魔女は死を懇願する ー07ー
「〜♪」
ゾーイ王子来訪の翌日。
全てが終わった!と柘榴は上機嫌だった。
その日のうちにゾーイは王を通じ、正式に四方木家に謝罪してくれたし。
それを聞いて、激怒していた父親も表面上は怒りを抑えた。
つまり問題は解決!
これで父のイライラもおさまるだろう!
あくまで表面上だけなのだけれども。
それでも柘榴は安堵する。
鬼族の長・四方木家。
王に匹敵するほどの権力。
一「鬼」当千と名高い戦闘能力の高さ。
そして溢れんばかりの財力。
そんな全てを兼ね揃えている柘榴の家であれ、ヨーク王国に住む限りは王に忠誠を尽くさねばならない。
それはどれほど大きな一族の長であったとしても同じ。
王子からの正式な謝罪を受け、それでも怒り続けるのは得策ではないから。
名の知られた家はその名だけで敵を作る。
柘榴の父はそれを十分よくわかっていた。
四方木家当主である柘榴の父は、見た目も中身も紳士的なおじ様である。
鬼族だけあり、身体はでかいが中身はダンディ。
しかしその実、激怒すると顔が真っ赤になり、見境なく暴走するため「赤の王」「闘神」なんて二つ名があるほど。
激怒して豹変する鬼族は「ジキル博士とハイド氏」とか「超人ハルク」とか、そういう呼び方が似合う。
特に鬼族は一族全体を家族と認識し、仲間意識が強い。
また、芹がいってたのは本当のことらしい。
柘榴は鬼の中では小柄な部類。
赤ん坊の頃から病弱で、大きくなってからも身体が小さく、鬼族としての能力も低いため、父親はそんな柘榴が心配で心配でたまらない。
柘榴が真冬にスイカが食べたいといえばコネと金を使い、他国から取り寄せるほどの溺愛っぷりである。
その結果が柘榴のワガママなのだが……
(私が小柄なのは魂のせいだとは思うんですよね、だってゲームの中の柘榴は結構大柄だったもの)
魂が変われば見た目も変わる。
柘榴の目が金と赤のオッドアイになったように。
元は魔女だった魂が鬼に転生したため、体格もヒトに近いものになったのだろう。
「鬼としての能力が低い」。
これも魂が変わったからだ、柘榴にはわかる。
ヒトや魔女は持って生まれた魔力に知識を追加し、更に魔力を増幅させる。
しかし鬼の能力とは、その圧倒的な腕力。
単純な力比べでは、人狼一族とて鬼族に敵わない。
知識と魔力を駆使する魔女だった柘榴の前世と、鬼の身体は圧倒的に相性が悪い。
(もし戦うことになったらやり方を考えないとね)
まぁ戦うことなんてないのだが。
備えあれば憂いなしというものだ。
それに悪いことばかりではない。
柘榴が病弱で、小柄で、鬼として弱いから冬青は義兄と相成ったという設定もある。
ゲームの世界でも柘榴は幼い頃は病弱だった。
とても十まで生きられないといわれ、柘榴の両親は跡取りとして遠縁の冬青を家に迎えた。
冬青も、四方木家にも、柘榴にもいろいろあるのだ。
生きているからなおのこと、いろいろあるだろう。
不老不死として生きてきた魔女にとって、生きている上での「いろいろある」ことは楽しみでもあった。
柘榴は薄く笑う。
見た目はダンディーなおじ様といった柘榴の父も、激怒するとただのゴリラと化す。
だからこそ一鬼当千と呼ばれているのだが……
柘榴はそれを思い出し、ぼんやりと考える。
(もし柘榴が結婚することになったら、相手の方は大変でしょうねぇ……)
幸か不幸か、そんな未来は訪れない。
四方木 柘榴は化物学園3年の冬に死ぬ。
残酷にも処刑されて。
柘榴を溺愛している両親には可哀想だとは思うが、冬青がいるから問題はないだろう。
身内は愚かであればあるほど、手を焼くものだ。
柘榴の死は皆の救いになるのだから。
それにしたって!
人生は有限!
なんて素晴らしい気分だろう!
「〜♪♪」
上機嫌な柘榴の鼻歌は、もはやライブといっていいほど熱を帯び出す。
最後の晩餐には何を食べようかな〜なんて、柘榴にとっての楽しい未来に想いを馳せていた時だった。
ドタドタドタ!
猛牛が駆け込んでくるのかと柘榴が身構えていると、牛ではなく芹。
柘榴の自室は模様替えの真っ最中。
そのため別の部屋を使っているのだが……
芹の勢いときたら、障子を突き破りそうだった。
「おおおおお嬢様!!!大変です!!」
「ど、どうしたんですか?」
この焦りよう、ただ事ではない。
もしや家族の身になにか!?
それともやっぱり柘榴が転生者だと……!?
「ゾーイ王子が!!
お、お嬢様を婚約者にしたいと!!!」
ははは、ちょっと待って。
想定外の言葉すぎる。
思わず笑ってしまったが、柘榴はだてに何百年と生きていない。
大きく息を吸い込んでから吐き出す。
よし、大丈夫。少し落ち着いた。
できる限り冷静に、そして鬼の姫として優雅に。
ゆっくりとした口調で、柘榴は芹に尋ねた。
「ゾーイ王子は正式に私と婚約したいと、父様に申し込んできたのですか?」
「いえ、それはまだのようです!お嬢様にもお話は来てないですよね!?芹に隠し事ですか!?」
「隠すようなことは何もありません」
(転生してきた魔女だってこと以外は)
いや、そんなことをいってる場合ではない。
柘榴の胸の中で、心臓がどくどくと音を立てる。
まだ正式にいってないということは、「ゾーイが柘榴と婚約したいと思ってる」なんて噂話の域。
今まで柘榴はゾーイを毛嫌いしていたというし、ゾーイはゾーイで柘榴こそがトラウマの原因。
確かに家柄的にも、政治的にも、ゾーイと柘榴が結婚するのはあり得る話ではある。
実際にゲームの中でも「柘榴と婚約する話が持ち上がった時もあった」というようなことを、ゾーイはいっていたはずだ。
(つまりその『婚約する話が持ち上がった時もあった』とは今、ということ?)
ゲームの中では、ゾーイと柘榴は婚約してない。
主人公がふたりの関係を疑うこともあったが、なんせお互いに名前を聞くことも嫌ってくらいに嫌い合っていた。
ふたりの接点はない。
大丈夫。
そう、これは「持ち上がったこともある」ってやつ。
害虫よりも嫌っている柘榴を、ゾーイが婚約者にするわけがない。
万が一……
いや億が一!
そんなことがあったとしても柘榴は悪い評判がありすぎる。
何より柘榴はあろうことかヒトを見下す。
ヒトが人口の大半をしめるヨーク王国の王子と結婚するなんて、国民が許さないはずだ。
そう考えると、心臓の音も落ち着いてくる。
よかった、まさか謝罪したことで好感度が爆上がりしてしまったのかと……
その時はゾーイを亡き者にしようと、柘榴はこの一瞬でその決意を固めていたくらいだ。
(もし本当に婚約されても、国民が怒るでしょうからね。その時は国民の気持ちを煽って革命を起こさせ、柘榴を処刑してもらいましょう!滅ぼすなら国まで滅ぼしてやりますよ!)
とんでもないことを柘榴は思う。
額に浮かんだ冷や汗をぬぐい、ふうっと息を吐いた。
「もし本当でしたら喜ばしいことですね、お嬢様!」
顔を青くしたり白くしたり赤くしている柘榴を見て、何を勘違いしたのか。
芹が「私には全て分かってますよ」とでもいいたげな輝かしい笑顔を浮かべ、親指を立たせた拳を突き出してくる。
「喜ばしい?世界の終末が来たのかと思いましたよ。天使はまだラッパを鳴らしてないようですね!」
「よくわかりませんが……ゾーイ王子でしたら、柘榴お嬢様のお相手にはぴったりです!」
「確かにゾーイ王子は素晴らしい人物ですが、私が彼には不釣り合いでしょう」
「そ、そんなことありません!!」
芹の目に、柘榴の発言はどう映ったのだろう。
恋する乙女の憂いだとでも思ったのか。
メイドはがっしりと、柘榴の肩を掴んだ。
「お嬢様は!!ゾーイ王子にも負けないほど、最高で完璧で正しく、そして優しい!!そんな方です!!だからこそきっと!ゾーイ王子もお嬢様を選ぼうとしているんだと思いますよ!!芹にはわかります!!」
「芹…………!」
柘榴は芹を見上げる。
自分にはもったいない言葉に胸を打たれながら、彼女は優しく微笑んだ。
「お給料の交渉は私には荷が重すぎます」
「下心からいったんじゃないです!!」
ともかく、油断ならない。
柘榴はそう思ったのだ。
そしてその日以降、柘榴の部屋から謎の台詞の練習が聞こえるようになったーーー
聞こえてくる台詞は「パンがなければケーキを食べたらいいじゃない!」。
柘榴の処刑を求めるデイズは始まったばっかりである。
第1章、本編完結です!
ゾーイ視点の話を挟み、次からは第2章!
できれば今日中にゾーイ視点の話も更新したいですね
あと!ブクマすっごく嬉しいです!
ありがとうございます!
元気とやる気が出てます!!
もしよろしければ感想もお聞かせくださると、ニヤニヤしちゃいます