チュートリアル
ゲームの世界にダイブした雲河原神。
チュートリアルの時間です。
真っ白な空間。
「ここはゲームの中なのか?」
俺の身体はどうなっているんだろうか。
周りを見回すことは出来るが、自分の身体を見ることは出来ない。
「New Meの世界へようこそ。今からチュートリアルを開始します。まず、NMの世界でのあなたのアバターを設定してください。現実世界のままの姿を希望しますか? ご自身で設定されますか?」
言葉は聞こえてくるけど、相手は見えないのか。
「自分で設定します。」
新しい自分になりたくて、このゲームを始める人が多いだろうから、ありのままの自分の姿でゲームをする人は少ないんじゃないだろうか? 勿論、自分大好きな人は、そのままの姿なのだろうが。
「それでは、設定メニューを表示しますので、各種設定をして下さい。」
声が終わると同時に、俺の目の前にいくつもの項目と大きな鏡が出現した。
「え〜と、最初の項目はっと?性別か。男性、女性……男性だな。」
少し、女性を選んでみたい気持ちが出て来たが、後で桃木にからかわれそうだったので、男性にすることにした。
「それから、年齢を選ぶのか。実年齢でもいいけど、身体が良く動く全盛期だった20歳っと。」
30歳目前になると、少し若さが羨ましくなるもんだぜ。
「次は、身長か。ん〜俺の身長は172センチだけど、男としては、高い身長に憧れがあるからな〜。せっかくだし180センチにしてみるか。180センチっと。」
現実世界じゃ、こんな簡単に身長は伸ばせないからね。
「うわぁ!?」
目の前の鏡に顔の無い、人の姿が映し出されていた。
これが俺の姿ってことなのか?
「お次は、体型か。痩せてるのも太っているのも嫌だから、普通の体型にしておくか。」
俺は、体型を変化させるスクロールバーを左右に動かして、理想の体型を選ぶ。
俺の予想通り、目の前の人型は、俺がスクロールした時に体型が変化していた。
「髪型は、短髪黒髪から一新して、金髪のウルフカットにしてみるか。」
警察は、未だに黒髪短髪じゃなきゃ上から怒られるからね。
まぁ、中には地毛ですとか言って、茶色に染めている奴もいるけど、俺は立場上、部下に示しが付かなくなるから染める訳にはいかないからな。
ゲームの世界くらいイメチェンしないと。
「目の色も決められるのかよ。……髪の毛の色に合わせて金色にしておくか。」
「顔のパーツか。……こんな感じかな? ……中々いいんじゃないか? イケメンって感じだな。なんかコスプレしてる人みたいだけど。」
他に何項目か設定すると、アバターの設定が一通り終わったのか、俺の身体に初期装備と思われる衣服が付けられた。
上が黒色無地の半袖シャツ、下がジーパンである。
次に選ぶ項目は、このゲームに欠かせない戦闘に関するものだった。
「使用武器を選ぶのか。剣、槍、斧、弓、盾、杖、糸、鎖鎌、チャクラム、扇子、けん玉……なんか武器なのか疑問な物も含まれていたような気がするが……剣にするか。」
俺は、幼少期より剣道を習っており、警察官になってからも剣道を続けているので、使い慣れた武器である剣を選択した。
すると、次の選択項目として魔法属性が表示され、複数の属性が表示された。
「魔法属性は、火・水・土・風・雷から一つを選ぶのか。雷だけレア扱いなのか? ……レアだし、雷にしてみるか。」
一つを選ぶってのは難しいな。
「成長タイプの選択……バランス型、アタック型、ディフェンス型、スピード型、マジック型。」
これは、ネットに書いてあったな、字の如く、バランス型は、レベルが上がるとステータス全体が満遍なく成長するタイプだったな。
「……マジック型を選択っと。」
何事もバランス良くこなせるバランス型もいいけど、面白味がないし、剣と魔法で魔法剣士みたいに戦ってみたいからな。
「職業選択? ……勇者(激レア)。」
なんか凄そうなのが出て来たな。
てか、選択出来るのこれだけなの? 職業選択の自由は何処へ? まぁ、折角の激レアだし、ラッキーなんだろうな。
事前にこのゲームを調べた時に、職業や魔法属性はランダムに抽出されるって運営が言っていたが、これにはかなりの苦情が寄せられていたようだ。
確かに俺の職業は、誰が見ても当たりと思えるものだが、これで職業が村人とかだったらクレームの一つや二つどころか、百は入れたくなる。
これに関する運営のコメントは、「人は生まれながらに平等とは言えない。裕福な家庭の子供に生まれれば、それだけ職業選択の自由があるように、貧困の家庭では職業選択の自由は非常に困難である。生まれる家が選べないように、このゲームの職業や魔法属性も自由には選べないんです。」こんな感じだった。
まぁ、現実世界では確かに生まれる家は選べないが、仮想世界ぐらい自分の好きに職業を選ばせてくれてもいいのにな。
このゲームの謳い文句である、『なりたい自分、理想の自分になれる』と矛盾している気がする。
俺と同じように、そのことについて運営にクレームを投げた人もいたようだが、『敷かれたレールを進む必要はありません。最初の職業が何であれ、なりたい自分は目指せます。』と含みのある回答だった。
つまり、初期の職業が一旦決まるが、何処かで職業を変えたり、又は職業を変える手段があるのだろう。
「最後の設定だ。あなたのNMでの名前を入力して下さい、か。……俺の苗字、雲河原の雲を英語にしたクラウドにしておくか。」
俺はゲームの世界での使用する名前を入力した。
「全ての設定が完了しました。戦闘チュートリアルを起動します。今から10秒後にモンスターが現れます。チュートリアルバトルの初めは、待機モードとなっています。
チュートリアルバトルは、待機モード、バトルモードの2種類があります。
待機モードでは、モンスターは動きません。バトルモードを選択すると、モンスターが攻撃を開始します。モードの切り替えは、待機若しくはバトルと唱えて下さい。また、チュートリアルを終了する場合は、終了と唱えて下さい。」
解説が終わると俺の右手に突如として、石製の片手剣が現れる。
「へぇ〜重さも感じることが出来るのか。凄いな。」
俺は、軽く素振りをして感触を確かめる。
しばらくすると俺の目の前に、木の棍棒を持った、緑色の人型モンスターが姿を現す。
緑色の人型モンスターの上には、モンスターのHPを示すバーが表示され、更にゴブリンと表示されていた。
「まずは、身体を動かしてみるか。」
俺は、片手剣を構えて、ゴブリンへと駆け出す。
「はっ!!」
俺の攻撃がヒットすると、剣で切り裂いたようなズブッという効果音とエフェクトが発生し、ゴブリンのHPゲージが減少する。
効果音やエフェクトがあると、攻撃が入ったのか分かりやすいな。
俺はそのまま追撃せずにゴブリンの様子を見ていると、HPゲージが満タンまで戻った。
まぁ、チュートリアルだから回復してもらわないとな。
ゴブリンが消滅したら直ぐに終わっちまう。
俺は、その後も何度か動かないゴブリンに攻撃を仕掛ける。
「何となく、形になってきたな。そろそろ動く相手とやってみるか。」
俺は間合いを確保して、片手剣を構えた。
「“バトルモード”。」
俺は、いつでも動き出せるようにゴブリンから目を離さない。
「バトルモードを承認。バトルモードへ移行します。」
アナウンスと共に、ゴブリンの瞳に色が宿る。
「ギィーー!」
ゴブリンは、右手に持った棍棒を振りかざしながら俺に近づいてくる。
「遅い!」
俺は、剣先を斜め下に構え、前のめりになりながら、ゴブリンが棍棒を振り下ろすよりも早く、ゴブリンの胴を切り裂く。
「ギィーー!?」
ゴブリンは醜い悲鳴を上げ、HPゲージが減少する。
「まだまだ! はっ!」
俺はゴブリンがダメージを受けている隙に、ゴブリンの脳天目掛けて、勢い良く片手剣を振り下ろす。
「ギギィィーー!?」
ゴブリンは大ダメージを受けたようで、HPゲージが真っ黒になる。
ゴブリンは、地面に横たわり、ピクリとも動かない。
「……おーーい。起きてくれよ。」
「……。」
返事が無い。ただの……
俺の願いが聞き届けられ、ゴブリンは見事復活を果たす。
言い切れなかったぜ。
別に願いが聞き届けられた訳じゃないけどね。
そういう設定だもんね。
「次はダメージを受けてみるか。 来い!」
俺は片手剣を下げて、無防備な状態になった。
「ギィィーー!」
ゴブリンは棍棒を振り上げて、攻撃してくる。
「あっ!? コレ怖くね?」
このまま無防備でゴブリンの攻撃を喰らうのを躊躇った俺は、咄嗟に腕を前に出し、ゴブリンの棍棒を右腕でガードする。
「んっ。」
少し痛みがあり、棍棒を受け止めた衝撃が腕に伝わり、効果音とエフェクトが発生した。
それ程痛みは感じないようだな。
まぁ本物のような痛みを感じたら、ゲームの中とは言え、HPがゼロになるような攻撃をされたら廃人になっちまうな。
「チュートリアルはこのくらいにしておくか。風雅が待ってるし。“終了”だ。」
「チュートリアルバトルの終了を確認しました。これよりクラウドさんをNMの世界へ転送します。……新しい自分をどうか楽しんで下さい。」
チュートリアルが終了し、俺の目の前が一瞬ブラックアウトする。
次に視界に捉えたのは、レンガの建物と、街中を歩き回る人々だった。
チュートリアルも終えて、次回からは、いよいよNMの世界となります。
今回のおまけ
音声:チュートリアルを開始します。
神:見た目の設定からか。ならば、性別女性、年齢12歳、身長130センチ、ちょい痩せ、胸は大きくして、髪は金髪ロング。
音声:うわぁ、変態やんコイツ。
神:武器は鞭にして、属性は、ツンデレかデレデレかドジっ娘あたりに。
音声:そんな属性ありません。
神:仕方ない、色彩属性にして、成長タイプは、なんでもいいや。
音声:次は職業です。
神:えっと、宇宙人、アイドル、変態。……アイドルだな。
音声:チッ! 次はバトルチュートリアルです。
神:掛かって来なさいなのだ!
音声:キモい。
オーク:ブフォ♡
神:え?
オーク:ブフォーー♡
神:いやだーー!
音声:変態にはお仕置きよ。