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終着駅の恋人 Ⅳ  作者: さつき けい


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12/12

4-12・増える道連れ

今回は少し長めです。


「それじゃ、モーリはもう魔力のせいで具合が悪くなることはないの?」


セリはキシシュに頷いた。


「そういうことになるわね」


セリは、初めてのことにどうしていいか分からず、ただ怯える妖精を宥めた。


「怒っていないわ。 それよりもありがたいくらいよ」


【え、ほんと?】


「今夜はこれで帰ってもいいわ。 また呼び出してもいい?」


【ウンウン】


セリは何とか笑顔を浮かべて妖精の石を袋にしまった。




「セリ、いったいどういうことだ」


サキサが詰め寄るが、セリにも分からない。


「少し考えさせてください」


「あ、ああ」


これは思いがけない収穫かもしれない。


 セリは慌ててメモ帳の束を取り出し、部屋の隅にあった机に向かった。


ペンを握るその姿は誰も寄せ付けず、サキサも彼女にそれ以上声をかけることは出来なかった。




 セリはそのまま、夜の間中、書きものをしていたようだ。


途中からサキサもキシシュも、セリに用意されていた長椅子で眠ってしまっていた。


 朝陽が差し込んで明るくなった部屋に、老婆が入って来る。


「何やら騒がしかったようだが、何かあったのかい」


セリは興奮し血走らせた目で笑った。


「大丈夫です。 治療は無事に終わりました」


「終わった?」


眉間に眉を寄せた老婆に、セリはにこやかに言った。


「はい。 モーリちゃんにはもう魔力はありません」


老婆は驚いてセリの顔を見た。


「何だって?」


「ですから、モーリちゃんの病気の原因である魔力が全て無くなったのです」


キシシュが言った通り、これでモーリは魔力のせいで具合が悪くなることはない。


「詳しいことは書類で提出いたします。


今夜、確認のため、もう一度やりますので、また泊めてください」


セリが勢いよく頼み込むと老婆は「いいだろう」と頷いた。




 ここの子たちはセントラルの病院の子供たちのように上流階級の家の子供ではない。


「むしろ魔力は邪魔になる」


この館の老婆はモーリの件の話を聞いて、セリにそう言った。


貴族などの親から捨てられた子供たち。


容姿に関係なく貰い手がないのは、顔も知らない親のせいで魔力持ちだと疑われているせいだ。


「魔力が無ければ養子に引き取りたいという者はいる」


この街ではなく、他の街なら目立たず生活出来るだろうという事だった。


 そういうこともあり、セリは老婆に残り二人の子供たちの魔力も無くして欲しいと頼まれた。


「もしかしたら将来、魔力を失ったことを後悔するかもしれませんよ?」


「魔力のない者のほうが多いご時世だ。


無くても生きていけるし、知らなくてもいいこともある」


老婆はこの子たちに魔力のせいで病気だったことも、魔力を持っていたことさえ知らせないと言った。


セリはこの老婆自身か、もしくは身内が魔力のせいでかなり苦労したのではないかと思う。


だからこそ、私財で孤児院を経営しているのかもしれない。




 しかしセリは老婆の意見に同意しながらも、一つだけ懸念を示す。


「私は医療従事者です。


病気ではない子供たちに関しては、この治療は行いません」


魔力持ちが嫌われるからといって、病気でもない子供から魔力を吸い取ることはしたくない。


それに、すべての子供から吸い取れるかどうかはまだ分からないのだ。


「なるほどな。 では、この治療のことはわしの胸にだけ収めておこう」


「ありがとうございます」


セリは深く感謝の礼を取った。


 その夜も妖精を呼び出したセリは、残った二人の子供たちの魔力の元も吸い取ってもらう。


【これでいいの?】


「ええ」


ふた月に及んだサウスでのセリの仕事は、これでひと段落となった。




【ありがとう。 美味しかった!】


「いえ、どういたしまして。


でも、一つだけご忠告いたします」


セリは青い髪の妖精を真剣な顔で睨む。


 この妖精は子供の魔力は美味しいものだと覚えてしまった。


「お腹が空いても、勝手に人間の魔力を吸い取ったりしてはいけませんよ」


元来いたずら好きで人の迷惑など考えない種族なのだとイコガに教えてもらっている。


【えー】


妖精は口を尖らせ、怒った顔をする。


「もし、本当にどうしても魔力が吸いたくなったら私に声をかけてください。


きっと何とかしますから」


自分の魔力なら倒れない程度にあげてもいいと思う。


【うーん】


「約束を破ると、先日の魔王様のような方が来るかもしれませんよ?」


小さな声でそう言うと、妖精はブルブル震えだした。


【きゃあああ、分かった分かった】


妖精は慌てて姿を消す。


脅しにイコガを使ってしまった。


セリは自虐的に笑いながら妖精の石を撫で、袋の中へ戻した。




 その後、セリはしばらくの間サウスに滞在し、論文に追加する文章を書き上げた。


「よし、これでいいかな」


上司に見せるために一度セントラルに戻るつもりである。


それを鞄に詰め込んで荷造りを終わらせた。


アゼルからもらった一式については、翌日セントラルに戻ると挨拶に来た本人に返却している。


しぶしぶ受け取ったアゼルから「コガに送りつけとこうかな」という呟きが聞こえたが、セリは聞かなかったことにした。


兄弟喧嘩は勝手にやって欲しい。




 妖精の治療が終わったあの日から、セリは宿の部屋にずっと籠っていた。


食事も部屋で取っていたため、サキサには会っていない。


外出の予定もないので護衛の必要がなかったからだ。


 宿を通して出発の日を伝えたところ、サキサは駅まで送ると言って来たが、何故かその当日も姿を見せない。


セリは孤児院にも挨拶に伺いたかったが、一人で行ってはいけないと言われていたので、お礼の手紙を届けてもらうだけにした。


「お世話になりました」


宿の人たちに挨拶をして駅に向かう。


「んー、良いお天気」


青い空に白い雲、海の青と波の白を目に焼き付け、セリは駅に向かった。




 ふと見ると、駅の前に見知った顔がある。


「あ、おねえちゃん」


荷物を抱えたキシシュがいた。


「どうしたの。 誰かのお見送りかしら?」


銀色の髪と紫の瞳を持つ美少年のキシシュを、大人たちが何度も振り返っている。


「ううん」


フルフルと頭を振ると、一枚の紙と切符を見せてくる。


「これ、お婆さんがセリおねえちゃんにって」


セリは首を傾げながら、とりあえず駅の中に入り、セントラル行きの列車のホームへ向かう。


 いつでも列車に乗れる状態にした後、キシシュも座らせて手紙を読んだ。


「まあ……」


魔力持ちであるキシシュが、セリのような医療者になりたいと言い出したという。


それでセリに力になってやって欲しいという内容だった。


(えええええ、私なんて何の力もないのに)


セリは頭を抱え、チラリとキシシュを見る。


希望に溢れた目をしていた。


「僕、セリおねえちゃんみたいに困ってる子供を助ける仕事がしたいんだ」


「妹のように大切にしていたモーリの傍にいなくていいの?」


そう訊くと顔を背けた。


「モーリはきっとすぐにどこかに貰われて行くよ。


僕がいたら邪魔になるから」


キシシュの顔が暗くなり、小さな声で呟いた。


 とにかく、切符も持っているのだからセントラルまでは一緒に行こう。


向こうで上司に相談しよう、そうしようとセリは決めた。




 列車の発車時間が近づく。


セリはキシシュと共に駅員に切符を見せて乗り込んだ。


「ま、セントラルまではよろしくね」


旅は連れがいたほうが楽しいに決まっている。


「うんっ」


出発までもうすぐという頃になって、誰かが走って乗り込んでくる。


背の高い女性のようだ。


「ふう、間に合ったああ」


少ない荷物を抱えキョロキョロしていたその女性が、セリを見つけてニコッと笑った。


「やあ、セリ嬢。 私もセントラルまで行くんだ、よろしく」


軽装のサキサだった。


「ええええ?」


偶然にしてはおかしいので問いただそうとすると、サキサはなるべく窓の外から見えないように、荷物の影に顔を隠している。


「列車が出発したら話すよ」


と外を警戒していた。




「実は家出してきた」


列車が走り出して一息吐くと、サキサが話し始める。


「はあ?」


どうやらあの宴の後、縁談が殺到したらしい。


サキサ本人もご両親もうんざりするくらいに。


「親が適当に選んで婚約だけでもとか、次から次に会ってみろとか、うるさくてさ」


『静かになるまで修行に行って来る』


と手紙を書き残して出て来てしまったそうだ。


「でも、この際ですし、お見合いもいいんじゃないですか?」


セリが笑いながら言うとサキサは顔を顰めた。


「そりゃ、若くして結婚する女性もいるのは知っているけど。


私はまだ十六だしなあ。


まだまだ遊びたいし、身体も鍛えたいんだ」


まさかの年下だった。


セリの驚きと、キシシュの希望と、家出娘のサキサを乗せた列車はセントラルへと走った。



第四章の終了です。

お付き合いいただき、ありがとうございました。

続きはまた後日になります。

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