闇夜に踊れ、恋が始まる ー22ー
「………………………………違う」
「いやに沈黙が長いですね」
「違うんだ」
いや、何が?
どこからどう見てもゾーイの顔は真っ赤だった。
元が真っ白だからよくわかる。
しかもゾーイときたら、普段ならば柘榴の発言に対し基本的にニヤニヤと笑っているというのに今は全く笑っていない。
それどころか困ったように唇を噛み、顔を手で隠そうとしているーーー……
うむ。
柘榴はゾーイの手を掴み、引き剥がした。
「おい!」
突然のことだったせいか、それとも鬼族なのでなんだかんだといって力があったせいなのか。
呆気なく顔を隠していた手を引き剥がされたゾーイは、成す術なく真っ赤な顔を柘榴に露にするしかなかった。
「あら。梅よりも真っ赤っか」
「違う、こ、これは…………っ」
「何が違うっていうんでしょう」
「だ、だって、そ、それはだな……っ」
そもそも、何故こんなにもゾーイは赤くなっているんだろう?
怪訝な顔をして柘榴はじっと幼馴染を見つめる。
怒り?呆れてる?
いや、それならばこの表情はおかしい。
(ううん、わかりませんね。こういう時にすべきは観察!)
研究と修行に抜かりのない魔女気質を胸に、柘榴は更に見つめる。
一瞬たりとも変化を見逃さぬよう、じーーーと。
そんな鬼姫からの視線が酷く気まずそうに、視線を外しながらゾーイは告げた。
「ヤキモチだろう…………?」
きょとん、とした柘榴は思わず聞き返す。
「ヤキモチ?」
焼き、餅……?
お餅は美味しいですよね、じゃなくて。
ヤキモチ?嫉妬?誰が?誰に?
柘榴の頭の上にクエスチョンマークが浮かんでいることを察してくれたのか、ゾーイはまず柘榴を指さしてから自分を指さした。
「私、が……あなた、に?」
「俺の隣に自分以外の女が立つのは嫌だといった」
「ええ。はい。いいましたよ」
だって、それは。
純粋にただ、嫌だったから。
例えばお茶会とか、そういう場面で幼馴染であるゾーイやブレイクやアルカードや、冬青と集まった時に自分以外の女性がいることが嫌だと思ったから。
ゾーイの隣は今まで自分が座っていたから。
その場所に。
自分以外の女性が座って。笑って。
ゾーイにエスコートされて。気を遣われて。
ゾーイが笑って。
あのわざとらしい笑い方ではない、あの。
顔をクシャクシャにして笑うことが。
嫌だと思ったから。
それが主人公ちゃんならばまだしも……
そうじゃなければ悲しいし、悔しい。そして寂しい。
寂しいのだ、寂しいと思った。
今晩ここに来たのだってそう。
ゾーイに会えなくて寂しかった。
その感情と同じ。
(やき、もち…………っ!)
一気に体温か気温が10度くらい上がったのではないか?
そう疑ってしまうほど身体が熱くなった。
柘榴は慌てて両手で両頬を覆う。
「わ、私…………っは、はしたないですね……っ!」
魔女として魔術に没頭して処刑され、生まれ変わった。
そこからはもう、ただひたすらゲームや食事やなんだかんだとおひとり様で楽しんできた。
また変なことに巻き込まれ、処刑されては堪らない……とばかりに。
そんなこんなで数百年。
色恋関係、完全に全くもって皆無で生きてきた柘榴にとって、その感情は初めて自覚した「嫉妬」だった。
「あ、あの、あの、す、すみませ、私、ほんと……」
自分でもわかるくらいに熱を持った顔を隠そうとした柘榴の手を、ゾーイがぐっと掴む。
そして、あっという間に引き剥がした。
ついさっき柘榴がやったように。
「見せてくれ、お姫様」
「いや、ちょっと、ま、待ってくださいほんとに!」
さっきのゾーイも、今の自分と同じくらい恥ずかしかったのだろうか。
ああ、やってしまった……!
そりゃ怒ってやり返したくもなる、けれど大人としてこんな情けない顔を見られたくない。
柘榴は顔を逸らし、手を震わせながらも何とか顔の前に戻そうとして必死に隠そうとする。
リベンジだとしても別のことでしてくださいよ!
なんて心の中で叫びながら。
しかし、王子としてそれなりに鍛えているゾーイと数百年間引きこもり。
力で勝てるわけはなかった。
改めて手を引き剥がされると同時に、突き刺さるような視線を感じる。
「…………お前が赤くなってるとこ、見たい」
その声がなんだか切なげに震えているような気がしたので、柘榴は思わず視線を向けてしまった。
自分と同じ真っ赤な瞳が、真っ直ぐにこちらを見ている。
いつも何が愉快なのかニヤニヤと笑っているゾーイとは違う、でも目の前にいるのは間違いなくゾーイで。
何故だか急に柘榴は思ったのだ。
この人は男の人なんだ、と。
「〜〜〜っハハハハハハ!破壊!」
その瞬間、柘榴は夜空に浮かぶ雲を破裂させた。
といっても大きな塊だった雲が小さくなり、夜風に流される速度が速くなったくらいだったが。
「うわ!な、なんだ!?」
「わた、わたし、私…………っ!」
咄嗟に組んだ魔法陣と柘榴の声に驚いたのか、ゾーイは思わずパッと手を離す。
髪どころか、耳まで真っ赤の柘榴は拳を握りしめた。
気恥ずかしさと、戸惑いと、胸の高鳴りと、焦りと、熱さと…………言葉にできない感情がぐるぐると胸の中で燻っている。
「せ、世界壊します!!」
そしてその瞬間、魔女ではなく、魔王が誕生した。
「やめろ」と至極冷静にゾーイが告げる。
柘榴は魔法陣から箒を取り出すと、素早く腰掛けた。
「世界を壊すのはダメですね確かにその通りですね私としたことが一体何を口走ってしまったのでしょうか困りますね!しかし私くらいになれば世界をこの手に収めることは可能というわけです、ええそうなんです、実は可能なんですよ、しかしそんなことはしませんけどもね!」
「柘榴」
「とにかく婚約もしていないのに破棄はなしってことでひとつよろしくお願い致しますですはい!それでは寝る時間がございますのでワタクシはこれで失礼致します!!」
ゾーイに口を挟ませない速度で言い放つと、柘榴は自分が出したテーブルセットなどをまとめて消して片付ける。
そしてにこ、と作り笑いを浮かべた。
「おやすみなさい!私の良きお友達!良い夢を!」
来た時と同じように、ビシ!とゾーイを指差しながらはっきりと言い切り、箒に乗った柘榴は一気に上昇する。
「待てよ」とかいいつつ、追いかけてきていたゾーイは月まで届きそうなくらいに浮上していった柘榴を視線で追いかけた。
まるで閃光のように、一瞬で幼馴染は見えなくなる。
あの鬼の姫。
悪名高き四方木 柘榴ーーー…………
「………………可愛いのは狡いだろう」
ひとりになったゾーイは、誰にいうでもなく呟いて頭を抱えたのだった。
まぶたの裏に鮮明に残ってしまった。
髪と同じくらい真っ赤になって、瞳を潤ませて自分を見る柘榴の顔が。
ああ、こんなことになるはずじゃなかったのに。
初恋とは滑稽なダンスだと誰かがいった。
まだ踊り慣れていないから足を踏んで、転がって、それでも必死に踊り狂う。
まるで喜劇だ、と初恋を済ませた者は笑う。
魔女が散らした雲は月を陰らせる。
その月を義兄が、狼男が、吸血鬼が。
そして王子様が見上げたーーー
さぁ、闇夜に踊れ、恋が始まった。
「ああああ……転生したいぃ……次は山奥で小料理屋をやるんですよ私はぁ……」
そして、魔女だけは布団にくるまって己を恥じていたのだった。
やったーーーー!
第5章はこれで!終わり!です!
(もしかしたらもうひとつ番外編があるかもですが)
長々と!お付き合い!いただき!嬉しいです!!
そしてコメントもありがとうございます(´°̥̥̥̥̥̥̥̥ω°̥̥̥̥̥̥̥̥`)
お返事できてなくてすみません、コメントが嬉しくてまた書こうと思えました……!
ブクマも、評価も、最高に嬉しいです!!
よければ感想などいただければ、めちゃくちゃ頑張れます!!
次は6章です!!




