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義兄妹には憂鬱が似合う ー01ー

「一緒に暮らしているのに、兄妹っていうのはこんなにも会えないものなんですか?」


 柘榴の質問に、芹が困ったように笑う。



◯◯◯



 ゾーイ王子が「あの」柘榴と婚約する……

 そんな噂はあっという間に特別階級だけではなく、城下町にも広がった。

 人々は口々に噂に自分の感想や見識、妄想なんかをくっつけて次の人に話して行く。

 いつしか個人の感想や見識、妄想はさも真実のように語られる。

 その噂にまた新しい感想や見識、妄想が付随して広まってしまうのだ。はら


 その結果。

 「鬼姫が王子を脅した」とか。

 「王子の気を引きたくて自殺未遂をはかった鬼姫に対して責任を取るため」とか。

 事実とは程遠い、とんでもない噂が幅を利かせていた。

 そして鬼姫・柘榴の悪評はますます高まる。


 しかし、当の本人は平和だった。

 柘榴も芹から話を聞いた当初は、いざという時はゾーイを亡き者に、と身構えていた。

 けれど3日経っても正式にそんなお話は来なかった。

 なーんだやっぱり噂は噂!

 柘榴はさっさとそう結論付け、1週間もするとそんな噂があったことすらすっかり忘れてしまった。

 なんせ自室の模様替えという、大掛かりなことをやっていたのだから。

 その間に何人かが柘榴に会いたいと来たようだが、忙しかったので断っていた。


 王子来訪から約2ヶ月。

 ようやく自室も柘榴の好み通りに模様替えできた。

 リボンとレースとフリルとピンク!

 和室に恨みでもあるのか、といいたくなる部屋から、和風モダンに。

 屋敷に引きこもり、頑張っただけのことはある。

 今や芹も「この部屋は落ち着きますね」と入り浸っているくらいお気に入りの空間となった。



 そんな柘榴の部屋にて、ある日の午後。

 柘榴は本を読みながら告げたのが冒頭の質問。

 ハンカチにアイロンをかけていた芹が困ったように笑う。

 ちなみにアイロンは柘榴がやろうとしていたのだが、「私の仕事がなくなります!」と芹が泣きながら懇願したのである程度は手を出さないことにしていた。


「何か理由でもあるんですか?」


 芹の態度がおかしい。

 何かを隠しているようだ。

 柘榴は続けて尋ねる。

 義兄である冬青(そよご)とは、もう2週間も会っていない。

 前世の記憶が戻ってすぐの頃は、柘榴が寝込んでいるのを3日に一度ほどちらりと見に来てくれていた。

 それは見舞いというよりは義務のような態度だったが、それでも柘榴は嬉しかったのだ。

 なんせこの数百年、親しい友人はもちろん家族もいなかったから。

 気にかけてくれている、という行為が。


 それ以降でも数日に一度は、家族での夕食に冬青も参加していたものだ。

 父の仕事を手伝っているとかで、柘榴は冬青と父と毎日一緒に夕食を食べれるわけではなかったが……

 それでもここまで会っていないのは初めてだ。


「実は冬青様は、3日ほど前まで他国に行っておりまして……」

「あらそうなんですか。父様の仕事の関係かしら」

「いえ、ゾーイ王子の付き添いで」


 通りでここ2週間ほど、騒がしくないと思った。

 どういうわけだが、来訪の日よりゾーイは3日に一度は連絡を寄越すようになったのだ。

 王子なので無下に断るわけにもいかない。

 断ったのに外で出会って揉めるのもめんどくさい。

 そのせいで柘榴は屋敷に閉じこもり、「模様替え」を盾にして来客を一切断っていたのだ。

 それがこの2週間ほど連絡がなかったので、諦めたのかと安心していたのに……


「ん?けれど3日前に帰って来てるんですよね?ゾーイ王子からは3日前に連絡が来たし……冬青(そよご)兄様(あにさま)とは会ってませんよ?」

「…………実は」


 意を決した様子で、芹が口を開く。

 それを聞いた途端、柘榴は自室を飛び出した。




「冬青兄様!!!」


 バターーーン!

 柘榴が勢いよく障子を開けると、部屋にいた医者と看護師が驚いたように目を丸くした。

 しかしそれ以上に、和室に置かれたベッドの上で起き上がっていた冬青が驚いた顔をしている。

 普段ならばマナーだとか、鬼姫としてなんたらとか、色んなことを考える柘榴だが全て放り投げた。

 芹が「お嬢様!」と止めようとしているが、今の柘榴には聞こえない。


「冬青兄様、大丈夫ですか?芹からさっき聞いたんです、体調を崩したとか……」


 冬青は元々色白だが、普段よりも顔色が悪い。

 薄紫色の瞳で柘榴を見つめつつ、冬青は何かをいおうと口を開く。

 しかし余りに驚愕しすぎたようで、うまく言葉にならないらしい。


 「冬青様は帰国後、体調を崩したんです」。

 いいづらそうに芹は告げた。

 冬青の体調は随分と悪いらしい。

 かかりつけの医者もお手上げだとか。

 柘榴と冬青は本当の兄妹ではなく、義理の関係。

 兄妹の関係がうまくいっていないことは、四方木(よもぎ)家では誰もが知っていることーーー

 それは前世の記憶を思い出す前の話なのだが、柘榴は積極的に訂正していなかった。

 自分は虫よりも嫌われている。

 わざわざ関係を修正することもあるまい、自分は処刑されたいのだから。

 そう思っていたからだ。


(そのせいで家族なのに義兄が体調を崩していることすら、いってもらえなかったなんて……!)


 そういわれてみれば確かに、ここ1週間ほどメイド達が慌ただしかった。

 普段の柘榴ならば、何かが起こっていることは容易に想像できただろう。

 しかし模様替えハイのようになっていた柘榴は、それに気づいてもいなかった。


 柘榴は義兄の元に近付くと、そっと手を伸ばした。

 熱はあるのか。

 そう思ったのだ。

 頰に触ろうとした柘榴の手を、冬青は勢いよく叩き落とす。

 バシッ。

 鈍い音がして、冬青の部屋には沈黙が走る。



「出て行ってください」



 冬青が冷たい声で言い捨てた。

 薄紫色の瞳には怒りが満ちている。

 切れ長の目で、冬青は柘榴を睨み付けた。


「いま、俺は、あなたに構う余裕がないんです。あなたの酷い言葉を聞き流す余裕もない」

「冬青兄様、私は………」

「うるさい!!!」


 冬青は叫ぶと、ゲホゲホと咳き込んだ。

 呆然としていた医者と看護師が駆け寄り、冬青をベッドに寝かしつける。

 芹に腕を引かれ、柘榴は邪魔にならないようベッドから離れて見守った。


「出て行け、芹、連れて行きなさい!」

「冬青様、話さないで!!」

「誰か!人を、柘榴を部屋の外に、俺の部屋から、連れて行って」


 医者にやめるよういわれても、冬青は続ける。

 薄紫色の瞳だ柘榴を睨み続ける。

 これ以上自分がここにいると、冬青の身に良くない。

 柘榴はそう判断し、自ら部屋を出て行くことにした。



「…………」

「お、お嬢様。冬青様はいま、体調のせいで余裕がないだけです。普段はあのようなことをいいませんよ」


 自室に向かう道すがら、黙り続ける柘榴。

 芹は作り笑いを浮かべ、必死にそう慰める。

 きっと柘榴がショックを受け、今にも泣きそうだと思ったに違いない。

 しかし柘榴は……

 ひっそりとガッツポーズを使っていた。


(冬青兄様からのあの嫌われよう……!ゾーイ王子の好感度が多少上がってしまったか!?と不安になっていましたが、処刑は確実ですね!!)


 きっとゾーイ王子の方も、いらぬ心配に違いない。

 虫よりも嫌われている自分がそんなにすぐに好かれるわけがないのだ。

 柘榴は胸を撫で下ろし、芹に向かってにっこりと微笑んだ。


「冬青兄様に早く良くなってもらいたいですね!」

「ああ、お嬢様……!なんと健気な……!!」


 何故か芹が感動して涙を流していたので、柘榴がちょっと心配になったのはここだけの話である。



第2章です。

今回のメインは義兄・冬青(そよご)と……です。

ブクマ嬉しいです!ありがとうございます!

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