第二章 謎の通り魔と遭遇・その3
で、その日の夜。
『宿題終わった? 遊びに行こうよ』
寮に戻り、まさしく宿題が終わったころ、スマホに由真から電話がかかってきた。部屋の窓をあけてみる。鴉天狗やモスマンと、ほうきに乗った魔女たちが空を飛び交う、いい月の夜だった。寮の入口に由真が立っている。真っ赤なTシャツと、膝上までの青いミニスカートという、やたらと露出の高い服装だった。サングラスをカチューシャ代わりにして髪型も変えている。
「早くきなよー」
「大声で言わなくても聞こえてるから」
俺は普通の声量で言い――由真は獣人類で、嗅覚だけじゃなくて聴力も高いから、この程度でも聞こえる――窓をしめた。ユニクロで購入した私服に袖を通す。ちらっと全身を見直して、変なところがないことを確認してから俺は部屋をでた。
「あ、羽佐間、また彼女とデートか?」
廊下を歩いていたら、同じ寮住まいの柳沢が声をかけてきた。顔がニヤけている。
「デートじゃない。ちょっと遊びに行くだけだ」
「へえ」
柳沢が笑いながら俺を見つめた。少しして表情が変わる。――柳沢は、確かDKじゃなくて人間だが、ESP系の超能力が得意だったな。たぶんテレパシーで俺の心を読みとろうとしたんだろう。
その柳沢が悔しそうに苦笑した。
「駄目だ。本気で言ってるのかどうか、わからないな」
「勝手に人の心を読もうとするもんじゃないぞ。それから俺は人造人間だ。そう簡単に思考を読まれるようにはつくられてない。どうしても知りたかったら電脳街のサイバーハッカーにでも頭を下げて頼みこむんだな」
「ちぇ。最近はそういう奴が多いからおもしろくねえよ」
「人のプライバシーが知りたかったら週刊誌でアイドルのスクープ記事でも読め」
柳沢に言い、俺は玄関まで行った。靴を履き替えて外にでる。由真が近づいてきた。口からのぞく牙が白く冴えている。相変わらずの、元気そうな笑顔だった。
「じゃ、行こうよ。今日、不死街のクレープ屋が新作の納豆ヨーグルトクレープだすんだって」
「うまいのかそれ?」
「試行錯誤してつくってるんだから自信あるんだと思うよ。一回食べてみようよ」
言って由真が俺の手をつかんだ。そのまま歩きだす。
「ほら、納豆とヨーグルトって、どっちも発酵食品じゃん? 案外、相性がいいかもよ? それに、不死街の人たちってみんな腐ってるんだから、そういうのって専門だろうし」
「そう言われたら、そうかもな」
適当に返事をしながら、俺は先を歩く由真を見た。カチューシャ代わりのサングラスと、金色の髪の間から、尖った耳が飛びだしている。ミニスカートのなかからはしっぽ。どっちも普段より長めだった。月の夜だからな。獣人類が本性をあらわすには絶好の時間だ。
「ん? 何?」
俺の視線に気づいたのか、由真が振りむいた。
「あ、べつに、特別に何かあるわけじゃないんだけど。ただ、相変わらず、派手な私服だなって思ってさ」
「あ、そう?」
言いながら由真が俺の前で立ち止まった。ちょっと胸を逸らして俺を見上げる。バケツプリンみたいなビッグバストなのに胴はくびれていて、本土の男子学生なら誰もが振りむくような体形だった。一言で表現するなら、肉感的な美少女である。
「実は私、雑誌を見てて、本土のギャルって、こういう格好をするって知ったんだ」
「はあ」
「それで私、成績もあんまりよくないし、結華みたいなお嬢様でもないしさ。だから、自分の路線はこっちかなって思って。それで髪の毛も染めたんだよ」
「ふうん」
「まあ、最初は私もジロジロ見られて、ちょっと恥ずかしかったけどさ。でも、慣れればどうってことないし。変にお姫様みたいな服を着てるより動きやすいし」
「へえ」
「それに私、いま、半分くらい変身してるけど、これが本格的に変身すると、身体が大きくなるから。普通の服だときつくなっちゃうんだよ。だから、いざってときのことを考えると、こういう薄い布のほうが都合がいいんだ」
「ほう」
獣人類にも、いろいろ事情があるらしい。感心して聞いていたら、由真が眉をひそめて俺をにらみつけた。
「あのさ。私の話を聞いてくれるのは慶一郎だけだって前に言ったけどさ。本当に、ちゃんと聞いてくれてる? 私、真面目に説明してるのに、さっきから、はあ、ひい、ふうん、へえ、ほうって、生返事ばっかりで」
「さすがにひいは言ってないだろう。ちゃんと聞いてるよ。ただ、獣人類は着る服が大変なんだなって思ってただけだ」
「あ、そう。ならいいんだ」
言って、由真が笑いかけた。そのまま俺の腕をとる。
「じゃ、行こうか。早くしないとクレープ売り切れちゃうかも知れないし」




