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転生少女吸血鬼、異世界でも音楽と絵を愛する  作者: 松雨
第1章 吸血鬼と風の妖精
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厄介事の予感

「何だよ~。昨日の夜の爆発音、ルナシーさんの仕業だったのか~」

「まあ魔王軍侵攻とか、ドラゴン襲撃とかじゃなくて良かったよかった! ハハハ!」

「あら、皆弱いわねぇ。私はルナシーさんの仕業だって分かっていましたので、落ち着いていられましたわ!」

「嘘つけ、お前が1番ビビって慌ててたじゃねーか! 俺が見た限り、落ち着いてたのはフォレナとフィリクとバノヴァス様だけな」


 あの後、息抜きを挟みながら飛行訓練に魔法訓練をやっていた俺は、朝になった瞬間すぐに風精樹の妖精達の元へ向かい、昨日の夜の爆発音の事について謝りに行った。案の定寝ていたらしく、そこそこの数の妖精達が飛び起きてしまっていた様だ。


「睡眠を妨げてしまった方にはお詫びします。申し訳ありませんでした……」

「ええ、貴女の謝罪は受けました。次から夜中にあの爆発音は勘弁して下さると嬉しいわ」

「確かに、あれは流石に冷や汗ものだったしな。昼間はともかく、夜中にあれはキツい」

「勿論、気を付けます。あの魔法はしばらく封印ですね」


 一通りの妖精達に頭を下げ終えた後、館へ帰ろうとした時にいつの間にか居たフォレナに呼び止められた。どうしたのかと訪ねると、俺の住む館に遊びに行きたいらしい。昨日言いそびれてどうしようかと思ったら、今日俺が謝罪に来てこれはチャンスだと思ったみたいだ。


 別にアポなしで来てもらっても妖精達であれば、俺としては全く構わない。魔法訓練に飛行訓練、図書館での勉強は別に皆が居ても出来なくなると言う事はないしむしろ、いつか憩いの場に入れてもらったお礼に、館に招待しようと考えていたからだ。


「良いよ、フォレナ……えっと、他にも行きたい人居ますか? お詫びとお礼も兼ねて招待致します」


 俺がそう言うと、フォレナを含めた7人の妖精達が名乗りを上げたので、彼ら彼女らを連れて館へと戻る事にした。今更思ったのだが、この森に住む妖精の言葉が最初から理解出来たのはありがたい。ただでさえやるべき事が多くて大変なのに、言語の習得などと言う面倒極まりない事をしなくて済んだからだ。


 頭の中でそんな事を考えつつ、矢継ぎ早に来る妖精達の質問に答えているとすぐ、館の上空に到達していた。


「近くで改めて見ると、ルナシーの館って大きいねー!」

「こんなデカイ所に1人で住んでるのか、ルナシー?」

「そうですね。ただあまりにも大きいので、特定の部屋しか使っていませんけど」

「だろうな」


 そうして中に入った後は、観光客に観光地の案内をしてくれる人の様な感じで館の中を案内した。エントランスにあるグランドピアノやパイプオルガン等の楽器群に興味があるらしく、各々触ったり実際に音を出したりしながら楽しんでいた。


 次に、俺がいつも居る場所の1つである地下の極大図書館に立ち入った時、まるで彫刻の様に動かなくなった。無理もない。見渡す限りびっしりと本が本棚に並べられているこの光景、最初に俺が見た時も本当にビックリしたからだ。


「一体何冊本があるんだこの図書館? 俺らが一生かけても読みきれる気がしないぞ」

「あはは……数えた事がないので分かりませんが正直、私も読みきれる気がしないです。何百年単位の時間をかければその限りではないでしょうけど」

「だろうな……ん? おぉ……」


 すると、話の途中で妖精の1人がとある本に視線が釘付けになった。俺が視線の先にある本を手に取って開いてみると、この本は『クーライム皇国の料理集』と言う、この世界の何処かに存在するであろう国の家庭料理から店で提供される料理に、その作り方について載っている物の様だ。


「その本、しばらく貸してくれないか? ルナシー」

「別に良いですよ。それにしても貴方、料理が好きなのですね」

「ああ。暇さえあれば、ここから北の『クッカ』って言う町に行って、調理器具やら材料やらを仕入れて皆に振る舞う位には好きだ。その町でも色々やってるから、お陰でその町じゃ、ちょっとした有名人みたいになっちまったが……ただ料理を作ってただけだぜ?」

「……きっと、貴方の作る料理がプロと同等かそれ以上に美味しいのでしょうね」


(凄いな。ただ料理を作ってただけで有名になったのなら、きっと相当美味い料理を作るんだろう)


 そんなやり取りをしながら軽く地下図書館を見て回った後、最後に館の2階を案内した。流石に寝室は常識で考えて、男の妖精を入れるのはあれだから申し訳ないけど遠慮してもらった。


「今日はありがとうねルナシー! また来ても良い?」

「うん。フォレナ達妖精なら基本いつでも良いよ……まあ、色々やってるからあまり相手に出来ないかもしれないけど」


 姿が見えなくなるまで見送った後に飛行訓練しようと思ったが、もう既に太陽が出ていた上に日光対策の魔法を会得していなかった。なので地下の図書館に、防御魔法の会得とこの世界の知識を得るために向かい、ひたすら頑張る事に決めた。


 時間が経って夜になれば、再び外に出て飛行訓練を主に高空で魔法の訓練を、朝になるまで何回も繰り返して時折休憩を入れながら行う生活を送る事も決めた。


「ふぅ……さて、こっちも頑張りますか!」


 そう気合いを入れ、俺は早速地下の図書館へ向かった。




 ――――――――――




「あぁぁ、流石に10日も外に出ない所か楽器を弾かずに閉じ籠るのはキツい……」


 そんな生活を繰り返して10日、間に風精樹の憩いの場にバイオリンの演奏に行くと言うイベントがあったとは言え、流石に音楽演奏や絵描きを殆んどしないで頑張るのには無理があった。


 ただ、お陰で飛行能力はかなり向上し、防御系魔法も何とか中級が発動するレベルまで仕上がり、風と火属性の魔法のレパートリーもかなり増やす事が出来た。コントロールはまだまだ発展途上ではあるが、幾分かマシになった。この世界についてもある程度の知識を得る事が出来たから、油断さえしなければもう少し行動範囲を広げるのも良いかもしれない。


(……気晴らしに外に行くか)


 それに、これ以上魔法の練習をする気力がない。10日間頑張ったお陰で気力を全部使い果たした。なので、集中力の補給と新しい音楽の参考になる風景があった時に描くため、1階の倉庫に保管してあった魔導書みたいな装いのノートと鉛筆と日傘を手に持ってさあ行こうと扉に手をかけようとしたその時、急に扉がとんでもない勢いで開かれてそれに巻き込まれ、5m程吹き飛ばされてしまった。


「あわわ……ご、ごめんなさい……嘘……吸血鬼!? せっかくここまで逃げて来たのに、死ぬのは嫌だよ……」

「落ち着いて! 妖精の住む森に住んでいるから……きっと優しい吸血鬼だから、殺されないから大丈夫!」

「うぅああ……」


 俺を吹き飛ばして館に入ってきたのは、猫耳の女の子とエルフの女性だった。2人の会話を聞く限り、何かから逃げてきた結果ここにたどり着いてきた様で、猫耳の女の子は殆んど無傷だったが……エルフの女性に至っては致命的ではないものの怪我をしていて、感じる魔力もかなり小さい。ここに来るまでに身体を張って守り通したと言うのがよく分かる。


 ただそれが野良の強い魔物なのか、魔王軍なのか、はたまた人間なのかは分からない。もし俺でも対処出来ない奴なら……冷酷だろうが追い出す事も考えなければならないだろう。


(しかし、猫耳の子の怯え方……一体何をされたんだ?)


 2人を見て頭の中でそう考えながら起き上がり、エルフの女性の方に一体何があったのか、少し距離を取ってから質問する事にした。本当は猫耳の女の子に聞こうかと考えたが、吸血鬼にトラウマを抱いているみたいだからやめた方が良いだろう。初対面の人の心を抉る様な真似はしたくない。


 そう考えていると、エルフの女性が突然俺に渾身の土下座を披露して『私達2人を助けてくれ、最悪猫耳の子供だけでも』とこう頼み込んできた。しかし一体誰から助ければ良いのか等、どういう状況なのかが全く読めないので、俺はこう言った。


「……話を聞く限り、何か火急の事態から逃れてきているのは分かりますが、落ち着いて教えて頂けないとなんとも言えません。 それに、ここに住んでいる私としても対処出来ない厄介事を持ち込まれると困るので、内容によっては冷酷ですが……追い出す事も考えます」

「勿論、承知の上だ。だから、取り敢えず訳だけは聞いてくれ」


 こうして彼女の口から語られたのは、つい最近まで平和な日本で暮らしていた俺にとってあまりにも信じられない、彼女達に降りかかっていた非情な現実であった。



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