追っ手との相対、そして人の町へ
「うーん……いくらミスをしたからと言ってその所業、人とは思えませんね。さしずめ人の皮を被った、私と種族は違えど同じ魔物と言った所でしょうか。まあ、自分でそうは言いましたけど、私としてはそんな野蛮な『魔物』と同等かそれ以上の鬼畜を体現したみたいな方々と一緒に考えられたくないので、理解して頂けると助かります」
「当然、分かっている」
館に来た2人の内、『リーナ』と名乗るエルフの女性から簡単に話を聞いた後、エントランスに放置するのは状況からして良くないと感じた俺は、ひとまずまともに掃除してあった客間に誘導して用意してあった椅子に座ってもらい、詳しく話を聞いていた。そうして次から次へと出てくる話に、俺はもはや驚くと言う感覚すら抱けなくなっていた。
とある商人に荷物運びと他人との交渉役として雇われた、リーナさんの知り合いである『イルシア』と呼ばれる猫耳の女の子が、大事な商談でミスをしてしまったせいで商人に損失を与えてしまい、それに怒った商人が彼女に損失の補填をさせた後、クビにしたらしい。
それだけなら損失の度合いにもよるが分からなくもない。だが、後の行動がおかしかった。何せ、この国で罪を犯した者でもないのにクビにした途端、商人が彼女を合法な奴隷と偽装に偽装を重ねて違法に商品として売り始めたが売れず、憂さ晴らしに暴力を振るわれていたみたいだ。
他にも言うのが憚られる程の一線を越える数々の鬼畜行為をされていたみたいで、通りがかって助けた時に泣きながらイルシアさんからそう告白されたとの事らしいが……
その後は商人の繰り出した追っ手から守りつつ何とかこの森に入り、駆け込んだのがこの館であったと言う話を聞いた。
(正直、合法な奴隷とかって言葉にすら元日本人の俺にはついてけねぇのに、偽装を重ねて違法に商品として売るとかマジの胸糞犯罪野郎だろその商人……全て事実だとしたらだが)
俺にはついてけない。現実の話だとはどうしても思えない。リーナさんの話を聞きながら考えていた時に、私達を助けて欲しいと言っていたけど……どうすれば良いのだろうか。そう思った俺は、リーナさんに質問してみた。
「それで、先ほど助けて欲しいと言ってましたけど具体的に何をして欲しいのでしょうか? 逃亡の手伝い、商人もしくは追っ手の撃退か始末、社会的に殺す等、考え付く限りでもこれくらいはありますけど……」
「ではどうにか、イルシアの故郷『アルシェル』までの逃亡を手伝って欲しい」
すると、俺が言った中の1つである逃亡の手伝いをリーナさんが選んでお願いしてきたのを聞いてホッとした。始末を選ばれると、人殺しをしなければならなくなるからだ。
俺や家族同然の妖精達を殺そうとする敵から身を守るためならともかく、初めて会う人の頼みで人殺しなど冗談抜きにやりたくない。そもそも、商人や追っ手がどういう人物なのかを全く知らないと言う時点で不可能だし。
「分かりました。しかし、今は昼間です。日光対策の魔法もまだ不完全ですので私は日傘を差さなければなりませんが……それだと万が一の際に守れないかもしれません。リーナさんの魔力も減っている様ですし、休憩を取らな――」
無理して強行すると危ないから休憩を取った方が良いと言おうとした時、少し乱暴に館の入り口の扉が開かれる音が聞こえた。妖精達はこんな扉の開け方はしないはずだから、これは恐らく……
「ちょっと見てきますね。ここから出ないで下さい」
「ああ、済まぬ」
リーナさんが言ってた商人か追っ手かもしれないと判断した。なので彼女達2人をこの部屋に残して出た後、扉に不完全ではあるが初級よりは強いであろう中級防御魔法の『マテリアリフレクター』を展開、うっかり入られない様に万全の態勢を整えた。
「……なんかヤバい奴が出てきたわ」
「ああ、見た目はガキだがとんでもない魔力の吸血鬼……上位以上は確実だな。しかし……」
そうして俺が出た瞬間、館に入ってきた男2人に女が1人の武装した人間集団が硬直した。限りなく怪しいが、あの集団が本当に追っ手なのかは分からないため、取り敢えず何をしに来たか聞いて様子を見てみるか。
「ようこそ、人間の皆様。私の館に何か入り用ですか?」
「……ここにエルフの女と猫系獣人のガキが来なかったか?」
「エルフの女と猫系獣人のガキ……ですか。確かに来ました。とても美味しそうだったので、捕まえて閉じ込めてありますが……どうしてそんな事を聞くのですか?」
「……猫系獣人のガキは我が主の所有物だからだ。大事な商品だから、出来れば無傷で返してもらいたい。それと、エルフの女は我が主を傷つけたため、この場で斬り捨てて……」
限りなく怪しいと思っていたら案の定、追っ手である事が分かった。しかも、人の事を所有物だの商品だのと言った感じで物の様に扱うあの行動を見て、2人から聞いた話も全て本当だったのだろう。なので俺は、リーナさんとイルシアさんを守るためにあらゆる方法を使う事にした。
「無理ですね、お引き取りください。先ほども言いましたがあの2人は、私の大事な大事な食料なのです。誰にも渡すつもりはありません。それでも諦められないと言うならば、申し訳ありませんが……実力で貴殿方を排除致します」
(て言うか、大事な食料だとか美味しそうだったから捕まえたとか……自分でこんな事言っててなんだかなぁ。まあ、これで退いてくれれば何よりだけど)
そんな事を考えながら追っ手の3人をじっと見つめ、魔力を全て解放して威圧感を出して対峙した。仮に戦闘になったとしても地力の差から俺が死ぬ事はないだろうが、だからと言って油断しまくって突撃するのは良くないだろう。何かとんでもない力を隠している可能性もあるからだ。
「ぐっ!」
「で、どうされますか? 私としても戦闘は避けたいのですが……」
「ぐぬぬ……分かった。諦めよう」
「え!? 主からの指示はどうするのです?」
「上位であろう吸血鬼が食料にすると言っているから達成は無理だ。で、お前の言ってる事はな……俺にアイツに突撃して死ねと言う事だぞ?」
相手を威圧しながら対峙しておよそ1分、遂に相手が折れて諦めてくれたため、何とか命のやり取りをしないで済む事となった。その後、追っ手のリーダーらしき男が仲間を連れていって出ていったのを確認してすぐに扉にを展開し、誰も血を流す事なく撃退する事が出来た。
その後、客間の入り口に張ってあった結界を解除して中に入り、無事に追っ手を追い返した事を伝えると、凄く喜んでくれたので良かった。
「追っ手を諦めさせるためとは言え……貴女達は美味しそうな食料だと言う発言をしてしまい、申し訳ありませんでした。本当はそんな気は全くないので安心して下さい」
「そうか……正直あの発言を聞いて冷や汗かいたが、追っ手を諦めさせるためのものだったと聞いて安心したぞ」
「……怖かったけど、ありがとう」
「いえいえ、気にしないで下さいねイルシアさん」
ただ仕方なかったとは言え、2人を食料だと発言してしまった事への謝罪は必要だろうから、目を見てしっかり言い、何とかそれに対する許しをもらった後に今後についての話し合いを始めた。
ああ言ったお陰で追っ手が諦めて帰ったとは言え、この場にずっと留まっているともしかしたら何らかの表紙で嘘がバレ、第2第3の追っ手がやって来るかもしれないからだ。
「さて、どうしましょうか?……入り口はあそこしかないんですよ。もしかしたら私の発言を疑って、待ち伏せしている可能性もありますし……」
「しかし、それを恐れていてはいつまで経っても解決しない……そうだ! あんたが真夜中に護衛しながらアルシェルの町へ行くと言うのはどうだ? 夜目はある程度効く私も道案内しながら参加したらきっと……」
「なるほど。それしかなさそうですね」
そうして話し合いをした結果、真夜中になった瞬間に館を出て2人の案内の元、アルシェルの町へ向かう事に決定した。
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