第五章 東京都不死区での決闘・その4
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「あ、いま、意識の再接続がはじまったよ。――目をあけるまで、三、二、一」
気がついたら、マーティの顔が目の前にあった。
「よう。痛つつつ」
俺は起き上がろうとして、両腕が動かないことに気づいた。そういえば折られたんだっけ。腹筋だけで身体を起こして、俺は、すぐそばに由真もいることに気づいた。場所は、さっきと同じ不死街のパーツ屋である。
「なんでいるんだ?」
「慶一郎! 大丈夫!?」
俺の質問を無視して由真が訊いてきた。青い顔で俺の胸を指さす。
「その胸、穴があいちゃってて」
「は?」
俺はうつむいて自分の胸を見た。なるほど、穴があいている。ショットガンでぶっぱなされたからな。それにしてもまずいぞ。雑菌が入って表皮の生体組織が壊死したらオーバーホールである。というか、ここにきてからの記憶が全部消えてしまう。これからは、もっと小まめにバックアップとっておかないと駄目だな。
「一応、消毒はしておいたから。あとで抗生物質を射つといいよ」
マーティが右手を上げた。小瓶を持っている。アルコールか聖水だな。
「ありがとよ。おかげで助かった」
俺は立ち上がった。同時に由真が目を見開く。
「慶一郎、本当に大丈夫なの? その傷、貫通して反対側が見えてるんだけど」
「あー、実は、ちょっとショットガンでな。一発弾だったんだろう。それにしてもすごいの喰らったな」
「そんなこと言ってる場合じゃ。ししし心臓が」
「安心しろ、予備ポンプがべつのところに埋まってるから。いま、それが作動してる。――あ、これはバッテリーも予備に切り替わってるな。どこかで断線したか」
アンディードは俺の体内の予備ポンプのことを知らなかったんだろう。それで、俺を片付けたと判断してずらかったらしい。マーティたちは、運よく入れ替わりでここにきたわけか。考える俺を由真が心配そうな顔で見てきた。
「それ、早く病院に」
「大丈夫だ。この状態でも、三日くらいは普通に動けるはずだから」
「僕も同じこと言ったんだけど、由真さん、慌てちゃって」
これはマーティの言葉だった。まあ、普通はそうなって当然か。
「それはいいけど、なんでここにきたんだ?」
俺はマーティと由真に質問した。折れた両腕は――基本骨格はファインセラミクスだから、放っておけば勝手に化学反応を起こしてつながるし、消毒もしてあるから生体組織も自然治癒すると思うが、いまは時間がない。これは本気でパーツ交換するしかなさそうだ。生まれてから十七年、一度もパーツ交換したことのない腕だから実は愛着もあったんだが。いままでありがとうな。俺は両腕の血液循環を停止させた。つづいて組織面、閉鎖。
「ほら、さっき、慶一郎くんと電話してたら、どうも反応がおかしくて――!!」
言いかけたマーティが驚いた顔をした。物理接続を解除して、地面にぼとっと落とした俺の両腕へ目をむける。
「話には聞いてたけど、こうなるんだ。なんで外したの?」
「もう動かないからな。それより、なんでここにきたんだって話だけど」
「あ、そうそう。それは、ほら、さっき慶一郎くんと電話したら、何か様子がおかしかったから。もう少し早く言って欲しかった、とかなんとか。それで、念のために羽佐間シリーズのビーコンで確認したら、学園尞じゃなくて不死街にいるから、あれ? と思って」
「それで、私のところにもマーティからメールがきたんだよ」
由真が説明を補足した。
「ひとりで夜の不死街に行くのは怖いから、一緒にきて欲しいなんて、マーティがおかしなこと言ってきてさ」
「だって僕、白い連中が昼間に通ってるから、なるべく接触しないようにエクス学園の夜間部に通ってるってだけで、由真さんみたいな天然の夜行性じゃないし」
マーティが口を尖らせて言ってくる。なるほどな。由真たちの話を聞きながら、俺は無茶苦茶になってる店内を見まわした。奥の陳列棚に、雁田シリーズの腕がある。あれなら合うはずだ。
「悪いけど、あれ、とってくれないか。いま予備バッテリーで動いてるから、右腕だけでいい。省エネだ」
無断拝借で店の主人には申し訳ないが、いまは言ってる場合じゃない。そもそも俺は、この店の主人の雇ったアンディードに殺されかけたのである。これくらいは慰謝料だろう。
「それにしても、慶一郎くんが不覚をとるなんて驚いたな」
マーティが、少し不思議そうに言ってきた。
「何があったんだい?」
「プロレス技のベアハッグで締め上げようとしたら悲鳴を上げられて、反射で謝りながら手を離しちまったんだよ」
何しろ不死区にきてから、積極的に抱き着かれてばっかりで、こっちから抱き着いて嫌がられるなんてまともな反応、はじめてだったからな。それにしても失敗した。




