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転生少女吸血鬼、異世界でも音楽と絵を愛する  作者: 松雨
第2章 吸血鬼と音楽家
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音楽と楽器の町 アルシェル

 あの後、妖精達の所に行って2~3日程留守にする事をすぐに伝えに言ってから、戻って夜になるまで客間で待ち、夜になったら扉の防御結界を解除して必要な食料や絵描き道具、日傘等を持って外に出た。周りを見回してみても昼間来た追っ手の集団やそれに類する存在は居なかったため、休憩を入れつつ暗い森の中色々話ながら走ったり歩いたりしながら進んでいた。


「それよりリーナさん、イルシアさん。寝なくても大丈夫ですか? 私がその間はずっと守りますよ」

「いや、私もイルシアも大丈夫だ。それよりも早くアルシェルの町へ着いてイルシアを安心させてやりたいし……睡眠は町に行ってからでも出来るだろう?」

「まあ、確かに。それにしても、2人共凄い体力……これなら予想以上に早く着きそうですね」


 俺が2人を両脇に抱えて飛んで行く事も提案したが、町の警備兵に要らぬ誤解を与えてしまうかもしれないと言うのと、何よりイルシアさんが未だに強くこちらを警戒しているのもあり、走りや歩きで行く事になったのだが……2人のスタミナが人間を余裕で超えるレベルであった事が分かった。この調子で7時間程度北に進めば、明朝には着きそうだ。


(エルフとか獣人の身体能力の基準ってどのくらいなんだろう。人間を超えているのは確定だとして……)


 そんな事を考えながら周りを警戒していると、茂みから緑色に光る瞳を持った森の狼(フォレストウルフ)が3匹、リーナさんとイルシアさんの方に襲いかかろうとしていたのを見たので、素早く風の球を叩きつけて排除した。概ね狙った場所に飛んで行ったが、1匹には避けられてしまい、イルシアさんの方に向かわれてしまった。


 しかし、イルシアさんに襲いかかって行った狼はリーナさんの鮮やかな短剣捌きによってあっさりと葬られてしまっていた。その間、僅か3秒程である。


「おぉぉ……リーナさん、鮮やかな短剣捌きですね。エルフの方ってどうしても魔導師ってイメージがあったので、意外でした」

「まあ、実際魔法の得意な人が多いから、その認識はあながち間違いでもないぞ。えっと……」

「あ、今更ですね。私、吸血鬼のウィーネル・ルナシーと言います。よろしくお願いします……こちらの事は呼び捨てで構いません」

「分かった。よろしく頼む、ルナシー」


 その後も時折15~30分程度の休憩を挟みつつ、アルシェルについての話や、俺の趣味についての話をしながら向かってくる魔物達を蹴散らしながら進む。驚いたのが、イルシアさんも何気に強かった事である。主に荷物運びと交渉役を受け持っていて、戦闘はあまり得意ではないと言うのを聞いていたので守る様に立ち回っていたが……もしかして、短剣の達人であろうリーナさん基準で戦闘は得意ではないと言う意味なのだろうか。


 と、そこまで良く考えてみたら荷物運びは力仕事である。技術はなくとも、重たい荷物を運んでいる内に色々鍛えられているはずだ。種族が獣人と言う事もあるが故に、あの程度なら力でねじ伏せる事も可能なのだろう。


(そんな2人を追い詰めたあの追っ手の集団、実は相当の手練れだったのか? もしそうなら、戦闘にならなくて良かったかもな。いくら種族のアドバンテージがあるとは言え、手練れは危険だ)


 そうして更に進んで、朝日が出てきたタイミングで森を抜けた。日傘を差し、少し整備された道を歩いて進んで行くと……前の方に大きな城壁に囲まれた町が見えてきた。あれが音楽と楽器の町『アルシェル』なのだろう。


「ふぅ……ようやく見えてきたか。あれがイルシアの故郷であり、お前が気になっていた町だぞ。ルナシー」

「はい、そうですね……でも、私は魔物である吸血鬼です。人間の町にすんなり入れるとは思いませんが……」

「任せておけ。ルナシーには不満かも知れんが、あっさり入れる方法ならあるぞ」

「そうなんですね。なら、お任せします」


 異世界に転生して初めて行く人間の町である上、音楽と楽器の町だと言うのも聞いているため、早く行きたくてたまらない。ただ、今の俺は人間ではなく吸血鬼であるため、町に入れるかどうかが不透明だ。最悪、2人共々敵認定されて戦闘に入る可能性もあるため若干不安になっていると、リーナさんがそんな俺でもあっさり入れる方法があると言った。なので、ひと悶着ありそうなきがするものの彼女に全て任せる事にして、門の前に3人で行った。


 すると案の定、門の前で待っていた他の冒険者や商人らしき人を含むほぼ全員がざわめき、何人かは持っていた剣を向ける人まで居た。本当に大丈夫なのかと思っていたら、1人の特殊な鎧を来た兵士らしき人物がこちらに近づいて来た。その瞬間、何とも言えない不快感を感じたため、思わず3歩後ろに下がった。


(……ヤバいな。この兵士、何だか分からないが嫌な感じがする。戦ったら無傷で済まないかもしれないし、警戒しておこう)


 頭の中でそう考えていると、その兵士がリーナさんに声をかけたのを見た。剣は抜いていないが、彼女を敵だと認定されては困る。なのでいつでも飛び出せる様に準備をしていると……


「おう、リーナ! 今日は一体何の用だ?」

「猫耳の子『イルシア』をここに送り届けにな」

「ふむ、なるほどな。それと後ろに居る、日傘を差した吸血鬼の彼女とは一体どういう関係なんだ?」

「後ろの吸血鬼か? 彼女は私の《《相棒》》で、ウィーネル・ルナシーと言うんだ」


 リーナさんが俺の事を相棒だと、あの兵士にそう言った。と言うか、兵士に名前を覚えてもらえてる程の有名冒険者だったんだと言う事を今知った。それほど彼らにとって印象に残る存在なのだろう。


「……それは本当なのか?」

「ああ。彼女と相棒になったのは最近の話な上に、訳あって別行動しているが、本当だ。私の言う事なら何でも聞いてくれて、魔物の中では断トツで丁寧かつ、性格も穏やかな良い奴だ。実際に危ない所を何度も助けられたりしたしな。それと、一応ではあるがこの町に来る際も、無闇に人を傷つけたり物を壊したりしない様にちゃんと言い聞かせてある。だから安心してくれ」

「……分かった。あんたがそこまで言うなら許可しよう。ただし、何かあれば例え相棒と言えど対応しなければならないぞ」

「当然、分かっている」


 そうして、リーナさんの話を信用した特殊な鎧を着た兵士が許可を出してくれた事により、無事に町に入る事が出来た。その後も周りが俺を見て多少ざわつくが、側に彼女が居るお陰で大した騒ぎにはならなかった。むしろ、普通に子供と接する様に話しかけてくるおじさんやおばさんに冒険者の人まで居たりする位なので、今の所気分良く歩けている。


「と、言う訳だ。勝手に相棒と言って済まない」

「いえいえ、ありがとうございます。それにしても、リーナさんて有名冒険者なんですね。知りませんでした」

「まあ、有名冒険者と言っても実力自体はもっと上の人達が居るし、何よりこの町だけだしな」


 リーナさんとそんな風に会話を続けていると、一軒の古びた民間の前に到着した。彼女に聞くと、どうやらここがイルシアさんの実家であるらしい。


「お母さん……ただいま……!!」

「イルシア!? お帰りなさい! もうお仕事は終わったの?」

「ううん、違うの。ごめんね、クビになっちゃった……」

「……もし差し支えなければ、何をしてクビになったのか教えてくれる?」

「うん……実はね……」


 そうして、庭先で作業をしていた母親にイルシアさんが声をかけると、驚いた様に彼女の名前を呼びながら近寄り、再会を抱き合って喜んでいた。あの様子を見る限り、娘が仕事から帰ってくるとは思っていなかった様だ。


 だから、イルシアさんの母親が彼女に『もうお仕事は終わったの?』と聞いたのだろう。そして聞かれた彼女は母親にクビになった事を告げ、理由やその後受けた行為についても嘘偽りなく全てを話す。すると、目に涙を浮かべつつ、商人に対する怒りの炎を燃やしながらイルシアさんの頭を撫でた。


「辛かったでしょう……もう無理はしないで、しばらくここに居なさい……それと、リーナさんとお隣の吸血鬼さん。うちの娘を助けて頂き……感謝致します。もし良ければ、家でゆっくりしていって下さい」


 その後、俺はリーナさんと共に彼女の実家に招待された。すると、リーナさんが行くと言ったので、相棒と言う事になっている俺も一緒に行く事になった。



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