の国際パーティは、まだまだ始まったばかりである。




